第5話 不思議なものが好きなサークル

 食事をすませ三人で三階に上がる。この階は化学科のフロアだ。二階の物理学科や四階の数学科と違って何かわからないが様々な薬品の匂いが混じり漂っている。

 建物の西の端にある教室をよく使わせてもらっているらしい。


 京介きょうすけは哲也に聞いてみる。

「同じ学科の同級生もいるの?」

「ああ、智恵ちえちゃんと泰子やすこちゃんがいるよ」

「ふーん」

 いつも哲也の周りを取り巻いている女子ではない。どちらかというと物理学科の中でも一人でいる印象の女子二人だ。佐藤智恵さとうちえはどちらかというとマイペースで天然系。牧原泰子まきはらやすこはお嬢様系、お嬢様といっても派手なところはなく清楚で育ちの良いお嬢様という感じの女子だ。


「おはよう。こちらは?」

 院生らしい美しい女性がやって来た。

「あ、おはようございます。同じ学科の神谷京介かみやきょうすけ君です」

 哲也が挨拶を返し、紹介してくれた。

「こちらは鈴鹿佳子すずかよしこさん。数学科の大学院生」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

 黒髪のストレート、色の白い綺麗な顔立ちの女性だ。白いニットのセーター、少し年上なだけなのに、すごく大人に見える。大学院生なのかと思いながら、なんて綺麗な人だろうと見惚みとれる京介だった。


「ちなみに鈴鹿さんと、さっきの長谷川さん見える人だから」

「え?」

「この世のものではないものが見える人。二人とも見えるしはらえる人。僕は見えるだけ」

 長谷川さんも鈴鹿さんも、驚くほど綺麗な女性たちだが、ちょっと変わった人なのか、とも思った。


 それと同時に今の哲也の一言で、年末の不思議な出来事を思い出した。

 この世のものではないもの……そのフレーズが気にならないはずがなかった。


「京介君は今までに何か不思議な体験とか、心霊現象的なもの体験したことある?」

「え?」

 いきなり美しい鈴鹿さんからマニアックとも取れる質問が飛んできて戸惑った。

「ええ、まあ少し」

「へえ、どんな経験がるの?」

「なんとも説明しにくいのですが、何か超能力を使う不思議な少年に会ったことがあります」

「超能力を使う少年?」

 長谷川と鈴鹿が顔を見合わせる。哲也も怪訝な表情を浮かべる。

「それは、どこで、どんな少年と会ったの」

 この質問に、何か、あの日の状況をうまく表現できるか自信がなかった。少し考えている京介に、鈴鹿が言う。

「ねえ、京介君、私たちのサークルに入るということでいい?」

「え?」

「いや、さっき、ここに来たとき『よろしくお願いします』って言ったけど、それは入会するということでいいの?」

 京介は少し迷ったが、興味がないわけでもなく、

「入ります」

 と入会意思を示してしまった。すると鈴鹿が向こうの方にいた女子二人を呼んだ。やって来たのは同じ学科の佐藤智恵と牧原泰子だった。入会用紙を持って来た。


「こんにちは、私たちこのサークルに入ってるの」

「あ、佐藤さんと牧野さんだよね」

「ここでは下の名前でみんなから呼ばれてるの」

「そうなんだ」

「じゃあ、智恵ちゃんと泰子ちゃん」

「それでいいよ」

 智恵と泰子が微笑む。

 京介が少し興味深げな表情で二人に聞く。

「ねえ、ここのサークルって、どんな活動しているの?」

「え、不思議な物なんかの情報を集めて調べたり解明したりしているの」


「へえ……心霊スポットとかに行くの?」


「心霊スポットだってぇ」

「ねぇ」

 智恵と泰子が顔を見合わせてクスクス笑う。


「え、今の話の流れで、オレなんか、おかしなこと言った?」


「ごめん、ごめん。ここに来たほとんどの人が最初にいう言葉ね。そういうとこも行くよ。まあ、あんまり危険なところで、危険なことはしないけどね」

 泰子が微笑みながら言う。

「そうそう、不思議なことを科学的に解明します。なので、ここ理工学部の人が結構多いの。あと民俗学とか、考古学とかの関係の人ね」

 智恵が言葉を添える様に言う。


「ふーん」

 京介は周りを見回してみて、それほど変わった人はいないようだと思い少し安心した。

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