第4話:魔法創造-後編-

学園の庭は、自然豊かで緑が多く、息を吸い込むと木々の香りがマルケルの鼻を刺激する。材料は、クベルの実50g、ハルバム草2枚、ペルソの実70g。クベルの実は、少し酸味のある甘味を帯びた味で、人間世界でいう"ラズベリー"のような特徴がある。見た目もラズベリーにそっくりで赤い。よく鳥が好んでつついて食べるそうだ。ハルバム草は、薬草だ。擦り傷や切り傷の上にハルバム草を巻いて、その上に包帯を巻いて固定する。すると、2,3日後には完治しているのだ。葉の見た目は、楕円形で、緑色。臭いはスースーとしたミントのような香りだ。そして、ペルソの実。これは、独特な酸味のある香りを持つ、黄色の洋梨のような見た目の果実だ。食べると口をすぼめる程酸っぱいと言われており、カレーのスパイスとして使われることもあるとか無いとか。マルケルは、着々と材料を集め、遂にペルソの実が10g必要な所まで辿り着いた。10gならば、1個あれば、充分だ。ただこのペルソの実、どんな魔法を創るのにも必要となってくる果実で、超重要な材料アイテムなのだが…。

「全く、ねぇじゃんか!」

そう、全然無い。全くと言って良い程に無い。

「おい!戦闘狂!」

後ろから肩を叩いて声を掛けられた。

「その声は…」

マルケルは、勢い良く振り返ると共に拳を声の主に振りかざした。

防御ディフェンド。」

マルケルの拳は、透明な壁に防がれた。

「…カルム!」

「そうだよ!僕だよ!よく気づいたね!」

「そりゃまぁ、声で分かるだろ。ってか、なんだよ!戦闘狂って!」

「戦闘狂じゃないか。君が急に僕に闘いを挑んできたんだろ?」

「それはそうだけど…。」

「そんなことより、ペルソの実、無さすぎやしないか?」

「あぁ、全然無い。市場で購入するのも高いしなぁ。」

「そうか?僕はもう爺やに頼んで、購入してもらったが…。」

この金持ちが…とマルケルは思った。ペルソの実は、1個辺り、500Q(クエンス)。1Q=¥10の価値だ。即ち、¥5000の価値だ。親に頼めば、これぐらいは容易いのだが、マルケルは前世で培った(悪く言えば患った)賭け事パチンコの経験により、貧乏性の為、無料で貰える物は、貰っておく主義なのだ。わざわざお金を使うよりも、学園で採った方が遥かにお得なのだ。

「まぁ、このままなら君の内申点は下がり、更に僕に対抗する為の技も創れやしないって訳だ。僕にとっては有難い。大体、さっきの君の殴りによる攻撃アタックも全然大したことが無かった。僕のさっきの防御ディフェンド。全然僕は魔力を使ってないぞ?あんなへなちょこなパンチじゃ、僕になんて一生届きやしないね。これが次席とは、嗤わせてくれる。」

そう言うとカルムは、大声でマルケルを嗤った。

「じゃぁな、戦闘狂。次会う時は奴隷だけどな!」

カルムは、ゆとりのある歩き方で、校舎の中へと入っていった。

「くそっ!!」

マルケルは、地面を蹴り、地団駄を踏んだ。

「絶対に見つけ出してやる…!」

そう言ってマルケルは、走りながら、探した。


✣         ✣         ✣


ペルソの実は、一向に見つかる気配がなく、何処を探しても見当たらなかった。マルケルは、地面に倒れ、仰向けになり、息を整えようとした。暫くすると、マルケルは起き上がり、

