2.祖父の訃報

 入院して一週間も経たない週末、電話口で母から告げられた。


「昨日の夜におじいちゃんが亡くなったよ。」


 最も恐れていたし、予想していた言葉だった。




 祖父は数ヶ月前から入院していて「いつどうなってもおかしくない」と言われていた。

 何度かお見舞いに行っていたが、祖父は重度の認知症を患っていたため、声をかけても私のことなどすっぽり記憶から抜け落ちていた。


 「じいちゃん、日向ひなただよ、分かる?」

 「へえ、日向ちゃん……、がんばってください」


 何の意図かは分からないが、晩年の祖父は誰と話しても最後に激励の言葉をかけていた。

 うつ病の私にも例外なくそう言ってくれて、がんばりすぎたからこそこうなっている私はなんとも複雑な顔で「あ、ありがとうございます……」と返すしかなかった。


 それが祖父との最期の会話になったので、『がんばってください』は謂わば私への遺言のようになっている。




 訃報を聞いて、いつかこうなるだろうとは思っていたが大好きな祖父の最期に私はこんな場所で……。

 受話器を持ちながら嗚咽を漏らした。


 ただ、本当に悲しいのはその時だけで、本音ではホッとしていた。

 やっと苦しみから解放されて、10年ほど前に亡くなった妻、つまり私の祖母と一緒になれるだろうという安堵の方が大きかったのだ。


 大好きな2人に見守っていてほしい。

 

 祖父の葬儀については、私も入院して間もないし、そもそも閉鎖病棟に入院中なのだから難しいだろうし、私は欠席するのが無難だろう、ということになった。

 最期のお別れをできないことはかなり悔しかったが、自分自身も葬儀の場で情緒がどのようになるか想像がつかず怖かったので、甘んじて受け入れた。


 入院するときにその祖父母と自分が写った写真をお守りとして持ってきていたので、それに向かって手を合わせて初七日を過ごした。

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