第27話 ウィル様が覚悟を決めています(超カッコイイ)
「さて……アンリエッサ。これからのことなんだけど……」
食事を食べて一息ついたところで、ウィルフレッドがアンリエッサに今後の予定について話し始める。
「僕は領主になったけれど、今のところは名ばかりの領主だ。一つ一つ、やるべきことをやっていかなければいけない」
「はい、その通りだと思います」
「僕達がやらなければいけないことはまずは三つ。拠点の確保、臣下の雇用、資金の調達だ。そして、これらの最初の条件をクリアしたうえで、領地を発展させるという結果を出す。そうやって、初めて僕は領主として認められるはずだ」
今のウィルフレッドが「自分が領主だ。命令に従え!」と口にしたところで、それを従う人間はいないだろう。
国王から与えられた正式な委任状もあるのだが、こんな田舎の辺境の地では国王の名前も通用しない。
『自分が領主である』という威厳ある姿を見せつけて、その上で領地を発展させていかなくてはいけない。
「僕が領主として認めてもらうために、まずはここから始めていこう。この町をもっともっと豊かで暮らしやすい場所にするんだ」
「なるほど、素晴らしい心がけです。ウィル様」
(素晴らしい心がけ……とはいえ、国王陛下の意図をくむことはできなかったようですね)
アンリエッサは穏やかな微笑みを浮かべながら、ウィルフレッドの父親である国王の顔を思い浮かべた。
国王はこのような辺境の土地を領地として与えた。
おまけに、家臣として付けたのはやる気もない兵士が五人。
金は十分に渡してもらっているものの……ここでいう『十分』というのは暮らしていくのに十分という意味。
領地発展の費用としては、とてもではないが足りない金額である。
(国王陛下は、そもそもウィル様が領地を発展させることを望んでいない。ウィル様に本気で領地を任せたいわけではなく、王宮の争いに巻き込まれないように田舎に引っ込んでいてもらいたいだけなのです)
国王はウィルフレッドが王宮での政治争いに巻き込まれ、母親のように命を落とすことを恐れている。
そのため、あえて重要度の低くて発展しづらい土地に領主という名目で送り込んだ。
この場所ならば、他の王子や支持者の貴族も目に留めることはない。王宮を追放された形になった王子を嘲笑うだけで、わざわざ刺客を送り込んできたりはしないはず。
ウィルフレッド・ヴァイサマーはすでに継承争いから離脱している。次期国王となる目は完全に
それを目に見えてアピールするために、あえてこのような寂れた土地に送り込んだのである。
(生活費は毎月、王宮から送られてくる……ウィル様は領主になる必要などない)
そして……最終的には、領地を正しく管理できなかったことを理由にウィルフレッドは王子の地位をはく奪される。
臣籍降下という罰を与えられた形で、自由を手にすることができる。
おそらくではあるが……そういう意図が国王にはあるのだろうと、アンリエッサは予測した。
「ウィル様は……この土地を発展させたいのですか?」
アンリエッサは訊ねた。
期待はされていない……それなのに、本気で頑張るつもりなのかと。
すると、ウィルフレッドはコクリと頷いた。
「もちろんだよ。だって、それが領主の仕事だからね」
当然のことだと言わんばかりに、明るく微笑む。
「わかっているんだ。自分が期待されていないことくらい。だけど、たとえ望んで手に入れた地位じゃなかったとしても……病弱でベッドで寝てばかり過ごしていた僕が、生まれて初めて人のために何かができるかもしれないんだ。だったら、全力を尽くしたいよ」
「ウィル様……」
ウィルフレッドは父親の意図を理解できていないわけではなかった。
理解したうえで、この寂れた町のために何かがしたいと考えているのだ。
(どうやら……状況を甘く見ていたのは私の方だったようですね)
アンリエッサは自らの未熟さに唇を噛む。
ウィルフレッドはすでに覚悟を決めていた。覚悟ができていなかったのは、アンリエッサの方である。
「わかりました……私もこの土地のために全身全霊、できることを全てやってみせます……!」
「うん、ありがとう。でも……無理はしないでね」
ウィルフレッドがアンリエッサの手を取った。
「一番、大切なのはアンリの身体だから。アンリは自分のことを一番大切にしてね?」
「はうあ」
またしても、クリーンヒットである。
アンリエッサは食べたばかりの食事を吐きそうになって、椅子の上で悶絶するのであった。
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