「なんでこんな上手く行かないんだ!!」

と叫び、地面を殴った。そんな時、遠くから声が聞こえた。

「よし、もうペルソの実は、無さそうね…。」

よし?そう疑問に思ったマルケルは、声のする方へ残りの力を振り絞って、走った。するとそこには、大量のペルソの実を持ったクラム寮の女子生徒がいた。

「おい!マルケルは、呼び止めた。」

「…!」

その女子生徒は、マルケルを見た瞬間目を見開き、全力で逃げようとした。

「おい!待て!」

マルケルも頑張って走る。疲れていた為、何時もより走るのが遅いマルケルだったが、女子生徒が走る速度が遅かったこともあり、何とか追い付くことができた。マルケルは女子生徒の持っていたペルソの実が積まれている荷台を掴む。

「きゃっ!」

大量のペルソの実が荷台から落ちると共に女子生徒が姿勢を崩した。それを見たマルケルは素早く動き、女子生徒の身体をしっかりと抱き抱える。

「大丈夫か。ごめんな。」

女子生徒は、目をうるうるさせ、今にも泣きそうだ。マルケルは、女生徒を立たせ、言った。

「ペルソの実。1つ貰っても良いか。学園で採った物だろう?」

「だ、ダメ!」

女子生徒は、マルケルの願いを拒否した。

「何故だ?」

「こ、これは、私が1番になる為に、必要なの!」

「どう言うことだ?こんなにペルソの実が必要な魔法等まだ俺達では習得できないぐらい強い魔法じゃないのか?俺達ならせいぜい5個とかだろう?」

「そう言うことじゃなくて…。」

「じゃぁ、どういう訳だ?」

「…。」

女子生徒は、黙ってしまった。苛ついたマルケルは、怒鳴った。

「言え!!」

ビクッと彼女の身体は震え、彼女は、少しうつむいたまま、こう言った。

「ペルソの実は、魔法を創る上で、皆使うから…。これを皆に与えなければ、誰も魔法を創れなくて…。それで…。」

「用は、皆の内申点を下げて、成績が1番になりたかったんだな。」

「そ、そう…。」

「屑だな。お前。」

マルケルがそう言うと、遂に女生徒は、泣き出してしまった。

「だってぇ!だってぇ!!」

「五月蝿い。気持ちは分かるが、それは本当の1番じゃないだろう?1番が欲しいなら実力で勝ち取れ。」

「でも、自信無くて…。カルム君みたいに全てが完璧!みたいな感じじゃないし…。特に何かが凄い訳でも、私は無いから…。ずるしないと、勝てなくて…。」

「お前が何もない訳ではないと思うぞ。」

「え?」

「勝つ為ならなんでも一生懸命に取り組む力とかこんなずるい案を思い付けるその賢さとか。」

「…。」

「まぁ、今回の試験は駄目かもしれないが、いつか何処かで1番になれるかもしれないし、1番になれなくても良いやって思える日が来るかもしれないだろ。どうしても1番にならなきゃ行けないなら話しは別だけどさ。どうして1番になりたいんだ?」

「親とか…兄妹が…皆成績優秀で…。でも、私は出来損ないだから…全然駄目で…。絶対に首席で卒業してやる!って…決めたの…。そしたら、家族に認めて貰えるかなって…。」

「そうか。誰かに今まで認めて貰えなかったのか。」

「…うん。」

「じゃぁ、俺が認めてやるよ。」

「え?」

「さっきも言ったけど、自分の目標の為なら頑張れたり、こんな案が思い付く賢いお前を認めてやる。だからさ、俺の仲間になってくれないかな。」

「…え?…仲間?」

正直最初の印象は最悪で、何だこの女はと思ったマルケルだが、境遇が似ており、その中でも頑張ろうとするその彼女の姿が仲間に入れようとマルケルの中で思った理由だった。

「うん。俺にもあるんだ。仲間と共に1番にならなきゃ行けないっていう目標が。」

「…そう…なんだ。認めてくれるの…?私のこと。」

「あぁ。」

「…分かった!じゃぁ、その…仲間?って言うか…友達に…なろう!これから一緒にご飯とか食べたり、一緒に行動したり…しよう!」

「お、おう。それと…さ。やっぱりこれ欲しいんだけど。」

マルケルは、ペルソの実を指差す。

「うん!良いよ!何個?」

「1個で良いよ。有難う。」

女子生徒から、マルケルはペルソの実を貰った。

「そうだ。名前は?」

「あ、私は"エマ・ロメリー"。使う魔法の系統は、分析アナリシスって言って、相手の弱点を突く様な攻撃をするの。その代わり、時間が掛かるから、その間にやられてしまっては厳しいから使いにくんだけどね…。」

