——みんなのアイドルCさん

 病棟のマスコット的な存在のCさんという患者さんがいた。

 

 Cさんは天真爛漫な女性で、とっても大きな声と正直すぎる物言いが特徴だ。

 私の中ではアイドルのような癒される存在で、Cさんの元気な声が聞こえてくると

「あ! 今日もCさん元気そう!」

と笑顔になれる、心のビタミンだった。

 他の多くの、というかほとんどの患者さんと看護師さんは眉間に皺を寄せていることが多かったが……


 でも、Cさんがよく着ていたTシャツの背面には

『THANK YOU FOR LOVING ME!!(私を愛してくれてありがとう!!)』

と書いてあったのだから、みんなにとっての完璧で究極のアイドルだったに違いない。


 Cさんにはお気に入りの看護師さんがいて、いつも

「ねーねーRくん!!」

と下の名前で呼んでいた。




 このRくんもRくんでなかなかに個性的な看護師さんで、よく私のバイタルチェックの担当になることが多かったのだが、とにかく何も考えていない軽い男だった。


 私が落ち込んで病室で泣いている時、Rくんが巡視で気づいてくれて、その日の担当ということもあり、30分以上、話し相手になってくれた。


「まあでも、雨季さんまだ若いッスから、何とでもなりますよ」

「……(Rくん)さん、おいくつですか?」

「22ッス……」

 年下じゃねーか。


 それで2コそいつとはかなり打ち解けて、お互いの好きな漫画や愚痴を聞いて談笑していたのだが、2コ下は急に

「てか今何時ッスか?」

と目の前に置いてあった私のスマホを当たり前のように触り、

「やべー! 申し送りに遅刻だ! まあでも雨季さんの話聞いてたから仕事のうちッスもんね! いやー、ありがとうございました」

と、颯爽と出ていった。


 それがきっかけで、彼はすれ違いざまに「うッス」と挨拶してきたり、バイタルチェックでも

「何か困ってることありますか? まあーなさそうッスね、俺また来るんで、何でも言ってください! じゃ、失礼しまーす」

と打ち解けてるのか雑なのか分からないが楽しいやつだった。




 Cさんに話は戻り、とにかく『2コ下』が大好きな彼女は他の男性看護師などアウトオブ眼中で、よく通りすがりの男性看護師に「Rくん!」と呼びかけては「Rくんじゃないよー」とあしらわれていた。


 そして、彼女の記録には毎日のように2コ下の名前が出てくるほど、四六時中ずーっと彼に夢中で、彼女が他の患者と話している(一方的に話していただけのような気もするが)のを聞く限り、勝手に結婚したことになっていて、薬を飲むときの名前確認でも2コ下の苗字を名乗って看護師たちを混乱させていた。

 私は「ご結婚おめでとうございます」と2コ下をいじるいいネタをもらえて、2人のを心底嬉しく思った。




 そんなCさんのエピソードで私のお気に入りは、Rくん……かと思いきや、シンキングとの会話を盗み見た時の様子。


 恐らくCさんがシンキングに無理なお願いをして、それはできないと優しく諭されていたのだが、急にCさんが

「それカツラ?」

とシンキングの頭を指差した。


「カツラじゃないよ地毛だよ、引っ張ってみる?」

「(触って)パリパリー!」


 私は遠くで苦笑いした。

 Cさんの無邪気さはもちろん微笑ましいのだが……

 「引っ張ってみる?」ってなに? パリパリなの?

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