第9話 疑念
J ― 01と書かれたファイルボックスを手に取る。
するとそこには
『ジェネリック研究記録 No.01:穂結ユウ 編集者:尊ナキ』
と書いてある分厚いファイルがあった。
「ここにも父の名前がある……。穂結先輩の研究担当だったのか……。」
中を開いてみる。
二〇〇〇年 東京都 小金井市にて発見。
当時十歳。
自身の能力が発現し制御不能になっているところを近隣住民からの通報により保護。
保護の際、駆け付けた警官や保護活動を行おうとした自衛隊数名が怪我。
また、保護の前年に両親は爆発事故に巻き込まれ死亡。
両親の没後、爆発事故を起こした研究所に両親が務めていたことによる近隣住民からの嫌がらせにより家に帰らなくなる。
立ち入り禁止となっていた爆発後の元研究所の敷地内に身を潜めていた。
発見時の彼はひどく憔悴しており脱水症状や栄養失調の症状あり。
保護の後に行った検査で身体能力や治癒力に関して同年代の基準値をはるかに超えることが判明。
またネイティブとは違い「律」の存在を認知しておらず、
「律」の制約を無視し能力を使って一般人に危害を加えることが可能であることからネイティブとはまた違った生物の可能性がある。
戦後、五十五年間、私たちが強制的に守らされ、そして私たちの平和を守ってきた我々人類とネイティブの交わした制約を完全に無視した存在であることが考えられる。
早急にこの力をコントロール可能にしなければ我々人類は彼のような存在により淘汰されていく可能性が考えられる。
現状判明している要素から彼は現人類が進化した存在なのかもしれない。
人類と同じ姿形なのにも関わらず、人類よりもはるかに優れた存在というところからジェネリックと命名することを規定。
穂結ユウ。彼をジェネリック第一号とし、研究開発室で研究を続ける。
……
といったような情報がまとめてある。
その他にも穂結先輩についての研究内容が大量に記載されていたが、
専門用語が多すぎてなかなか理解できない。
穂結先輩が対策課発足当時から所属していたことは知っていたが
初めてジェネリックとして発見されたことは初耳だ。
しかも研究に父さんが関わっている。さすが現所長と言ったところか。
僕たちが今身につけている制御装置も父が開発したものだと幼い時に聞いたことがある。
もし先輩が当時の差別や嫌がらせをしてきた近隣住民や制御装置開発のため第一号のジェネリックとして研究対象にされ続けてきたことで周囲の人間に恨みがあるとすれば仮面の人物として能力者集団に手を貸す動機になり得るのか……?
だが今の穂結先輩にそんな様子は一ミリも見受けられない。
二係内にいる時以外ほとんど行動を共にしている。
それに短い時間だが一緒に過ごしてきた身としてそんなことする人間だとは到底考えられない。
少し気になってパソコンで他の人の情報も調べてみる。
係長、明科さん、飴野さん。この人達の経歴には特に閲覧制限はかかってないようだ。
「…なんでミヨと穂結先輩の情報だけ閲覧制限がかかっているんだ?外に持ち出されると困ることがあるのだろうか…?」
一連の情報で気になるところと言えば
穂結先輩の両親が亡くなるきっかけになった研究所の爆発事故である。
死人が出るくらいの爆発事故なら僕でも知っていそうなものだがそんな話は聞いたことがなかった。
直接的には関係ないかもしれないが後で調べてみるか……。
しばらくデータベース内や爆発があったであろう二十年前の情報がまとまっている棚を中心に探してみたが研究所の爆発事故に関する資料は穂結先輩の研究記録以外には記載されていない。
「ここではこれ以上の情報は得られないか……。」
資料室内に保管されている当時の捜査資料や新聞記事を一通り漁ったがそれらしい情報は掴むことはできなかった。
僕の知らない二人の一面が垣間見えたが
二人とも現段階では証拠となりそうな情報はない。
少しホッとして胸をなでおろす。
しかし、二人とも仮面の人物ではないとしたらいったい誰が……。
そもそもそんな人間、本当に存在しているのだろうか?
何か企んでいる正体不明の能力者集団や
制御装置を無効化する技術を持った仮面の人物。
人身売買……?
要人の暗殺……?
大量殺人……?
その目的は一体何なのだろうか?
点と点が頭の中でうまく繋がらない……。
僕は一旦、資料室を後にし、今調べた情報をまとめるため自分のデスクへ戻った。
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