第13話 ラディの銃・3
「うむ・・・」
ばさりと投げ置かれた「取扱説明書」。
ぱらぱらとめくって流し読む。
「家でしっかり読んでおけよ」
「はい」
「これも必要になる」
店主は「ことん」と小さな瓶を置く。
銃油。
「中の機械部分に使う。部品と部品が擦れる所にこいつを塗るんだ」
「油? 銃を撃ったら燃えませんか?」
「こいつは燃えない油だから平気だ」
「燃えない油ですか」
「説明書に、その銃のバラし方も書いてある。
しっかり読んで、バラし方、組み立て方を覚えとけよ。
頭で覚えるんじゃなくて、ちゃんと手で覚えるんだ。
掃除やメンテナンスの仕方も書いてある」
「はい」
ことん、と大きな革のケース。
「しばらく使わない時は、こいつに入れておけ。
ずっと使わなくても、季節の変わり目辺りで油は塗っておけよ」
「はい」
「裏に射撃場があるから、少し撃ってこい。
引き金は引くのではなく、絞るように、だ。
おっと、弾代は頂くぞ」
「マサヒデさん」
マサヒデの方を向く。
マサヒデはこくん、と頷いた。
「試してきて下さい」
「ありがとうございます」
----------
台にそっと銃を置く。
遠くに的が見える。
台の上の弾薬箱から弾を取り出し、挿弾子に一つ一つ入れていく。
銃を取り上げる。
かちゃ、とボルトを上げ、後ろに引く。
押し込んで弾を入れる。
ボルトを前に押し込む。
「・・・」
これで、引き金を引けば発射される。
銃床を肩に当て、照門を覗く。
照星を的に合わせる。
絞るように・・・
ぱぁん!
「う」
肩に衝撃。
思ったより、高い音。
銃口が跳ねる。が、想像していたほど、高くは跳ねない。
「ふう・・・」
ボルトを引く。
薬莢が飛ぶ。
飛び出た所から、ふわっと白い煙。
火薬の匂い。
転がった薬莢を見ると、薄く煙が出ている。
すー、と息を吸って、止める。
照門を覗く。
ぱぁん!
がつん、と肩にくる。
的には当たっていない。
「ふうー・・・」
ボルトを引き、押し込む。
肩にがつんとくる。少し肩の力を抜いて・・・
ぱぁん!
力を抜いた分、ぐいっと肩が下がる。
がつんとした衝撃が、さっきよりは楽な気がする。
的には当たっていないが、手応えはあった。
「うん」
銃剣を鞘ごと着ける。
これで刃止めを外して鞘を引けば、剣が出る。
構えると、やはり重い。
重くなるけど・・・
ぱぁん!
ほとんど跳ねない。
「うん」
ボルトを引き、押し込む。
最後の一発。
息を吸い込み、しっかりと狙って・・・
ぱぁん!
「・・・」
外れてしまった。
「よし」
ラディの顔に、小さく笑みが浮かんだ。
1発も当たらなかったが、確かに手応えがあった。
もう少し練習すれば、当たるようになる気がする。
銃剣を外し、収めた。
----------
「どうだったかね」
「1発も当たりませんでした」
「ははは。だろうな」
「でも、手応えを感じました」
「ほーう。手応えを感じたか」
「はい」
「金はもらった。もうラディちゃんの物だ」
「はい」
「弾代さえ払えば、うちの射撃場はいくら使ってもいいぞ」
「ありがとうございます」
「では、ラディさん。その銃は一旦置いてきて下さい。
履き物を見に行きましょう」
「履き物?」
「登山ですので、頑丈な物を」
登山。
調査をする場所は山か。
「登山? 兄ちゃん達、早速、狩りに行くのか」
「そんな所です」
「ふふふ。いい獲物が狩れると良いな」
----------
工房。
銃を背負い、袋を抱えたラディが戻る。
マサヒデが戸を開け、ラディが中に入る。
「只今戻りました」
「おかえり・・・ラディ、それ・・・」
「マサヒデさんに買ってもらいました。
今日から、これが私の得物になります」
「買ってもらった? それを? 高いんじゃないの?」
「多分・・・これ置いたら、また出掛けます」
「そう。トミヤス様をお待たせするんじゃないよ」
「はい」
ラディは銃を背負い、袋を抱えてすたすたと奥に入って行った。
ラディの母は、マサヒデに顔を向ける。
「トミヤス様、あれいくらしたんです?」
「全部込みで384枚です」
「え!? き、金貨で?」
こくりと頷くマサヒデ。
仰天するラディの母。
娘の雇い賃が、金貨250枚・・・
さー・・・と顔から血の気が引く。
「ふふふ。秘密ですよ」
マサヒデは、にや、と笑って、口に人差し指を当てる。
「・・・」
「そんな値段のものを背中に背負ってるなんて、驚いてしまいますからね」
「はい・・・」
すたすたとラディが出てくる。
母の顔色が悪い。
「お母様、どうしました」
「なんでもないよ・・・なんでもない。
さ、行ってらっしゃい。楽しんできてね」
「はい」
----------
「ラディさん。旅はほとんど馬か馬車ですけど、歩きで移動しないといけない所もあるかと思います。丈夫な物を買っておきましょう。経費なので、私が払います」
「はい」
「革職人さんの所でもありますよね?」
「あります」
「じゃあ、そちらで選びましょうか」
「はい」
「ご主人様、私は少し先程の鉄砲屋に戻ってもよろしいでしょうか」
「おや。カオルさんも銃が欲しいんですか?」
「銃は要りませんが、皆さんと銃を見ておりましたら、良い物がありました」
「良い物?」
「遠眼鏡です。銃に着ける物なので、小さく、懐にしまっておける大きさです。
今まで銃など全く見ておりませんでしたが、あんなに良い物があったとは」
「ほう?」
「少し上乗せすれば、倍率を調整出来る物まで」
「え? それはすごいじゃないですか」
「値段もそれほど高くありませんし、私の手持ちで十分買えますので」
「分かりました」
「では」
カオルは先程の鉄砲屋まで戻って行った。
「じゃあ、皆さん行きましょうか。
クレールさんも一緒に買っていきましょう」
「私もですか?」
「先程言った通り、歩きで移動しないといけない所もあると思いますから。
悪路では、そんな軽い靴では、簡単に潰れてしまいますよ」
「分かりました!」
「マツさんもいります? 魔術で飛べるから、必要ないと思いますが」
「じゃあ、せっかくだから、私も」
「マサちゃん、私も欲しい」
「あなたは・・・」
と言いかけて、シズクが棒手裏剣を踏み抜いた時を思い出した。
ブーツではなく、安全靴のように、鉄板が入ったものはどうだろう。
かなり重い物でも、シズクなら平気だ。
「ふむ・・・シズクさんの分も買いましょう。
ラディさん、鉄板の入った、安全靴のような物も売ってますかね?」
「はい。ここは職人街です」
「うん。じゃあ、シズクさんはそういうのにしましょう」
「ええ? 鉄板入り? 私はそんなごついやつなの?」
「ええ。試合の時、私の棒手裏剣を踏み抜いたじゃないですか。
あなたの骨、鉄より硬いってわけでもないでしょう。
小さな釘くらいは平気かもしれませんが、罠とか踏んじゃった時の為です」
「あー、なるほど」
「金属鎧の足部分でも良いですけどね。どうします?」
「うーん・・・安全靴でいいや。鎧って面倒なんでしょ?」
「じゃ、決まりですね。行きましょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます