——閉鎖病棟の年末年始

 入院中に年をまたぐなんて、他人事ひとごとだったら絶対に

「かわいそーw」

とネタにしていじるくらいには悲しいことだが、閉鎖病棟での年越しなんてかなりのレアケースではないだろうか。

 惨めな気持ちはありつつも、普通に暮らしていたら絶対に経験できなかったであろうこのシチュエーションに全く興奮していなかったと言えば嘘になる。


 でも結論から言ってしまうと、「いつもの病棟」だった。

 最早いつもと同じ過ぎて怖かった。


 それでも、いくつかはそれっぽいことが起こっていた。




 まだ年末と言うには少し早い時期、職員が病棟の飾り付けに精を出していたのだが、気づいたら病棟内がお正月ムード一色に染まっていた。さすがに早くないか?


「早いですね(笑)」

と、せっせと来年の干支『龍』の飾りを壁に貼る職員に声をかけると、

「そうなんです! 年末休みに入っちゃう前にやっておかないと!」


 あー、そっかぁ。いいなぁ。

 患者を正月の気分にさせるのも、年内に片付けておくべき『仕事』なのだ。なんたって、お正月は休みなんだから。


「患者には年末年始の “休み” なんてないけどね〜」

 心の中で悪態をつきながら、

「そうなんですねぇ!」

と引き攣った笑顔で返しておいた。話しかけちゃったのこっちだし。……ちぇっ。


 年始休みが明けず職員が少ない中、剥がれかけていた『龍』を見かけてペシッ! と力強く貼り直してやった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 年末が近づくにつれ、病棟はある噂でもちきりになった。


「大晦日に刺身が出るらしいぞ……」


 さ、サシミ!? 病院食(患者たちは『給食』と呼んでいた)で生の魚を食べられる日が来るなんて!

 魚介類のアレルギーの患者さんだって多いのだから、私は「嘘つけー」という否定派だったのだが、、


 来る12月31日。

 本当に出た。マグロの赤みが2切れと甘エビが2尾。

 患者たちはもちろん大歓声。私も好きなネタでこそないけれど、この特別感は嬉しいと興奮しながら、いざ実食!


 ——あ、まっずぅ。


 そりゃそうだった。めちゃくちゃ冷凍食品の味だった。

 なんならツマの方が新鮮で美味い。


 ちなみにクリスマスにはデザートにケーキが出たのだが、主食がパンでしかも2つと炭水化物の暴力でしかなかった。

 ケーキはちゃんと美味しかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 入院中の身とはいえ、年越しの瞬間には起きていたい!

 もちろん消灯時刻は過ぎてしまうし、残念ながら夜勤のメンバー的に起きていたらちゃんと怒られそうだった。

 だから、巡視の時だけ寝てるフリで切り抜けて、こっそり起きて

「ハッピーニューイヤー(小声)」

と1人で楽しもうと企んでいた。


 大晦日当日。

 年越し前最後の巡視を切り抜けて、いよいよあと10分ちょっとで年越し!

 ……(ドキドキ)……

 …………

 ……


 ——!!

 手元の時計を見ると、『00:07』とあった。

 寝落ちた。7分。


 「…………」


 何とも言えない気持ちですぐ横になって目を閉じた。

 初夢も全く覚えていない。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ここは病院なのだから仕方ないのだが、シフトの都合上、12月31日の準夜勤から1月1日の早朝勤まで通しの看護師さんもいらっしゃった。

 この病棟の看護師さんは家庭を持ってらっしゃる方が多いし、『通し』の方も嫌々ながら働いておられるのだろう。かわいそうに。申し訳ない。とあわれんでいたが、『通し』で入るのは大体が自ら希望してシフトを入れている方なのだそう。


 自分で言うのも何だけど、わざわざこんな場所でこんな奴らに囲まれながら年越すっての!? キッッッモォ!!!!

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