第4話・電脳と依頼と/3
ミヤコと名乗る女がこの時代にそぐわぬような朗らかな笑みをしてくる。こう言った手合いは大別して2つ、まず1に単なるバカ、昔から理性も知性もなく感情だけでいきるような人間は男女問わずごまんと存在する。身体が大きくなりながら精神の成熟が追い付かなかった末路とでもいうべきか、そしてそう言った手合いは大体空っぽな笑みを浮かべる、人生で必要なものを取り逃し自らの内に閉じ込め損ねたその空虚な笑みとでもいうべきか…無論人の事など言えない、俺も大概虚無側の人間だったから、夢もなにも持たないからっけつ人間…今の方が人生充実してる感があるのはヤバい気もする。
その2、そう言った偽装を己に施している人間、こちらは実に厄介だ、笑みと言うのは本来攻撃的なもの云々言われるが、実際に見ればさわやかだったり愛嬌のある笑顔は他者の悪感情を削ぐ、無論よっぽどひねくれてるような相手であれば侮辱されたとでも思うかもしれないが適切な場で適切に行われた笑顔は基本的に友好的に思われる。だからこそこれを意図的に使い分けることができる人間は厄介この上ない…あるいは天然でそれを出来る人間は。
「んじゃ、ミヤコさん?」
「ミヤコでいいよー?」
「あ、はい」
どうもこちらを勢いに載せてくるタイプらしい、どうもやりにくい。
「そんじゃま、ミヤコさ…ミヤコ」
「何々ー?」
緊張感が…ねぇ――!!
「あー、えっとそれじゃ依頼についてなんだけど」
「それね!聞いてるよー♪連絡来てるもんっ!」
「まぁ、うん…それじゃ取り決めを」
「??」
何やら俺が何を言ってるのか分からぬといった表情を浮かべて、
「取り決め?」
「そりゃ依頼料の分配とかあるでしょ」
「何で?」
「何でって…」
無敵か?あるいはお花畑か?頭が。
「そりゃ報酬は正当に分配しなけりゃトラブルの元だろ」
「………」
「………」
「……ごい…」
「え?」
え。
「すっごーいっ!ちゃんとそう言う事考えれる人なんだっ!」
「ひ、酷くねぇ?」
「でもでも、ミヤコの所来る人ねー、自分がメインで受けたんだから取り分8と2とか普通に言ってくるよー、あ、勿論ミヤコが2側ね!」
「いや、それ酷すぎでしょぉっ……!?」
「酷いよねーっ!場末のボロアパート住んでるようなのがまともなオンミョウジな訳ないって!」
「まぁ…そう言う見方もあるのかな?」
「だからねー、来てくれた人は家に案内してるんだよ!」
そう言って胸を張る、豊満な胸に釘付けになりそうなところをギリギリの気合いで逸らしミヤコの周囲を見渡す。ネットランニング用の機材の山俺はまだこの世界の電子機器には詳しくないので言及は出来ないがそれでも見ただけでどれも高価そうに思えたのだから、見る人間が見れば価値を正しく理解できると思われる。と、言うより何と言うかこの部屋が俺のいた令和の1~2世代前のハッカーの部屋、あるいはレトロフューチャー調SFで良く見られたごちゃごちゃしたハッカーの部屋とでもいうべき装いでもある。
「俺は機材についちゃあんまり理解できないが…どれもいい設備ってところかな」
「うんうん、そう言ってくれて嬉しいね~♪…折角見せてもレイイチみたいにちゃんと理解しようとしてくれないんだよ!」
「まぁ、荒いタイプのロウニンは武力特化でそこら辺分からないってのはよく聞く」
「だからって分からな過ぎるんだよ!」
ミヤコはその形のいい頬を膨らませるようにし、
「確かに後方支援だからやってることは分かりにくいけど、索敵妨害諜報ハッククラック他にも色々やるのがこっちの領分なのそのことを全然分かってない人が多すぎなんだよー!そもそもロウニンになるような人は大抵荒っぽい人だからそこら辺を全部理解して~なんて言わないけど、それでも正当に評価してくれるくらいはあってもいいとおもんだよね!なのにみーんな、後ろの安全圏にいるんだから取り分は削るとか言うんだよ!酷いよねっ!安全圏にいるって言う考え方自体がきわめてアンティーク的な古い考えだって言うのに!今は逆探知の一つで脳みそマル焦げになるかもしれないリスクを都合よく忘れてるんだよね!こっちがサポートしてるって言う事実がまるっと消失してるのっ!この前なんてすごいんだよ!企業への潜入依頼でね!潜入先のドローンとかタレットの防衛機構にアクセスして制御を奪ったんだよ!それなのに契約に無いから加味されないって!もーふざけてるよー!だったらそのまま穴あきチーズみたいになりたかったのーって思うんだよね!確かに契約書は大事だけどそう言った些細な中で細かな心遣いが出来ないって!それじゃ次はもっと手を抜いちゃうぞーって思うんだよねっ!っていうかダッサイよね!臨機応変対応でそれくらいの理解が出来ないって絶対に出世しないよ間違いないもんっ!そもそもこの前敵になったからみーんなこんがりヴェルダンに焼いてあげたんだけどねっ!それはそれとしてやっぱり適正評価を受けないとプンプンなんだよ!…そもそも何で自分が出来ないことを頼みに来てるのにいざ話をしたらそんなの簡単でしょ!タダでやってよって態度なのさー!わーんっ!!」
一息に言葉の濁流をぶつけられ、少しばかり引き気味になる。何だか大変そうですね、ご愁傷様です。
俺としてはミヤコがいい腕をしてればそれでいいのだが。
「おーけーおーけーなら対等にやろうぜ、取り分は6:4、俺が6そっちが4」
「え、いいの!?ほんと!?破格!!」
