第2話:宣戦布告
「ここがベルトラム魔法学園か!」
「入学楽しみだなぁ。」
人の話し声が聞こえてきた。
マルケルは、ゆっくりと目を開ける。するとそこには、物凄く大きな黒い門があった。マルケル自身は、白いワイシャツにグレーのズボン、黒いローファーを履いており、いかにも学生という感じだ。頭の中に徐々に自分の魔法が刻まれて行く。この魔法はどの様に杖を振り下ろし、どの様に発生させるのか。発生率は、どのくらいか。威力はどのくらいなのか。どんどん頭に染み込んで行く。
(なるほどな。おもしれぇ。この魔法を使って勝ってやるよ主人公さんよぉ!)
マルケルがそう思っていると、人が更にザワつき始めた。
「おい!あれが"首席"じゃねぇか?」
「うわー。本物だ。」
「格好良い!」
マルケルが前の方を見ると人だかりができていた。マルケルもその輪の中に入る。
「ははは!どいておくれ。僕が通れないよ。」
その輪の中心には、イケメンが立っていた。
(こいつが、主人公…ではないんだよな。)
神からは、主人公は、2つ下だと聞いている。ここにはいないはずだ。何故だろうか。神から聞いていないのにマルケルの脳内には、そいつの名前が出てきた。
「カルム・ロウフェル…。」
そう彼の名は、カルム・ロウフェル。ロウフェル家は、優秀な一族で、両親共にベルトラム魔法学園を首席で入学、卒業し、父親は、弁護士、母親は、医者という超エリート家庭で育ったお坊ちゃまである。容姿も整っており、女子の視線の的でもある。おまけに
カルムを俺の手下にしたい
と。神は言った。"悪役集団の指導者"として、主人公に勝つことと。つまり、マルケル自身は、まず集団を作らなければならないし、更に指導者なので、その中に自分より強い者がいては行けない。かと言って、雑魚ばっかだと恐らく主人公に普通に負ける。この学校でトップクラスの強さを持つ者しかいない集団を作らなければならないのだ。その為には、まず、マルケルがカルムより強くならなければいけない。そう。マルケルが1年"首席"にならなければいけないのだ。
「絶対にお前のその座を奪ってやる。」
マルケルは強く決心した。
マルケル含む1年生は、教職員の誘導により、ベルトラム魔法学園中央ホールに来ていた。マルケルは、先頭から2番目の席が用意されていた。1番目には、カルム・ロウフェル。どうやら成績順に並べられているらしい。更に、前には、名前が書かれているプレートが飾られており、上から2番目にマルケル・ラフエンテと書かれていた。1番上には、案の定カルム・ロウフェルの名が刻まれていた。また、それぞれの名前が書かれている欄の隣には、寮と書かれており、そこはまだ空欄だった。その時、
「皆様、静粛に。」
と何者かが言った。騒がしかったホールは一斉に静まった。
「この度は、ベルトラム魔法学園に御入学おめでとうございます。学園長のナルバ・カルバスです。」
ナルバ・カルバス。ベルトラム魔法学園の学園長だ。優秀で気高く、女性初の学園長である。
「皆様には、これから自分から入る寮を決める作業をしていただきます。」
そう言うとナルバは、指輪を取り出した。その指輪は、銀色に輝いていた。
「今から皆様にはこの指輪、"
寮。それは、クラスの様なものである。このベルトラム魔法学園では、この"
そして、寮それぞれにもどの様な者が行くか決まっている。トルヴァ寮は、勇気があり、冒険心に満ち溢れた者が行く。フェラム寮は、誰とでも仲良くでき、人情が人一倍ある者が行く。スバル寮は、何事も容易くやりこなし、仲間意識が強い者が行く。そして、クラム寮は、賢く、知性のある者が行く。ざっとこんな感じだ。勿論例外もいる。
「それでは早速1人目カルム・ロウフェル!」
「はい!」
カルムは、軽い足取りで前まで行った。
「私も首席と同じ寮に行きたいなぁ…。」
そんな声がマルケルには聞こえた。その思いは、マルケルも同じだ。カルムと寮が同じであれば何かと都合が良い。カルムは、指輪を指に通し、暫く目をつぶった。そして、数分後、カルムが目を開けると、その指輪は、青く輝いた。
「カルム・ロウフェル!寮は、クラム寮!」
ナルバがそう言うと、前に飾られていたプレートのカルム・ロウフェルの名前の横に"クラム"と刻まれた。
