——で、実際どんなとこ?

 私が入院した病棟について改めて説明すると、そこはの精神病患者を受け入れる閉鎖病棟。つまり、この病棟に入院してくる患者は皆が絶不調で入れ替わりも激しい。

 拘束具付きの車椅子に数人がかりで押さえつけられ泣き喚きながら入ってくる、なんてことは日常茶飯事で、慣れれば「ああまた新入りか」くらいのものだ。


 病棟の中でいちばん奥まった場所には、特に容態の悪い患者を隔離された病室エリア、通称『隔離』があり、話を聞く限りではさながら ”収容所” のような場所なのだという。


 というのも、私は幸いなことに(?)隔離に入ることなく退院し、そのエリアは内側から出られないのみならず他の患者も立ち入ることができない未知のゾーンであり、隔離経験者の友人から中の様子を聞いたことしかない。

 曰く、24時間監視カメラ付き、看護師が来ないと水すら飲めない、窓といえばな丸い小窓、というまさに「地獄でしかなかった」場所らしい。

 私は隔離の話を聞くたびに頭の中に『アウシュヴィッツ』の文字が浮かんでいた。


 とはいえ、それ以外の場所は基本的には穏やかな空間で、寧ろ外来の待合所なんかよりずっと明るい雰囲気だった。


 『ホール』と呼ばれる共有スペースは高い天井に大きな窓があり、とても開放的な空間だった。

 そこにはフードコートのように椅子とテーブルが並び、患者同士で会話をしたり、読書や音楽鑑賞などの趣味に没頭したり、ナースステーションから借りればボードゲームの類もできた。


 私がイメージしていた刑務所のような場所ではなく、24時間体制で看護師に見守られながら精神疾患を治療するための優しい世界が広がっていた。


 但し、普通の社会ではあり得ないような出来事が日常的に起こるのも事実だった。


 入院生活を振り返って、すごく貴重で楽しい経験ができたと常々感じているが、もう一度入りたいかと問われたら迷わず「NO」と即答する。

 人たちに囲まれて、ずっと変な夢を見ているような期間だった。


 ここで伝えておきたいのが、そんなトンデモナイ人たちも、トンデモナイ言動を精神疾患の症状として抱え闘っているのであり、私だって側から見ればトンデモナイ状態だったに違いない。


 そうでなければ、こんなところに入院などしないのだから。

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