第12話 ラディの銃・2
ラディがそっと銃を持ち上げる。
長さは四尺三寸と言った所。
重さは一貫目(4kg)より少し軽いか。
「ラディさん、銃の扱いは?」
「全くです」
「ご店主、こちらの銃の扱い、教えて頂けますか」
「ふふふ。良いとも」
店主は「ぎし」と椅子を鳴らして立ち上がり、カウンターを回ってラディの横に立つ。手を伸ばし、ラディが持つ銃を取り上げる。
「構えはこうだ。肩に当てる時、変な当て方すると鎖骨折るから気を付けろよ」
肩の前に銃の後ろの部分をくっつけて、左手を中程に、右手を引き金の後ろに置き、人差し指を引き金に。乗せて支えるように持つ。
「さあ、ラディちゃん。やってみな」
ラディに手渡す。
「・・・」
ラディが同じように構える。
店主が刻みのある金具部分を指差す。
「これが照準。先っぽに、小さい三角の出っ張りがあるな。
この刻みと、三角の出っ張りを、まっすぐに合せる。
引き金を引くと、そこに弾が飛んでいく」
「なるほど・・・」
「右手に小さい棒があるな。上に上げてみろ」
軽く上げただけで、かちゃっと上に上がり、まっすぐ上に立つ。
ほとんど力を込めなくて良い。
なんとなく、がっちゃん、と力を込めるイメージがあったが、軽い。
「ん」
「まっすぐ上に立ったな。後ろに引け」
がちゃ。機械部分の中が見える。
「良し。これを上から押し込む」
店主が弾が5発くっついたものを取り出す。
弾の後ろの部分に、薄い板のような物が付いていて、弾がきれいに並んでいる。
ぐっと押し込む。
「こうやって弾を詰めるんだ。
今入れたのは、火薬が入ってない空の弾だ。安心しろ。
前に押し込み、最初と同じように右に倒す」
かち、かちん。
前に押し込むと、軽く棒が右に下がる。
見えていた機械部分が隠れ、しっかりと閉まる。
ほとんど力はいらない。軽い。
「よし。しっかりはまったな。これで、引き金を引くと、ばん! てわけだ。
しっかりはまってから、引き金を引くんだぞ」
かちん。引き金を引く。
これで、弾が飛んでいく。
「なるほど」
「もう一度、同じようにやってみな」
棒を立てて、後ろに引く。
中に入っていた弾が飛び出て、次の弾が入る。
「こうやって、次の弾が入るわけだ」
「これで、5発」
「そうだ。横に飛び出た空の弾に当たらないように気を付けろよ。
火薬で熱くなってるからな。火傷しちまうぞ。
ま、ラディちゃんは治癒師だから、火傷なんて怖かねえな」
「・・・」
立てる。引く。押し込む。倒す。引き金を引く・・・
繰り返し、5発目の弾が、からん、と床に落ちる。
「うん・・・5発」
「1発ずつ入れて射つことも出来る。後ろに引いて」
棒を立て、後ろに引く。
中に、店主が弾を置き、軽く押す。
「こうやって上から1発放り込んで、少し押す。前に押し込み、引き金を引く」
がちゃん。かち。
「後ろに引くと、弾が横に飛び出る」
「そうだ」
ラディの手に、5発の弾がまとまった物を乗せる。
「この、弾を5発まとめる奴は『挿弾子』って言うんだ」
「挿弾子(そうだんし)」
「こいつにこうやって・・・」
かち、かち、かち・・・
「弾をまとめるってわけだ。これもいくつか買ってけ。
実戦じゃ、弾を込めてる暇なんてねえ。
こいつが無くなったら、さっきみたいに1発ずつ撃つしかねえぞ」
「はい」
「何回か試してみな」
後ろに引く。挿弾子を押し込む。前に出す。右に倒す。引き金を引く。
後ろに引く。弾が飛び出る。前に出す。右に倒す。引き金を引く・・・
ラディは何度もその動きを繰り返す。
店主はカウンターに戻り、腕を組んで椅子にぐっともたれ、その様子を眺める。
「うん・・・これが、銃」
「落ちた弾を拾って、こっちに持って来い」
「はい」
落ちた弾を拾い、カウンターに乗せる。
「5発、打ち切ったな」
「はい」
「後ろに引いてみろ」
かちゃ、棒が上がる。
かち、後ろに引く。
「前に押し込んでみろ」
がち。
引っ掛かって、前に押し込めない。
「ん?」
「押し込めないな。5発撃ち終わって引くと、そうやって空いたままになる。
弾を入れると、前に押せるようになる」
「なるほど・・・弾が無くなった、と、分かりやすい。
空いたままになるから、弾も入れやすい」
「そうだ。引き金の前を見てみろ。小さい出っ張りがあるな」
「ん」
「親指で押し込め」
くっと押し込むと、引き金の前の部分かするっと抜け落ちる。
板バネの上下に、鉄板が付いている。
「押し込んだ弾を、そいつが上に送り出す。
撃ちきった時、そいつがほんの少し出っ張って、前に押し込めなくなる」
「なるほど」
「上から見てみろ」
ぽっかりと穴が空き、上から下まで見える。
「もし弾が詰まったりしたら、そいつを抜いて、後ろに引け。
詰まった弾を取り出せる」
「はい」
「じゃ、そのバネを下から押し込め」
すっと入って、小さくかちりと音がして、しっかりはまる。
「それでいい」
そう言って、店主はごとりと短刀を置く。
「その銃の先っぽには、こいつを着けることが出来る」
「この短刀を?」
「その銃、長いだろう。近付かれたら、何も出来ねえぞ。
そいつでぶん殴ることも出来るが、壊れちまったら大変だ。
こいつを着けとけば、もし飛び込まれても刺す事が出来る」
「これを・・・」
ラディは短刀を取って眺める。
鍔の部分に、丸い穴。
柄頭に、小さな穴。
銃の先の方を見ると、小さな金具が付いている。
「こうですか」
鍔の丸い穴に銃口を通し、小さな金具に柄頭をはめ込む。
「良く分かったな。取り外してみろ」
柄を持って、引き抜く・・・が、抜けない。
「ん?」
ぐぐっ。かちかち。
強く引っ張ってみるが、抜けない。
「もし刺さった短刀が抜けちまったら、困るだろう。
簡単に抜けないよう、細工がしてある。柄頭の横を良く見ろ」
「・・・」
小さなボタン。装飾ではない。
よく見ると、薄く隙間が見える。押し込めるようになっている。
柄を握って、出っ張りを押しながら引いてみる。
「抜けた」
「そういう仕組になってるんだ。
結構長いからな。短槍代わりにもなるってわけだ」
「なるほど」
「それを着けたら、当然、先が重くなるな」
「はい」
「先が重くなれば、弾を撃った時、跳ね上がらなくなる」
「なるほど・・・良く考えられています」
「気に入ったか」
「はい」
「これが、キジロウ=ミナミ作の八十三式だ」
「八十三式・・・」
ぽつりと呟き、銃を眺めるラディ。
店主は小さく頷いて、マサヒデの方を向き、にやりと笑った。
ごとりと弾の入った箱をカウンターに置く。
「ふふふ。お買い上げ、ありがとうございます」
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