「クラム寮…か。」
マルケルは、不安になった。一応次席になった能力を持っている今だが、前世では、賢いと言われたことが1度もなかったからだ。賢さが求められるクラム寮に果たして入ることができるのか不安になった。
「では、マルケル・ロウフェル!」
「…はい。」
マルケルは、緊張しながらも前へと歩いた。ドクンドクンと心臓の音が鳴るのが分かる。壇上に立ち、深呼吸をして、ナルバに指輪をつけて貰った。ゆっくりと目を閉じる。すると、声が聞こえた。
「どーも。生霊でーす。」
その生霊は、緩すぎた。
「え…?」
「え?って何?お前が呼んだんじゃん。」
「あぁ、そうなんだけど…。」
「だけど?」
「なんか緩くね?」
「緩い…とは?」
「え?なんか。もうちょっと緊張感あるもんじゃないの?」
「いや、俺もね?就任当時はそうしてたよ。でもさー。ダルくなったんだよね。」
「ダルく…なった?」
「そうそう。変に気を張ってるとダルいんだよね。だから、普段通りの感じで喋るようにしたんだよね。まぁ、本題に戻るか。」
「お…おう。」
「お前、なんか今不安だろ。」
「え?そ、そうだけど。」
「やっぱり。何が不安なんだ?」
「首席と…カルムと同じ寮に行きたいんだ。」
「ほー。さっきの奴?あいつちょーすげぇよ?」
「まぁ、そんな気はした。」
「でも、どうして同じ寮に?」
「あいつに…勝ちたい。」
「えぇ!あんなに強い奴に?どうやって。」
「…分からない。」
「俺から言えるのは、努力しろってことしかないな。」
「そうだな。努力するしかない…か。」
「まぁ、俺は面白いことが好きだしよ。見せてみろ。お前が夢を実現するところをな。よし!目を開けろ!」
マルケルは、ゆっくりと目を開ける。マルケルが自分の指を見てみるとそこには、青く輝く指輪がはめられていた。
「マルケル・ロウフェル!クラム寮!」
あぁ、俺もクラム寮か。1/4が当たった。25%を引くとはついているものだ。それともあの神がその様に誘導したのか。何はともあれ首席に一歩近づくことができた。
「マルケル・ロウフェル。中央ホールを出て、北側の方にある校舎に進んでください。クラム生の学生寮があります。」
「分かりました。」
マルケルは、中央ホールを後にした。
北側校舎クラム棟。全体的に紺色で統一されている建物だ。ここには、クラム生の学生寮もあり、ここでクラム生は、授業を受けたり、睡眠をとったりする。クラム棟の扉を開くと、そこには、カルム・ロウフェルがいた。
「あー!次席君!」
「次席…君?」
「そうお前のこと!確か次席だろ?僕の隣の席にいたし。」
「その通りだが…。次席君と呼ぶのをやめてくれないか?」
「何故だい?事実だろう?」
「ウザいんだよ…そういうの。」
「ははは!怒っちゃった感じかな?」
マルケルは、怒りが込み上げた。そして、勢いで言ってしまったのである。
「…なぁ。賭けをしないか?」
と。
「賭け?良いだろう。どんな賭けだい?」
「来月の13日。13日の金曜日だ。俺と怠慢をしないか?」
「ほう?怠慢?負けるって分かってるのに?滑稽だなぁ!」
「勝つようにする。来月13日迄に。」
「全然良いよ!どうせ僕が勝つし。賭けの内容は?」
「もし、お前が勝ったら、一生俺はお前のパシリになる。何でも言うことを聞くし、何でもやる。要は奴隷になる。」
「そんなきつくして良いの?どうせお前負けるよ?」
「もし逆に俺が勝ったら。俺の手下になれ。」
「手下?良いけど、奴隷と手下は何か違うのかい?」
「奴隷は、仲間じゃない。手下は仲間だ。」
「僕を仲間にしようとしてるのか?」
「あぁ。そうだ。俺の夢を叶えるため。まずはお前を手下にする!」
「良いよ。なんなら学校に申し込んでやるよ。今の条件に加え、僕が勝ったら君は次席の座から3番目に降格。まぁ、無いだろうが逆に僕が負けたら僕は次席になり、君が首席になる。それが学校公認の戦いのルールだからな。面白そうだろう?」
「あぁ、そうしよう。賭けは、賭ければ賭けるだけ面白くなるからなぁ!」
天国に行くか地獄に行くかを賭けた最初の戦いの火蓋が切られた。
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