第28話 兵士達が更生したようですよ?

「それじゃあ、とりあえずは領主の屋敷に行ってみよう……あの廃墟をまず、どうにかしないと」


 宿屋から出たアンリエッサとウィルフレッドは、昨日も訪れた領主の屋敷へと向かった。


「拠点は欲しいけど……さすがにあの場所には住めそうもないね。壊して立て直すのが一番だと思うんだけど、資金がないのは困るよね」


 ゴールドリヴァーの町中を歩きながら、ウィルフレッドが「うーん」と考えこむ。

 生活に困らないだけの金は国王から送られてくるものの、屋敷を立て直すにはとても足りない。

 食べるには困らなくても拠点の獲得は難しそうである。


「気になっていたのですけど……そもそも、この町の代官は何をしているのですか?」


 アンリエッサが訊ねた。

 ゴールドリヴァーは王家が所有している直轄地である。

 領地を管理している代官が送り込まれているはずなのだが、領主の屋敷にそれらしい人間はいなかった。


「うーん……そうなんだよね。僕が領主になったこと、それと領地にやって来ることは事前に知らされているはずなんだけど、出迎えにも来なかった。いったい、何処で何をやっているんだろうね?」


 ウィルフレッドが首を傾げる。

 代官というのは領主に代行して町や村を管理する人間である。

 正式な領主が着任することになった以上、代官はお役御免となってしまう。

 当然ながら、引継ぎの義務があるはずなのだが……何故、ウィルフレッドの前に現れないのか疑問である。


「そもそも、代官って領主の屋敷に暮らしているはずですよね? あの場所が廃墟になっていたということはつまり……」


 アンリエッサが言葉を途中で止める。

 そもそも……この町に代官はいないのではないか。

 そうだとすると、王都に定期的に町の状況について報告している人間は何者なのだろう。


「嫌な予感がしますね……」


「ああ……その辺りも、落ち着いたら調査してみようか」


 そんな会話をしているうちに、二人は領主の屋敷跡に到着した。


「え? どうして?」


 ウィルフレッドが目をパチクリとさせた。

 廃墟となった領主の屋敷跡では、二人をここまで護衛してきた兵士達の姿があったのである。


「よーし、運び出すぞー」


「そこ、穴が開いているから気をつけろ」


「この壁はもうダメだな……壊すしかなさそうだ」


 五人の兵士達が何をしているかというと……彼らは屋敷跡の片付けをしていたのである。

 廃墟の中に入って家具や物を運び出し、捨てるしかない物とまだ使えそうな物を選別する。

 さらに、もはや人の暮らすことができないであろう屋敷の壁を壊し、床板を剥がして、解体作業に取り掛かっていた。


「ああ、アンリエッサ様、ウィルフレッド殿下! おはようございます!」


 アンリエッサとウィルフレッドに気がついて、兵士の一人が駆けてきた。

 昨日、慇懃無礼な態度を取ったばかりだというのに……膝をついて、二人に最敬礼を示す。


「宿屋まで迎えにいかず、申し訳ございません。先に作業を始めさせていただきました」


「さ、作業って……」


「屋敷の解体作業です。さすがにこんないつ倒壊してもおかしくない場所に殿下を住まわせるわけにはいきませんので、建物を取り壊していました。一度、更地にしてから新しい屋敷を建設しましょう!」


「まさか……それをやっていてくれてたのかな。僕のために……?」


 ウィルフレッドが感極まったような表情で、涙ぐむ。


「ごめん……僕は君達がもっと不真面目な人間だと勘違いしていた。僕のことも侮っているとばかり思っていたんだけど、全部間違いだった! 本当にごめん……!」


「良いのですよ、殿下。勘違いされるような言動をとった私達が悪いのです」


 兵士の代表者が膝をついたまま、深々と頭を下げる。


「貴方が立派な領主となられますよう、全力でお支えいたします……どうぞ、遠慮なく使ってくださいませ」


「ありがとう……!」


 ウィルフレッドが兵士の手を取り、涙を流しながら礼を言った。

 そんな二人の姿を少し離れた場所から見つめつつ……アンリエッサが冷笑を浮かべる。


(ええ……それでいい。それで良いのですよ……)


 アンリエッサの顔に浮かんでいるのは、ウィルフレッドには決して見せることのない冷たい表情である。


(せっかく、新鮮な身体をあげたのです……しっかりと働きなさい)


 ウィルフレッドは気づきようもないことだが……兵士達は昨日とは別人と入れ替わっていた。

 アンリエッサが兵士達に呪いをかけて彼らの魂を強引に肉体から引き剥がし、代わりの魂を空っぽの肉体に入れたのだ。

 兵士達の体内に入っているのは、未練を残して死亡してその辺りをさまよっていた魂。

 興味がないので名前や過去は詮索していないが、ウィルフレッドに全力で仕えることを条件にこの世に留まることを許していた。


(もしも私の期待を裏切るようなことがあれば、その肉体は没収です。せいぜい頑張ることです)


 兵士達は……彼らの肉体を奪った死霊は全力で働くことだろう。

 そうしなければ、新しい肉体を失ってしまうのだから。

 一度、死を経験したことがある彼らはもう二度と同じ目に遭いたくはないはず。

 文字通りに、死に物狂いで働くに違いない。


(そういえば、あの兵士達の魂は……まあ、良いですね)


 肉体を失った兵士達、ウィルフレッドに無礼を働いた彼らの末路を思い出して……アンリエッサは婚約者の背後で凄絶な笑みを浮かべたのであった。






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【タイトル】

妹ちゃんの言うとおりに戦っていたら王様になりました。無理やり妻にした姫様が超ニラんでくるんだけど、どうしよう?

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