第2話 少女
犯人グループは爆発の前に車内から逃げ出していたようで道路の端で先輩にしっかり捕まえられていた。
僕は救急隊の到着を待つため路肩に少女を座らせる。脳内で分泌されていたアドレナリンもひとしきり収まり全身にどっと疲労が押し寄せる。
ここでひとつ冷静になる。
救出対象に最初に接触したのは僕だ。
震えていた少女の恐怖心たるや計り知れないものがあっただろう。
この場合、少女の緊張をほぐし、少しでも安心して貰えるよう接するのが
僕の与えられた仕事の一つでもあるわけだ……が、僕はその手の事が少々苦手だ。
気の利いた言葉でもパッとかけられたらいいのだが……。
なんと話しかければいいか悩みに悩んだ末、振り絞った言葉は、
「えっと、その。大丈夫……?」
だった。
口に出し終えた瞬間の何ともいえない気まずい空気に押しつぶされそうになる。
少女は力なく頷く。
せめて空気を和まそうと少女に微笑みかけた…つもりだったが、引きつった笑みになっていたらしい。少女は少し怖がっているようにも見えた。
「あ……ごめ」
謝ろうとしたところ、先ほどまでは無線から聞こえていた無邪気な声が響く。
「何やってんの?ヒルメ。」
この人は
先輩とは任務の度、組まされている。
いわばバディといったところか。
先輩は犯人達の身柄を管轄の警官に引き渡し終えたところのようだ。
「お疲れ様です。先輩。」
「うん、お疲れちゃん!」
そういうと先輩は少女の前にしゃがみこみ、自身の能力で作りだした動くぬいぐるみを少女に手渡した。
「お嬢さん、これあげるよ!ところで……怪我したりしなかったかい?」
完全にかすり傷の事を聞くのを忘れていた。
さっき血を流しているのを見たじゃないか。
すぐに応急処置が必要だったはずだ。
僕は思わず頭を抱える。
自分の至らなさを反省し、先輩の周りを見て気を利かせながら動ける所は僕も見習わなければいけないと実感する。
しかし、少女はゆっくりと首を横に振った。先輩は質問を続ける。
「本当に?どこか痛いところとかもない?」
少女は続けて首を横に振る。
「ヒルメ。そんなに丁寧に運び出す余裕なんかあったんだ?」
僕はその質問に肩をすくめることしかできない。
そんな余裕があったわけがないのだ。
さっき抱えた時には確かに傷はあった。
それに何より僕の腕にこびり付いている血痕が見間違えでない何よりの証拠だ。
となるとやけに少女の傷の回復が速い……。
「もう…大丈夫。前もすぐ治ったから。」
初めて口を開いた少女に一瞬時が止まったような感覚を覚える。
あまりにも早い傷の治癒……。
ジェネリックの特徴が少女の体に出始めているということなのか……。
先輩から向けられる鋭い眼光に耐え切れず
結局、僕は先輩にかすり傷の事について正直に話した。
「まあ、とりあえずジェネリックである確認も兼ねて対策課で保護して、固有能力の有無も調査した方が良さそうだね。」
ジェネリックの全容はいまだ解明されていないことも多い。
ひとつ確かなのは、現在彼らがネイティブと人類が作ったルールを破り、
世界の均衡を崩しつつあるということだ……。
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