第4話 帰巣

 やっとのことで二係まで到着すると、

先に帰ってきていた穂結ほむすび先輩が来客用のソファでふんぞり返っていた。




さっきまで少女に向けていた優しくて尊敬できる先輩の面影など

どこにも見当たらない。



「ふぁ~お疲れさん。体張っても問題ないとなるとこんな仕事も振られるんだねぇ。ジェネリックだってこと、黙ってた方が良かったかなぁ……。」



 先輩は僕の帰りに気がつくと紙パックのジュースを咥えながらそう話す。

机の上には菓子の袋が散乱している。



 今回の犯行グループは経験も浅く、固有能力の発現していないジェネリックだという前情報があったため、たった二人での任務となった。



実際のところ能力持ちのジェネリックもいたわけで、普通に考えて無茶な話だ。

ただ、ジェネリックが起こす事件に対して対応できる人員はそう多くないのが実情だ。そのためこんな無茶も通ってしまう。



特に僕が所属する二係は実際に現場に出てジェネリックと戦闘を行うことを前提に集められたメンバーである。



ジェネリックとの戦闘が予想される案件は僕たちも出動することになる。

加えてこのご時世だ。忙しいのも致し方ない。



「仕方ないですよ。穂結先輩は検査してもしなくたって間違いなくジェネリックなんですから。それに先輩ベテランなんですよ。そりゃ頼りにされますって。」



「それにしたってさぁ……。もっと楽な仕事とかないのかな……。潜入とかめんどくさいことせずにさぁ。戦うだけの任務とかないわけ?

──あっ!検査と言えばヒルメはこの前の血液検査どうだったの?」



 つい最近、対策課内で研究開発室主導の元、研究素材の提供と定期検診も兼ねた血液検査が実施されたところだ。この数値をもとに制御装置の調整も行う。



 元々、対策課はネイティブやジェネリックの研究を行っていた研究機関でもあるため、こういった研究の被検体になることも珍しくはない。



穂結先輩はおそらくその血液検査の事を指して質問してきたのであろう。



「数値が全く出なかったらしくて再検査らしいです。制御装置も設定し直さないといけないみたいで……。研究開発室から通知が届いてました。」



「えぇ~また設定し直すの?二係に配属されてからだけでもこれで何回目?

ほんとはジェネリックじゃないんじゃないの?

あ!もしかしてお父さんのコネで入ったとか!?

こんなとこにわざわざ入るなんてヒルメ君も物好きだねぇ。」



 ふざけた穂結先輩の質問に少しイラっとしながらも



「仮にそうだとしたらもうとっくに死んでますよ。僕。」



と語気を強めて答える。



穂結先輩は面白くなさそうな顔を浮かべ、そそくさと自分のデスクの方へ歩いていってしまった。



 確かに僕の父親であるみことナキはこの対策課が所属する特殊能力研究所の所長である。



特殊能力研究所は大きく分けて二つの部署があり、現場でジェネリックの対処を行う対策課と施設内でジェネリックの研究を行う研究開発室がある。



父はその二つの機関を束ねる最高責任者というわけだ。



 しかし、父は僕が幼少の頃からほとんど家にはおらず、僕はほとんどの時間を親戚の家族と過ごした。

そのためコネを使えるほど良好な親子関係は築けていないというプライドにも似た自負があった。



 少し強く言いすぎた気もしたが僕はさっそく今回の事件の報告書の作成に取り掛か……ろうとしたものの、筆が進まない。



今日は定時で帰れるだろうかとか、さっきの少女は今頃どうしているだろうかとかと言った雑念が頭の中をぐるぐると回る。うまく集中できない。



 まずい、このままだと定時どころか今日中にすら帰れなくなる。



「ただいまっ!」



 そんなことばかり考えていると、大きな声が対策課内に響き渡る。

それと同時に突然入り口の扉が勢いよく開け放たれた。

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