第3話 箱庭
世界の均衡を守る、神とも思しき存在ネイティブ。
七十五年前、数名のネイティブにより絶対的なルールをこの世に刻む力
「
その後「律」は人類、ネイティブ間で危害を加え合うことを禁止。
犯罪率が大幅に減少し、つかの間の平和をこの世界にもたらした。
現在確認されているすべてのネイティブはそれぞれが「律」を制定。
その際の莫大なエネルギー消費により全個体が結晶化、永い眠りについた。
結晶化したネイティブは『箱庭の果実』と呼ばれ、日本を始めとした高い国力を持つ六ヵ国がそれぞれ厳重に管理している。
そしてそれからおよそ五十五年後、突如として現れたジェネリック。
彼らは「律」制定時には存在していない全く新しい存在のため「律」による縛りの対象にならず、ネイティブがもたらした平和を脅かす存在として世間を震撼させ、
同時に混乱をもたらした。
ここ最近の研究でその全貌が少しずつ明らかになっては来たが、知られている情報は未だ少ない。
二十年前の発見を皮切りに次々とジェネリックと見られる人物が見つかり、同時にその研究が加速した。
その結果、通常の人間にはないジェネリック特有の細胞を持っており、それはウイルスのように伝播する性質を持つことが判明した。
ジェネリックの細胞を体内に取り込むことにより通常の細胞が変異し、それが身体能力の向上や特殊能力の発現に深く関与しているとみられている。
その感染する性質から最近では若者を中心に人口の半数近くがジェネリックであるかもしくはジェネリック細胞を保有しているのではないかという論文も発表されている。
先輩がこちらに近づいて僕にだけ聞こえる声で話し始める。
「お嬢さんを救急隊に見てもらった後、対策課への引き渡しの申請と今回の事件の報告書の作成よろしくね。」
「……わかりました。」
内心、渋々ではあるが先輩からの命令だ。従わないわけにはいかない。
事件の報告書の作成は苦手だ。
それに加えて今回は自分のミスも報告しなければならない。
今年の春から対策課 第二係に配属されているが、数か月たった今でも慣れる気配は全くない。
特殊能力研究所 特殊能力対策課 第二係。通称「二係」。
僕たちが所属する組織だ。
メンバーは全員ジェネリックでありながら日々ジェネリックが起こす犯罪を取り締まったり固有能力が発現したジェネリックの保護活動を行ったりしている。
目には目を歯には歯をジェネリックにはジェネリックをといったところだろうか。
待遇はそこまで悪くはないがその職務性質上、無茶な仕事が多い。
今回の事件はまだ人身売買を未然に防げた分、易しい方だ。
珍しい能力を発現したジェネリックが攫われたり、
そのまま人身売買されてしまったりといったケースも珍しくない。
そのため固有の能力が発現したジェネリックにはその事を申告する義務が発生する。
もちろん固有能力発現前の自己申告も可能だ。
その申告の際に能力の制御装置が支給されることになっている。
固有能力は使用頻度が高すぎると体内のジェネリック細胞が急激に増加してしまうため、扱いに慣れていないと力が暴走してしまい、周囲に被害が出てしまう。
そのためジェネリックは能力の使用許可が下りない限り、独断で能力を使用することはできない。
無許可で能力を使おうとすると装置からジェネリック細胞増加抑制剤が自動で投与され数時間能力が使用できないどころか動けなくなってしまう。
また、ジェネリック細胞の急激な増加が感知され次第、制御装置に内蔵されているGPSが起動し、位置情報が送信され現場に駆け付けた対策課の人間に確保されるといった仕組みだ。
もちろん僕たち対策課側のジェネリックにも着用義務が課せられている。今回の任務では能力の使用許可は下りなかったが場合によっては能力を使用することを許可される任務もある。
基本的に二係は戦闘を行う案件が多いためバディの片方が能力の使用可否を判断する権限を持っている。
僕達のバディでは穂結先輩が能力の使用許可権限を有している。
先輩は再度、少女の方へ体を向ける。
「僕達、お嬢さんに怪我がないか心配だから救急車呼んじゃったんだけど、一人でもちゃんと乗れるかな?」
少女はまだ少し怯えている様子だったが、こくりと頷いた。
「ん。偉いね。また違うお兄さんたちから色々質問されると思うけど、もう少し頑張ってね。」
穂結先輩が優しく声をかける。
「うん、頑張る。」
少女の目は真っ直ぐ先輩の方を向いている。
少し安心した様子だ。
先輩が少女の頭をポンっと優しく撫でると少女もまたホッとしたようで少し照れていた。
救急隊に少女を預けるといつの間に先輩の姿はどこかへ消えてしまっていた。
僕は少女の保護と検査のための書類を書いた後、課に戻って書類の作成をしなければならない。
しかし、先ほどの戦闘で移動用のバイクはレッカー車に運ばれて行ってしまった。
また廃車かなぁ……。
と思いつつ自らの足で課まで戻る事となった現実をまだ受け止めきれずにいた。
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