第5話 演者

三つ編みにした亜麻色の髪が特徴の先輩、飴野あめのマヒト。



対策課内のムードメーカー的存在。

どんな時でも少々声が大きいのが玉に瑕だ。



「あまり大きな声を出すな!マヒト!」



 そうマヒトさんを注意する声が聞こえる。



この良くも悪くも個性的な二係をまとめている係長の萱野かやのサエである。



彼は十八歳の時に対策課に配属。

そして今年、弱冠二十歳にして戦闘においての類まれなるセンスを認められ、

今では二係の係長という立場を担っている。



 僕は苦笑いを浮かべながら



「おかえりなさい。」



と小声で言う。



この二人もまた対策課二係のメンバーである。



二係は係長とマヒトさん、穂結先輩、僕を含めた全六人で構成されている。

少数精鋭といったところか。



残り二名は第一係のメンバーと打合せしているらしい。



違法に制御装置を外したジェネリックの犯罪増加による人手不足に加え、

近々、特殊能力研究所全体で『箱庭の果実』に関する調査が行われるそうだ。

対策課でもその調査協力で人員が割かれる。



『箱庭の果実』は東京の地下で厳重に保管されており、

保管場所は一部の人間しか知らない。



調査日時さえも当日発表とかなり慎重に計画されているようだ。

僕たちはその周辺の護衛を任されている。



そのため最近はその準備もあり、みんな出ずっぱりだった。



 一息つく間もなく、それぞれまた別の任務や報告書などの資料の作成に取り掛かり、二係内はすぐにもぬけの殻となった。僕も報告書の作成を続けた。

 


 どれぐらい時間が経っただろうか。



だいぶ時間はかかってしまったが報告書を書き上げることができた。



すっかり時刻は二十一時を回ってしまっており、係長以外のメンバーはもうとっくに帰っていた。書類の作成をしていた係長に報告書を提出しに行く。



「失礼します。本日発生した事件の報告書を提出しにまいりました。」



 係長は無言で報告書を受け取るとパラパラっとめくり出す。一通り見たのだろうか、ゆっくり口を開いた。



「報告書は受け取った。話は変わるがこの後十分後、二十一時二十分に正面玄関集合だ。遅れるな。」



 僕はその急な命令に少しうろたえながらも



「はい。分かりました。」



と答える。



提出した報告書に何か問題があったのだろうか……?

それとも潜入捜査でのミスについてこってり絞られるのだろうか……。

保護した少女になにかあったのかという考えもよぎる。



何にせよこの時間に呼び出しとはどういうことだろう。

そんな憂いが僕の頭の中を覆いつくした。

 


 時間に遅れないよう僕は急いで支度を済ませ五分前には正面玄関に着いた。

エレベーターホールにある自販機で缶コーヒーを買って待っていると、

係長は一秒の狂いもなく時間ぴったりに正面玄関にやってきた。



「待ったか?」



と聞かれ



「いえ。」



と答える。



それ以降しばらくの間、気まずい静けさが僕らを包み込んだ。



コーヒーをちびちび飲みつつ、何かを待つ。

少しすると一台の車がやってきて僕たちの目の前に停まった。



「乗れ。」



 係長はそういうと助手席のドアを開け、車に乗り込んだ。



状況の理解が追い付かない。



どうしようもないのでとりあえず缶に少し残っていたコーヒーを急いで飲み干し、

ゴミ箱に捨てる。



乗車しようとして気が付いたが、この車両は警視庁の公用車だ。



 言われた通り後部座席に座る。

運転席にはかっちりとスーツを着た、いかにも真面目そうな男が係長と話していた。



「係長、これは……。」



 おそるおそる尋ねる。



「俺の上司から呼び出しがあってな。詳細は俺も全く聞かされていない。が、その中でお前にも話があるそうだ。」



 対策課は大本が研究機関である背景から所属が文科省となっている。

しかし、その特殊な業務内容のため他省庁から出向という形で対策課に所属しているが、所属先はそのままの職員も多い。



係長の所属が警視庁の公安第一課であることは入隊当時の自己紹介で伝えられていた。



 なぜその公安に呼び出されたのだろか……。

これと言って思い当たる節もないので困惑ばかりが募る。



 どんな話をされるのか見当もつかない。



面倒事には巻き込まれたくないというのが正直なところだ。



 十五分ほど車に揺られていただろうか。車は緩やかに減速し、停車する。



「着いたぞ。降りろ。」



 不愛想に言葉を係長からかけられる。



言われた通り車を降りるとそこは警視庁の庁舎前だった。




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