「そうか。よろしく、エマ。俺は、マルケル・ラフエンテ。賭けギャンブル系の魔法を使う。リスキーで、当たりにくいけれど、当たれば高火力なんだ。」

「そうなんだ!」

マルケルとエマはどうして1番になりたいのか、どうして仲間を創りたいのかを少し話した。勿論、転生したことや神様と会ったことを除いて。その後、マルケルが提案した。

「あのさ、このペルソの実、やっぱり皆に配ろう。その方が皆の為にもなるはずだ。」

「マルケル君は…それで良いの?1番になりたいのに…。」

賭けギャンブルは、フェアな状況に立ってから相手とやるものさ。」

正直エマは意味が分からなかったが、

「マルケル君がそう言うなら…。」

と言って、マルケルと共にペルソの実が積まれた荷台を学園の庭の拓けた方へ運んだ。すると、その様子を見た男子生徒が

「あ!ペルソの実!何処にあったんだよ!それ!」

と怒り気味で聞いてきた。エマは、口を噤んで、下を向いている。マルケルは、仕方ないと思い

「いや、これがさ。森の中を歩いてたらこの変な荷台が置かれてたわけよ。どうしてだろうなって疑問には思ったんだけどさ。取り敢えず皆の為に持ってきたよ。」

エマは、マルケルと出会った時と比にならない程目を丸くして、マルケルを見た。

「そうなのか。ありがとよ!」

そう言うと男子生徒は、必要な分のペルソの実を取っていった。それに連なる様に生徒はどんどん並び、あっという間にペルソの実は無くなった。

「よし、これで良いな。」

「私は、材料アイテムをもうちょっと集めないと行けないから、先に調合室に向かってて!」

「分かった。」

マルケルがそう言って校舎に帰ろうとすると

「…ね、ねぇ!」

とエマに呼び止められた。

「どうした?」

「さっきは…有難う…。」

「あー。うん。良いよ別に。その代わり仲間として、しっかりと付いて来てくれよ。」

「うん!」

とエマは元気に返事をした。


✣         ✣         ✣


「これは、すげぇな…。」

「どういたしました?」

「いやぁ、ちょっとね。"あの人間"の件だよ。」

「あぁ、あのギャンブル依存症の。」

「君は毒舌だなぁ。賭博師と言ってあげなさい。」

「…では、賭博師がどういたしたのでしょうか?」

「こいつ、早速歴史を"変えやがった"。」

「具体的にはどの様に?」

「確かこの女の名前は…エマ・ロメリー。この女、元々は、正義側に付く筈なんだ。主人公の言葉に心打たれて、分析アナリシス支援サポートを主人公とその仲間にしてくれる筈だったんだけどなぁ。」

「成程。」

「しかもなぁ、こいつらがこんな広い森の中で出逢ってしまった。運が良すぎやしないか?」

「まぁ、賭博師…ですからね。」

「でもね?ここから何個も何個もこいつに壁がぶち当たる。直近で言えば、首席との怠慢だろうねぇ。勝てなかったら、ほぼ終わりだけど、大丈夫なのかなぁ。こいつは。運がどれだけ強いとは言え、こんな数えきれない程の壁何も無しで越えられることはできないと思うけど。ふふっ!今後のこの人間に期待だな!」

そして、崇拝者は思うのだ。

本当に"悪魔様"は、悪趣味をしておられる。これでこの人間を"遣う"のは何度目だと言うのだろうか。その狂ったところが私は好きなのだが。と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る