第13話 果実

確実に命中させたはずの拳は空を切り、仮面の男は僕の視界から消える。



何が起きているか理解する前に僕は背中に受けた強い衝撃とともに宙を舞っていた。



 僕等が仮面の男の攻撃により散り散りになってしまった隙に男は箱庭の果実に向けて攻撃する。



 金属を打ち合わせた様な打撃音と鉱石が砕けたような音が全体に響く。



明科さんがすぐに銃撃し果実と男の距離を確保してくれた。



「明科さんありがとうございます。助かりました……。」



 僕の先読みが通用しない……。

逆にこちらの動きが読まれているのか?



しかし確実に攻撃が当たった感触はあった。

これがあの男の能力なのか?



どういった能力なのか皆目見当もつかない。



「ヒルメ君大丈夫ですか!いったい何が…。

傍からみていると男が殴られた瞬間に消えてヒルメ君の背後に現れたように見えましたが……。」



 明科さんからすぐさま無線が入る。



「偶然かもしれませんが僕の先読みが通用しませんでした。拳を当てた感覚はあるのですが……。仮面の男には傷一つ与えられませんでした。

僕の先読みより先を読んでいるか、瞬間移動。

今、可能性として上げられる能力はそれぐらいです。

そうなると僕の能力は奴には通用しないかもしれません。

申し訳ないです……。」



「萱野さんたちの到着を待つにしろ、ヒルメさんの先読みも敵に通用しない状況、数で押し切ることも有効打とは思えませんね。とにかく今は『箱庭の果実』に男を近づけさせないことを第一優先に戦いましょう。」



「私にはあの男が一瞬、消えたように見えた。私の能力で何とかできるはず。」



 ミヨはこの余裕のない状況に反し、淡々と言葉を無線に乗せる。



「僕ももう一度能力を使用しつつどこまで通用するか試してみます。せめて時間だけでも稼げれば……。明科さん、援護お願いします。」



 敵の能力は結局何なんだ?

ミヨの言う通り瞬間移動だとしても拳を当てた感触は確実にあった。



もしかすると僕の拳が当たったこと自体を無かったことにできるのか……?



となると未来に干渉し事実改変を行っていることも考えられる。

だとするととても厄介な能力だ。対策を練らなければならない……。



何にせよやつの能力には僕の能力は通用せず、向こうが圧倒的に有利ということに間違いない。



 遠距離から明科さんに銃撃でサポートしてもらいつつ、接近戦でミヨと連携を取りながら男の隙を窺うのが現状とれる中で最善手だろう。



打開策としてはヤツが次に能力を発動できるようになるまでにミヨの能力を使って捕らえるしかない。



 ミヨの能力は無機物であれば数分対象の時間を止められる。

また、有機物でも対象との距離が半径一メートル以内であれば数秒時間を止めることができる。男に近づきさえできれば一瞬動きを止めることができるはずだ。



その隙を何とか生み出せれば……。



 僕とミヨは明科さんの弾幕を背に仮面の男へ接近する。



ミヨと連携を取りながら攻撃を仕掛けていくも、やはり僕たちの拳は仮面の男には届かない。



 いや、正確には当たっている攻撃も無かったことにされているといった方が感覚的に近い。



 気づけば僕たちの背後にある『箱庭の果実』との距離もどんどん詰められてしまっていた。攻めあぐねているところにミヨから無線が入る。



「そろそろ私の能力がもう一度使える。やるなら次のタイミングしかない。」



 能力が通用しない以上、消耗戦になっては不利なのはこっちの方だ。アクションを起こすなら今しかない。



「わかった。一か八かやってみよう。まず明科さんの弾幕に紛れて僕が攻撃を仕掛ける。何とか隙を作るから、チャンスがあったらすぐミヨの能力でやつの動きを止めて欲しい。明科さん、僕が合図したらもう一度、弾幕お願いできますか?」



理解わかりました。二人ともくれぐれも気を付けて。」



作戦は決まった。



「それじゃスリーカウントで行きます……。



3、



2、


1」



 僕の合図と共に二人で勢いよく仮面の男に接近する。



先ほどと同じように明科さんの銃撃によりできた爆炎の影から攻撃を仕掛ける。

さっきとは違い時間が止まっているわけではない。



やけどするような熱さを背中の羽根から感じる。

先読みが通用しないことを考えるとこの男との接近戦はそう長く持ちそうにない。



そう思っているとミヨが僕の視界に写った。



「今だ!」



 体感でいうと1秒も満たなかったかもしれない。



仮面の男の動きは一瞬静止し、そこにすかさず僕とミヨは拳をぶつけた。

男は思いきり後方へ吹き飛び、その身に着けていた仮面が大きく宙を舞う。



砂煙の中、男は立ち上がると続けてこう言った。



「二人とも、見ないうちに随分と強くなったようだな。」




……剥がれた仮面の先には見覚えのある顔があった。


 

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