第一章 ~『岩場での訓練と魔女』~


 メアリーとカインは岩山の山頂を訪れていた。巨大な岩の塊が不規則に積み重ねられ、隙間風が不気味な音を奏でる荒野に人の気配はない。


「ここなら威力の大きな魔術を使っても巻き込む心配はいりませんね」

「登ってきた甲斐があるというわけだね」


 カインの実力は日々の訓練により加速度的に増している。加えて、ワイバーン討伐の報酬として与えられた杖も用意していた。


「この杖を使えば、僕の魔術の威力が増すんだよね?」

「論より証拠。実践してみましょうか」


 促されたカインは巨大な石塊へと杖を向ける。魔力を流し込むと、青の魔石が強く輝き、水の弾丸を放った。


 音速で発射された水は石塊を跡形もなく吹き飛ばす。その威力に彼は驚く。


「さすがは国宝だ。これほどの威力になるなんて思わなかったよ」

「カイン様と相性が良いからですよ。なにせ杖の先に装着された魔石はハイドラという水龍から採れたものですから」


 水の適性を持つカインだからこそ、水龍の力を引き出せたのだ。立派な彼の才能である。


「杖を経由すれば、魔力効率も良くなりますから。消費魔力も少なくなるはずですよ」

「確かに、疲れが少ないね」

「他にも魔力操作が容易になります。訓練すれば、水の変形も自由自在です」


 お手本とばかりに、空中に作り出した水を剣や熊の人形に変える。その緻密な魔力制御に、彼は感嘆の声を漏らした。


「素晴らしい魔力操作術だね」

「この技は極めると、相手の魔術へも干渉できるのですよ。例えば相手の水の弾丸を霧に変えて霧散させることも可能なんです」


 攻撃だけでなく、防御にも応用が効く。魔術の世界は奥深いとカインが感心していると、岩の間を動く影に気づく。


「メアリー、あれは……」

「魔物、しかもサラマンダーですね」


 岩場に溶け込むような土色の鱗に覆われたトカゲが姿を現す。眼光を鋭く輝かせ、メアリーたちを見据えていた。


「確か、ランクDの魔物だよね」

「一般的には強敵ですね。ただ私達なら遅れを取る心配はないかと」

「僕が戦おうか?」

「いえ、丁度良い機会です。私が魔術無効化のお手本を見せましょう」


 相手の攻撃を誘うように無遠慮に近づいていく。サラマンダーは脅威を感じ取ったのか、口に魔力を集め、一筋の炎を吹き出した。


「メアリー、大丈夫かい!」


 爆炎に包まれたメアリーからの返答はない。ただ無事であると伝えるように、広がった炎が形を変えていき、球体へと集約した。


 メアリーは傷一つさえ負っていなかった。サラマンダーは獣の勘で彼女が格上の存在だと察したのか逃げようとする。


 しかしそれを逃すほど彼女は甘くない。球体の炎が剣に姿を変えると、サラマンダーに向かって放たれる。


 どこまでも追尾する炎の剣がサラマンダーを串刺しにする。火柱があがり、消し炭へと変わっていく様子は圧倒的な実力を誇示するかのようだった。


「カイン様、これが魔力操作の極地です」

「ははは、やはりメアリーは凄いな。それでこそ僕の目標だよ」


 底が見えないメアリーの実力に、カインは素直に賞賛を送る。彼の瞳は憧れながらも、隣に並び立とうとする気概に満ちていたのだった。

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