第11話 狼煙
係長が喋り終わるのを待たずしてデスクを取り囲むミヨや穂結先輩を掻き分け、
机上の手紙の内容を見る。
そこにはA4サイズの紙に新聞の切り抜きを組み合わせ
『本曰、東京地下ニ保管さレてイル『箱庭の果実」を爆破スる』
と書かれていた。
目の前にある不気味な文字列を上手く処理できず頭が真っ白になる。
思考が置いて行かれないように急いで脳みそを回転させる。
……イタズラにしてはタイミングが良すぎる。例の能力者集団の仕業なのか……?
それに『箱庭の果実』の保管場所についても知っているような口ぶりだ。
となると仮面の人物もしくは別の内通者が特殊能力研究所内に存在していることはほぼ確実になる。
二係に送られてきているということはもしかして僕が二係の内部調査をしていることがバレてしまったのか……?
だが調査が行われることが分かったのはついさっきだ。
二係のメンバーにその情報を前もって知っていた人物はいないはず。
ということは恐らくミヨと穂結先輩が仮面の人物である可能性はぐっと低くなるはずだ……。
では一体、誰が……。
フル回転している思考が答えを出す前に係長がみんなに指示を出す。
「伊讃美、研究開発室に連絡を。明科さんは他の対策課に連絡。連携を取りつつ至急、厳戒態勢で『箱庭の果実』の護衛を行う。」
僕たちは戦闘のための準備を行い、急いで『箱庭の果実』が保管されている地下へ向かった。
移動中、車の中では殺伐とした空気が流れていた。
「今回の調査は研究所内のみでの調査だったが、この緊急事態だ。
俺の独断ではあるが神代さんに応援を要請してある。警官や公安の刑事が既に現場へ到着しているはずだがまだ連絡が取れない状態だ。保管場所までの道中も細心の注意を。やつらは能力を使用してくる可能性が非常に高い。
すぐに戦闘体勢を取れるように準備しておけ。」
係長の険しい表情が事の深刻さを物語っている。
この事態を引き起こしているのは恐らくかの能力者集団と考えるのが妥当だろう。
そしてその目的は「箱庭の果実」の爆破……。
「箱庭の果実」が破壊され、「律」が消失してしまえば世界に訪れる混乱は計り知れないものがあるだろう。
国家間のバランスが大きく崩れてしまう事態になりかねない。
また戦争が始まってしまう可能性だって大いに考えられる。
それだけはなんとか防がなければならない。
調査の中で想定していた犯行とはスケールが一回りも二回りもズレがあった。
最悪の事態を考えて動いていればもっと早く気付くことができたのかもしれない……。
自分の物事を捉える視野の狭さに腹が立つ。
しかし、今は自省している暇だってないのだ。
完全にミヨや穂結先輩を黒だと断定できないだけで、確かにこの特殊能力研究所内に仮面の人物は存在している。
それにとうとう例の能力者集団が『箱庭の果実』を爆破しようと動き出したのだ。
何としてでも食い止めなくては。
しばらくすると保管場所に到着する。
そこにはあまりに凄惨な光景が広がっていた……。
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