第19話 人を呪わば何とやら

 食事を終えたアンリエッサは着替えを済ませてから、部屋を出た。

 王宮の廊下に出ると、メイドや執事がやけに騒がしい。

 右往左往している使用人の中にバートンの姿を見つけて、アンリエッサは声をかける。


「おはようございます。バートンさん」


「あ、ああ……アンリエッサ様」


 バートンが振り返り、どことなく焦った表情で応じる。


「随分と騒がしいですけど……何かあったんですか?」


「ああ……はい。側妃様の一人が急病のようでして。原因を調査中ですので、王宮の西側には近づかないようにしてください」


 急病。原因を調査中。

 バートンはハッキリと口にしなかったが……おそらく、急病人はエランダ妃であり、すでに亡くなっているのだろう。


(まあ、呪詛は倍にしてお返しするのが基本ですからね。朝まで保たなかったのでしょう)


 ウィルフレッドにかけられた呪いを倍返しにした結果、エランダ妃は亡くなってしまったのだろう。

 自業自得である。申し訳ないとは少しも思わなかった。


「そうですか……それでは、邪魔をしないように注意しますね。ところで、ウィルフレッド殿下のところに行っても構わないでしょうか?」


「ええ、もちろん。アンリエッサ様は殿下の婚約者ですから。私の許可など必要ありませんよ」


「それは良かったです」


「殿下も不安がっておられるでしょうし……是非とも、行ってあげてくださいませ」


 バートンの許可も下りたことだし、アンリエッサはウィルフレッドの部屋に向かうことにした。

 騒いでいる使用人達に背中を向けて、ウキウキと軽い足取りで歩いていく。


「~~~~♪」


 鼻歌を口ずさみながら、アンリエッサはウィルフレッドの部屋に向かう。

 ちなみに、銀嶺は部屋の掃除などの雑事があるので付いてきていない。

 姿を隠した式神は何体もいるが、普通の人間に見えないので令嬢が一人で鼻歌を口ずさんで王宮を歩いていることになる。


(王族や身分の高い令嬢であるならば、あり得ないことでしょうけど……まあ、私には関係のないことですね。そんなことよりも……今日もウィルフレッド様に会えるだなんて、何という幸運でしょう!)


 アンリエッサは驚くほど、自分の心が明るく弾んでいるのを感じていた。

 今生で……否、前世も含めて、ここまでご機嫌になったことがあっただろうか?


(これが恋をするということなんですね……年頃の男女が夢中になり、時には人を刺したり呪ったりするのもわかります……!)


 アンリエッサは前世では呪いの女王として腫れ物扱いをされ、学校に通うことすら許されなかった。

 生まれ変わってからは『魔力無し』として家の恥として扱われており、同年代の男子に会う機会はなし。

 正真正銘、ウィルフレッドがアンリエッサにとっての初恋である。


(ウィルフレッド様のためになら、何だってしてあげたいですね……彼を傷つける人間がいればぶっ殺ですね。彼が王位を望むのであれば、他の王子を皆殺ってあげましょうか)


 物騒なことを考えているうちに、ウィルフレッドの部屋に到着した。

 アンリエッサはドアノブを掴んで、扉を開いた。


「あ……」


「え?」


 初恋に浮かれていたからだろうか……アンリエッサはノックすることなく、部屋に入ってしまった。王族を相手にありえないミスである。


「あ、アンリエッサ嬢? どうしてここに……?」


 部屋の中には、愛しいウィルフレッドがいた。

 ウィルフレッドは目を覚ましたばかりのようで、寝間着から着替えているところだった。

 上半身裸。下半身も下着だけ。日焼けしていない痩せっぽっちの少年の半裸がアンリエッサの網膜に飛び込んでくる。


「ぶふおほっ……!」


 あまりにも刺激の強い光景を目の当たりにして……アンリエッサは思わず鼻血を噴いて、悶絶したのであった。






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