——で、実際どんなとこ?〈構造・ルール編〉

 病棟全体の大まかな雰囲気はいいとして、いちばんの特殊性はやはり、その構造やルールだろう。


 まず、病棟での入口は二重扉で厳重に施錠されている。

 無理やりこじ開けようものならスパイ映画よろしくけたたましい警報が鳴り響いて看護師が駆けつける。

 一時期この警報の常習犯がいたが、その患者さんは出たがっていたというより、入口近くの廊下で寝ていて、それにセンサーが反応していた。


 ナースステーションといえば、コンビニのレジのような腰の高さまでの仕切りに囲まれているイメージだが、ここでは壁と窓と扉(もちろん鍵付き)で外部者が立ち入れないように完全に遮断されている。

 そうでもしないと患者が何をしてくるか分からない。


 そして、病棟内は患者がをしないための対策が徹底されている。

 例えば、患者が触れられるところにドアノブというものが一切存在しない。

 加えて、病棟には紐類は一切持ち込めない。

 私も入院時にその場でズボンの紐を抜き、スニーカーを脱がされた。


 とはつまり、そういうことなのだ。


 他にも、アクセサリー類や刃物のような危険物など持ち込めないもの、筆記用具などの持ち込めるが看護師の許可を得ないと使えないもの、などと厳しく分類されている。

 アクセサリー類に関しても、入院時に身につけていたものを全部外されたが、なぜか看護師の大半が左手の薬指にきらりとリングを輝かせていた。いろんな意味でとても眩しかった。




 お風呂事情は病院にもよると思うが、私のいた病棟では大浴場のようなものがあり、平日のお昼に男女別の時間制で入ることができた。

 浴場が開くのを待つ『風呂待ち』のメンツは固まっており、私もその1人だった。

 洗い場や浴槽の数は限られていたが、阿吽の呼吸で譲り合って使っていた。


 男女それぞれのシャワー室もあり、そこは土日・祝日も利用できるのだが、ある程度症状が安定してきて主治医の許可が降りないと使えない。

 そのため、入院初期は土日に風呂に入れないことを考慮して入浴のタイミングを考えなければならず、悲惨なことになっている患者さんもちらほらいた。


 衣類も主治医の許可が降りないと自己管理をさせてもらえない。

 病棟内に簡素なコインランドリーのような場所があり、そこで自分で洗濯をする患者と家族に洗濯と持参をお願いする患者がいた。

 私は後者だったのだが、病棟で洗濯組の間では、乾燥機に他の患者が入れっぱなしで回せないだの、他の患者(女性)の洗濯物を勝手に触っただの、こんな場所でもちゃんと人間的なトラブルが何度か起こっていた。




 そして最後に、患者たちのいちばんの楽しみは、週2回の売店だった。

 病棟内にはないので、見張りの看護師に前後を挟まれて一列で病院内にある売店へ向かう。

 だからもちろん、売店に行くにも主治医の許可が必要だった。


 私は2〜3回しか利用しなかったが、自分たちがピクミンみたいだと思いながら移動して、というかもはや移送されていた。

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