どんだけぼられてるのこの子…ちょっと不憫になってくる。
「後は細かな作業で多少変動するって事で」
「わーい、レイイチさんちょっとやっさしー!裏とかないよね?罠とか!」
「ないよ!?…って、今の感じだと信用できないよね」
しょうがない、と、2枚チップを取り出す。
「ふえ?これ…インストラクションチップ?行動制御用だよね、アンドロイドかサイボーグでも飼ってるの?」
「ちげーよ…」
そう言って自分の携帯端末を取り出しスロットに差し込む。
「えー、各種契約を記録し、一定行動に対して懲罰が起きるように設定、俺はミヤコに対して適切な報酬の支払いを渋るような場合自分の脳みそが焼けるように設定して…そっちは俺に対し有益な行動をとらないことを設定する、と」
いくつかのプロテクトをかけておく、本職相手には俺の雑なプロテクトなど何の意味をなさないだろうが、それでもやらないよりはましだ、少なくとも相手にはちゃんと警戒をしていると印象が与えられる。信じる必要はあるが、最低限の警戒をしないのはこの世界においてはマヌケと呼ばれることとなる。それはたとえ味方相手であっても。
「どうせ任務中はお互いに直通させるんだ、互いにインプリンティングしようぜ、互いの不利益になるような事はしない…いいだろ?」
「貸して」
そう言ったからチップをミヤコに渡す。受け取ったミヤコが何らかの端末にチップを差し込む、キーボード操作を行い…恐らくチップのスキャン、ウィルスなどが仕込まれてないかをくまなく探している。
「………オールグリーン…何も仕込んでないんだ」
「そりゃね…」
「………そっちのチップも貸して」
俺がインストールする用のチップを指さす。渡す、ミヤコが先程と同じようにキーをたたき何かを操作、時間にして数分程度のごく短い時間でそれは終わった。
「はい」
「ふむ…何が変わったの?」
「契約内容には手を付けてないよ、代わりに行動制御の方に手を加えたの、そっちのプロテクトだといつでも解除できちゃうからね!だからそっちの力で絶対に解除できないようにしてあるよ!」
「なるほどね…いや、待て時限設定の方は弄ってないよな…?あくまで依頼の間だけの関係だ、永遠にこっちをいじくろうってのは無しだ」
「流石にそんなことはしないよ…それで、そっちがわざわざこう言う手まで切ってきたんだから、自分で言ったこと、自分で守れるよね、信じさせたいならインプリンティングしてよ」
そう言ってチップを返してくる。
うむ、俺はミスったかもしれない、こう言うのはもっと仲良くなってからするべきだった、警戒していたつもりでもこの世界の常識に馴染みきれてないミスである。
しょうがない、とそのチップのインプリンティングをするために接続用の端末を取り出し、
「待って…?」
停止をかけられる、
「何?」
「それ……ナニ?」
「えっと、インプリンティングするための端末だけど?」
「………それ型落ち品の超古い奴じゃん!サポートも切れてるハズ!」
「使えるように改造はしてあるからいいの!」
「待って…って事は、埋め込んで内の…?ウェア…?」
「そうだよ、ナノマシンは入れてるけど、それ以外は基本生身」
「うっそぉっ!?外皮系とか入れないで銃の前に立ってるの!?」
「まぁね…いや、一応必殺技的なのはあるよ?」
最近、ナノマシンの動きの制御で出来るようになったとっておきだ。
「ふわぁ…今どき…えっと化石?みたいな人居るんだね」
「悪かったな…そうです、俺は化石ですぅ……」
「あ、も、文句言った訳じゃないから…」
「で、そろそろインプリンティングしちゃっていい?時間の事もあるし」
「あ、だったらこっち使って…」
そう言って俺が使ってるものと同じ接続用端末を手渡してくる。
「………化石じゃん」
「私はオタクだからいいの!技術収集用に買った奴だもんっ!って言うよりそれプレミアついててもおかしくないんだよ?どこで手に入れたの?」
「秘密」
言える訳がない、生まれの廃研究所を漁ってパクってきただなんて…!いや、言っても問題はないだろうが、言いふらす事でもないし。
「ま、いいんだけどね…でもこっちはカスタムだからそっちよりインプリンティング速度が早いはずだよ!」
まったく、信用がないね、自分の物を使わせてもらえないだなんて、だがここで迷っても仕方ない、それを受け取り首に取り付けチップを差し込む、インプリンティングが行われ脳に寄生するナノマシンに書きかけ命令がおきる、これで俺はミヤコに対し報酬を正当に支払う義務ができ、それを履行しなかった場合脳みそがこんがりヴェルダンされるようになったわけだ。
「………」
そんな俺をミヤコが唖然とした表情で見つめてくる。
「何?俺何かおかしい?」
「う…ううん、大丈夫…だよ………るんだ」
「ん?」
「な、何でもないよ!」
そうか、と俺は手を差し出す。
「えっと………」
「握手、依頼が終わるまで頼んだぜ相棒」
その手を少しだけ逡巡するように見つめ、そして意を決したかのように手を差し出し、握ってくる。それを握り返す。
「えっと、よろしく………?」
「おう、改めて俺は零一、よろしく」
「う、うんっ…ミヤコ、よろしく………」
こうして、この依頼が終わるまでの即席タッグがここに出来たわけである。
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