第8話 探求

鳥の鳴き声がいつもより煩わしい。体も普段より怠い感じだ。



「……もう朝か。」



昨晩はほとんど眠れなかった。

自分が思っているよりも興奮してしまっていたのかもしれない。



 昨日、係長との打ち合わせで今日は報告書作成のため対策課内で待機ということにしてもらった。



急いで身支度を整え対策課へ向かう。



今日から内部調査か……。



やはり、みんなを騙している様でどこか気が引けて落ち着かない。




「おはようございます。」



 いつも通りを取り繕い軽く挨拶をする。



いつものように挨拶がばらばらと返ってくる。

すると僕のデスクの横から上品な笑い声が聞こえた。



「どうされたんですか?声、震えていましたけど。」



 僕はそのすべてを見透かすような目に思わずギクッとしてしまう。



 彼女は明科あかしなチカ。



この課が発足した当時から所属しているそうだ。

つまり穂結先輩と同期である。



普段はとてもおしとやかでゆったりとした空気感をまとう人物であるが怒らせるととても怖い。

一度、穂結先輩の悪ふざけが過ぎて逆鱗に触れた時には、怒られていない僕でさえ肝を冷やした。



どんどん早くなる心臓の音が僕の鼓膜を揺らす。



「実は……昨日あまり寝れてなくて……。」



「体調管理は気を付けてくださいね。コーヒーでも入れましょうか?」



「す、すみません……。これから資料室に行かないといけないので……。コーヒーは結構です。ご好意、感謝します。」



 僕は当たり障りのない会話でなんとか誤魔化した。



ここに居続けては明科さんにすべてを悟られてしまいそうだ。

僕はそそくさと二係から出て研究所内の資料室へと向かった。

 




 さすが国家機密レベルの研究情報が集まる場所といったところだ。

セキュリティは万全と言わんばかりに事前に使用許可を取った者が生体認証を行わなければ入室さえできない。



そんな近未来的な入室方法とは裏腹に室内は古紙独特の匂いが充満していた。



最近はデータで資料や報告書を管理しているため、室内の専用パソコンからデータベース内を検索すればある程度の情報にはアクセス可能である。

しかし、二十年以上前の情報となると紙媒体の資料も漁ることになるだろう。

そう思い事前に予約しておいた。



過去の資料がなかなかデータ化されないのは何故なのだろうか。

データベース上で検索出来れば調べ物も楽に進められるのだが……。



 手始めにミヨの経歴をデータベース内で調べてみる。



 2020年。尊ナキ所長の推薦により、

特殊能力研究所 研究開発室より特殊能力対策課 二係に配属。



とあった。



「父さんの推薦だったのか……。

だからミヨに能力の使用権限が与えられているんだ……。」



 父の推薦があったことは知らなかったが、実はミヨと父が何か関わりを持っていることを僕は知っていた。





 僕がまだ小学生の時、一度だけ研究所に連れてきて貰ったことがある。

その際に父が親しげにミヨによく似た少女と手をつないで歩いていたところを目撃した。幼心に少しショックだったことを覚えている。



ずっと親戚の子なのだろうと思っていたが彼女の経歴書には血縁不明で孤児院出身となっている。



 それ以外の情報は研究開発室に配属された年と、そこから二係に異動したことを除き一切記載されていなかった。



 やはり、彼女が携わっていたであろう研究内容のデータも直接ネイティブやジェネリックに関する情報のため閲覧制限がかかっている。



「やっぱり僕でも研究内容は見れないのか……。」



 何か他に手掛かりはないかと能力者集団についての関連のありそうな事件を洗い直すことにする。



能力犯罪者の供述を読み漁ってみると、その中には制御装置を解除して回っているという人物の話もあった。



 すると、ある事に気付く。



ミヨが二係に所属になった時期とその人物が報告書によく出てくるようになった時期がほぼ同じだ……。



 一気に疑念が湧く。



二係所属当初から許可権限を有していること。


そして彼女が対策課に配属になったタイミングで制御装置を無効化した能力犯罪が活発になったこと。


制御装置のエラーの頻度。出自もほぼ不明であること。ここまで積み重なると怪しく見えてくる。



 しかし昨晩、神代から貰ったUSB内のデータを確認したが、ミヨに関しては年齢と簡単な経歴しか情報が無く、特に疑われているような記載もない。



こんなに少ない情報の中、決定的に疑われずに済んでいるのは恐らく政府上層部の所長自体に対する信頼にかなり厚いものがあるからだろう。



ミヨに関しては所長の推薦という点がかなり信頼出来る要素になっている様子だ。



「今、分かっている情報じゃ白とも黒とも言えないな……。」


 

 もやもやしながらも気を取り直し、続いて穂結先輩について検索をかける。



すると穂結先輩についてデータベースには一切情報がなく、代わりに資料室の棚番号が表示された。



「先輩の情報にも閲覧制限があるのか……?」



そう思いつつも僕はその番号をメモし、パソコンの前を後にした。



棚番号を探す……。



見つけた。



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