第12話 激闘
先に到着していた警官らが血を流し倒れている。
既に息はない……
明らかに能力を使用したであろう痕跡が残っている。
「先を越されたか……。」
係長が苦い顔を浮かべる。
「これはちとまじぃね……。」
穂結先輩がつぶやく。
壁の所々に血しぶきがかかり、足元には血だまりができていた。
血の滴った跡が原形がわからなくなるまで壊された扉の奥の保管所内へと続いていた。
「は、早く保管所内へ急ぎましょう……。」
奥から地響きのような重低音が聞こえる。まだ戦闘を行っているようだ。
急がなければ。
係長を先頭に僕たちは地下へと続く階段を下っていく。
規則的に響く打撃音に不気味さを覚える。
降りた先には地上の東京からは想像のつかない光景が広がっていた。
木々が生い茂り、その光景は神社や仏閣にも似た神聖な空気を感じた。
肉体がぶつかり合う激しい衝突音と視界の端に捉えた影の方向に視線を持ってく。
そこには公安の刑事と思わしき人達が犯行グループとみられる黒いコートをまとったジェネリック数名と戦闘を行っていた。
黒ずくめの集団はいずれも固有能力持ちのようだ。
どちらが劣勢か聞かずともすぐに理解できた。
「よくここまで耐えてくれた。ここからは俺たちに任せて地上へ避難を!」
虫の息の刑事たちに係長が声をかける。
すかさずマヒトさんと穂結先輩が敵勢へ攻撃を仕掛ける。
飛び出していく二人の後ろで刑事の介抱をしながら係長が叫ぶ。
「チッ。勝手に動きやがって……全員、能力の使用を許可する。
思いっきり暴れてこい!」
「「了解っ!」」
その号令とともに僕達の制御装置はシャットダウンを始め二人は能力を解放させる。
「ここは俺たちで何とかする。ヒルメ、ミヨ、明科さんはこの先にある『箱庭の果実』の安全確保を頼む!」
「わかりました。」
僕たちはそう答えると施設の奥へと続く道を走った。
行き止まりまでたどり着くとそこには周囲の樹木よりも一際大きな樹が生えていた。
「これが『箱庭の果実』?」
僕がつぶやくと明科さんがその根元を指さす。
「根元の方を見てください……。地面を抉って盛り上がっているでしょう。」
その言葉の通りそこには巨大な根に絡まった大きな琥珀色の結晶があった。
「あれが『箱庭の果実』……。」
薄暗い地下でわずかな光を反射させ怪しく光るそれに思わず僕は見惚れてしまっていた。
「伏せて。」
ミヨが急にそうつぶやく。
その直後、頭上から瓦礫が降ってくる。
爆音と共に周囲に砂埃が撒き上がる。
「上か!」
僕たちが見上げた先にはやはり先ほどのジェネリックたちと同じ服装の男が立っていた。
フードを目深にかぶり仮面をつけていて素顔はわからない。
「何者だ……?」
おそらく、あいつが仮面の人物ということになる。
体格はかなりがっしりとしていて身長も高い。
男性なのか……。
少なくとも、これでミヨの疑いは晴れたということになる。
残るは穂結先輩だが、彼は今も入り口で戦闘を続けているはずだ。
となると他の係のメンバーの誰なのか?
二人の疑いが晴れホッとする暇もなく仮面の男は攻撃を仕掛けてくる。
男は保管所の天井から体を一回転させ、足でその天井を蹴った。
速い。
向かってくる拳をなんとか腕でガードするも、敵の勢いは凄まじく、
すぐに壁まで跳ね飛ばされて激突する。
「ヒルメさんっ!」
続いて仮面の男は、一瞬動揺した明科さんを蹴り飛ばす。
すぐさま標的をミヨに変え、拳を繰り出す。
二人とも僕と同じく男の攻撃をまともに受けてしまった。
僕は壁にめり込んだ腕を強引に引っ張り出し、隊服で口から滴り落ちる血を拭う。
「……さすがに痛いな。皆さん大丈夫ですか。一度陣形を立て直します。」
とにかくヤツを無力化しなくては。
早急にばらけた陣形を立て直すため、二人に合図を送る。
合図とともに一斉に能力を最大まで解放する。力がみなぎる感覚。
背中に生えた羽根で縦横無尽に移動し相手の行動を先読みする。
相手の攻撃を避けつつ指示を出しながら自分や味方の攻撃を的確にヒットさせる。
これが僕の戦闘スタイルだ。
僕は地面を蹴り、仮面の男へ突進する。
明科さんがその能力により無数の銃を出現させ、一斉に射撃をする用意を行う。
「明科さん。九時の方向に弾幕頼みます!」
仮面の男はまもなくその位置へ移動する。
行動の先を読みつつ無線で指示を出す。
「ミヨっ!」
明科さんの弾幕により男が体勢を崩した所にミヨの能力で上がった爆炎や砂煙の時間を止め、視界を妨害する。
すかさず煙でできた死角から僕の拳を仮面の男に叩き込む。
男は地面に倒れこむ
──はずだった。
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