第7話 使命

「萱野君には二係の活動について定期的に報告してもらっていた。調査には引き続き萱野君も協力してくれる。この疑いが杞憂で終わるようその調査を君に頼みたい。」



「なぜ……僕なんですか。」



「実は萱野君が二係に出向してから配属されてきたヒルメ君はもう調査を済ませてある。ヒルメ君の経歴に関しては怪しい組織との繋がりもないことが分かっている。

君と同期の伊讃美いさみミヨ君、そして君のバディの穂結ユウ君に関しては経歴調査を進めても不明点が多かったんだ。

二人とも対策課に配属される以前は研究開発室の所属だったこともあり公安所属の萱野君では閲覧制限がかかっており調べることのできない情報もあった。

それに彼ら二人は能力の使用許可権限も持っている。彼らのどちらかが裏で制御装置の無効化に一役買っている可能性も捨てきれない。

そのため二人との関わりがあり既に経歴調査が済んでいる君に調査を依頼したい。」



 伊讃美いさみミヨ。

二係の一員である。同い歳で僕と同時期に二係に配属された。

そのためてっきり彼女も新人かと思っていた。



確かに穂結先輩の同期である明科あかしなさんと組んでいるのに彼女の方に許可権限があるのは少し不思議に思ってはいたが、もともと所長直属の研究開発室出身だからなのだろうか……?



 よくよく考えてみると僕は確かに他のメンバーと比べると二人と関係性はあるのかもしれないが、それほど二人の事を深く知っているわけではない。



 穂結先輩はあの飄々とした態度のため自分の事はほとんど話してくれないので、以前に研究室に所属していたというのももちろん初耳だ。

そもそも数少ない僕にしてくれた話の内容も真実なのか怪しいところではある。



 ミヨに至っては無口で近寄りがたい空気を放っていることもあって僕は彼女とほとんど話したことがない。



最後に会話したのはいつだっただろうか……。



ふと記憶を遡ってみる。



 思い出せたのは制御装置の調整の度、研究開発室へ赴くことになるのだが、そこで何度かミヨと鉢合わせていること。その際に軽く挨拶を交わした程度だ。



いつもお世話になっている開発室の人によると僕と同じくらい頻繁にミヨもエラーが検出されるらしく僕たち二人はここの常連だと開発室内で言われているらしい。



 二人について知っているのはそのくらいか……。



 僕自身の動向や経歴が係長に調べ上げられていたことは驚きだったが、自分の同期であるミヨやバディである穂結先輩が疑われていることの方が衝撃としては大きかった。



「なるほど……。」



と僕が相槌を打つと神代は淡々と説明を続けた。



「現状、彼らの動きは萱野君や他係の公安所属メンバーが監視を行っている。

ヒルメ君は二人の経歴を調べると共に関連のある事件や研究の情報をまとめてもらいたい。今までの関わりの中で何か二人について不審なことがあればどんな些細なことでもいいから教えて欲しい。

よろしく頼む。

まあ、あまり気負いしないでくれ。

極秘任務という体にはなるが念には念をといった調査だ。表向きにはジェネリックの発生理由についての調査と資料作成となっている。勉強も兼ねて気楽にやってほしい。」



 つまりは穂結先輩やミヨについて係長が調べることのできない範囲の情報が欲しいといったところか。



あまりいい気のしない依頼だがここで断るわけにもいかないだろう。

断れば少なくとも先ほどからにらみを利かせている係長に何をされるかわかったものではない。



加えて正体不明のジェネリック集団そして制御装置を無効化する技術を持った仮面の人物というのも気になる。



「……わかりました。」



 なにより二係のメンバーが怪しまれているこの状況を悪化させたくはなかった。

気楽にと言ってはいるが監視を始めている時点でかなり警戒はしているはずだ。



「ありがとう。詳しい任務内容や事前調査で分かっていることはデータにまとめてある。何かわからないことがあれば萱野君に聞きたまえ。」



 神代はそういうと僕にUSBを差し出した。それを受け取り僕たちは庁舎を後にした。



 その後、係長と任務内容について軽く打ち合わせをしたのち帰宅となった。



 時計の針は十二時を回ろうとしていた……。

 


 自分の部屋に戻り一息つく。

対策課に所属するジェネリックは社宅として用意された寮で生活することになっている。勤務時間外の緊急要請に対応できるようにということなんだろうが、そんなことでさえも今考えるとこれも政府側がジェネリックを危険視していることを表しているのではないかと考えてしまう。



 改めて神代の言葉が自分の中でうまく消化できていないことに気づく。

取っ散らかった頭の中の整理は明日の自分に任せるとする。



僕はベッドに入り目を閉じた。


 

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