最恐の13群
忠実 零
第1話:神との賭け事
「あぁ、くそっ!」
男は、街角の三角コーンを勢い良く蹴った。だが、当たりどころが悪かったのか三角コーンは全く飛ばず、男は足を痛めた。夜の新宿で、1人男は踞っていた。何故この男がこんなに苛ついているか。答えは簡単。
「ふざけんじゃねぇよ!」
男は更に怒鳴った。周りからは冷ややかな目で見られ、
「キモすぎ…。」
と言って、ひいている地雷系の女もいた。男はノロノロと立ち上がり、傘の柄のように曲がった背でゆっくりと歩いた。男は、交差点へと差し掛かる。その信号は赤信号。しかし、男は下を見ていたせいか気づかなかった。車のクラクションが交差点の中央で響く。
「ビィィィィィィィ!!!!」
「…あ?」
男が気づいた時には遅かった。
「ドンッ」
生々しい音が新宿の街で突然鳴った。
「…ん?」
男は目を擦った。
「ここは…何処だ?」
そこは、雲の上だった。日射しが暖かくとても気持ちが良い。そして、男は気づいた。
「ここ…天国なんじゃね?」
と。男は自分が車に轢かれた時にはまだ意識があった。物凄い衝撃と共に気を失い、気づいたらここだ。
「あ、起きた?」
「ん?誰だ?大体何処にいる?」
「こっちだよこっち。」
男の背後には、長髪で、洋風な男が立っていた。その男は白い布を着ており、いかにも神様という感じがした。
「神様?」
「おー。理解が早いね。そう。俺は神。」
"俺は神"
厨二病と
「じゃぁ、もうお前は車に轢かれて、死んだってことも自覚してるか?」
「あぁ、やっぱりそうか。ってか神がお前なんて言葉使うんだな。」
「使うよ。下等種族だし。」
「…。」
「んで、そんなことはさておき。君に天国に行ってもらうか地獄に行ってもらうかなんだけど…。」
「おぉ!本当に天国や地獄の存在があったのかよ…!」
「うん。あるよ。まぁ、元々は無かったけど。勝手に人間共が極楽浄土がどうのこうのって言ったりした時代があったじゃん?」
「あ、あぁ。確かそうだったな。」
「それを聞いて、確かに人生で良い行いをした奴にはそれなりの極楽を提供してやっても良いかなって思ったし。あ、これが天国ね。」
「お、おう。」
「逆に悪いことをした奴には、俺の手下になったり、俺を満足させるために色々働かせたり、最悪の場合はこの世界でも死んでもらおうと思ってるんだよね。」
「…。」
「で、君は。"地獄行き"ね。」
「…は?」
男は理解できなかった。特に悪いことをしてるつもりはない。犯罪などもおかしていないはずだ。それなのに地獄だなんて。
「有り得ねぇよ!」
「有り得るんだなぁ。これが。小学校中学校では、人を虐め、高校は、偏差値の滅茶苦茶低い名前さえ書けば誰でも入れそうな所に進学したのに中退。親の金を返してやれよって話だ。"中卒"じゃ、まともな就職もできないなんて言って、引きこもるようになり、16,17で喫煙に飲酒。おまけに18になってから、30の今まで
「…。」
そうだ。俺の人生。終わってた。
「まぁ、だから地獄に行かそうと思ったんだけどさぁ。」
「思ったんだけど…?」
「どうやら自分が悪いって自覚してないらしいし?もっと辛いことさせてやるよ。」
「…え?な、なんだよ…。地獄に行くより辛いって…。」
「俺と…"賭け"をしないか?」
「賭け?良いぜ!俺は賭け事が大好きだ。」
「はは…。流石依存者だな…。」
「あ?なんか言ったか?」
「嫌、別に。それで、その賭けだけど…。」
男は息を飲んだ。
「悪役集団の指導者になり、主人公に勝つこと。」
「は?」
「実は、これからお前が転生してもらう世界は、俺が考えたストーリーでさ。その為だけに異世界を作ったんだ。」
「それだけのために!?」
「うん。そうそう。それでね。俺は、案の定主人公が勝つように設定したし、シュミレーションでもやっぱり俺が思い描くようになるわけ。なんだけどね。ここに本当の人を埋め込んだらどうなるかなって思ったわけ。」
「は?いまいち意味がわからねぇんだが。」
「まぁ、要は異世界に行って、俺が作った世界にバグを生じさせて、悪役集団の指導者として、主人公に勝って欲しいんだ。」
「それ、俺になんのメリットがあるんだ?お前が俺を被験者にして、お前だけが得するように思えるんだが。」
「勿論あるとも。もし、君が主人公に勝つことができれば、天国行きにしてあげる。」
「本当か!?」
「あぁ。でももし負ければ…。」
「負ければ…?」
「地獄に行って"死んでもらおうか"。それだけのリスクがあった方が面白いものが見れそうだからな。」
神の思い通りの結末にしなければ天国。逆に神の思い通りに動いてしまったら地獄。しかも、地獄で永久死亡だ。
「そんなスリルのあること、賭博師の俺が受けないわけないだろ!」
「流石ギャンブル依z…賭博師!期待を裏切らないね!」
「で、その主人公はなんと言う奴なんだ。」
「それは秘密。まぁ、出会えば分かるだろうけどね。まぁ、1つヒントをあげよう。主人公は、君の2つ下の子だ。」
(2つ下…か。)
「それと君にはベルトラム魔法学園というところの中等部1年生の"次席"として、学校に入学してもらう。ある程度魔法は、もう使えるし、1年生の中では首席以外に自分に勝るものはいないと言う状況だ。だからまぁ、最初は努力しなくても大丈夫だろう。それに調度良いことに、お前がこれから転生する者も
「おー!
「端的に言えば、"運"が全ての魔法だ。命中率は、低めだし、時には全くでなくなる時もあるだろう。だけれど、出た時には超高火力。相手を一撃で倒すこともあるかもな。まぁ、詳しくは転生したら頭に入ってるはずだ。」
「そうか。それじゃぁ、一番重要な…俺の名前は?」
「おー。お前から聞いてくるとは思わなかったな。まぁ、良いや。お前の名前は…マルケル・ラフエンテだ。」
「マルケル・ラフエンテ?」
「あぁ。」
「分かった。由来は何かあるのか?」
「別に?ないけど。」
「…そうか。」
暫く沈黙が続いたが、神が改めて話し始めた。
「…それと、転生してからは、神と話して異世界に来たなんて言わないこと。面倒なことになるからね。」
「あいよ。」
「じゃぁ、言うことはもうないし、早速転生してもらおうか。俺の手に触って、目をつぶって。」
言われた通り、男、いや、マルケルは、神の手に触り、目をつぶった。
「さぁ、行くよ。周りがザワザワし始めたら、目を開けてね。」
神がそう言うと、目蓋越しでも分かるほどの光が自分を包んでいるのが分かった。マルケルは、奇妙な感覚に教われた。
✣ ✣ ✣
「よし、転生完了!」
「良いんですか?本当に。異世界に送ったりなんかしちゃって。」
「あー。良いんだよ。俺の作った世界をこいつが壊せることができるのか見たいし。それに…。」
「それに?」
「人間の力を見てみたい。俺が一番最初に創造した地球人の力を。」
そう言った神の顔は狂気に満ちた笑顔だった。
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