第一章 ~『カインの誤解と魔女』~
エマの初恋を応援すると決めたメアリーは情報収集を開始した。アスタという男がどのような性格で、どのような女性が好みなのか知らなければ、効果的な施策を打てないからだ。
(この感じ、魔物刈りをしていた頃を思い出しますね)
魔物も個体ごとに特性がある。その特性を把握し、効率的に倒したからこそ、アイスビレッジ領の魔物を壊滅させることができたのだ。
(同じ騎士団所属ですし、カイン様なら情報をお持ちかもしれませんね)
カインの居場所はすぐに分かった。彼は暇があれば剣技の稽古をしているからだ。この時間であれば裏庭にある空き地に違いないと足を運ぶと、ちょうど休憩中だったのかベンチに腰掛けていた。
「カイン様、少しよろしいでしょうか?」
「もちろんさ。何か用かな?」
「騎士団に所属するアスタ様という男性をご存知でしょうか?」
「知っているよ。僕の直属の部下だからね」
「それは好都合ですね」
「好都合?」
「カイン様から見たアスタ様の印象や評判を知りたいのです」
メアリーが思い切って質問をぶつけると、カインは微笑む。
「優秀だよ。剣の腕も達人の域には至っていないが、同年代の中ではかなり上だしね。それに何より誠実だ。訓練に遅刻したこともないし、仲間想いだ。有望株の一人だよ」
「それは悪くないですね」
エマの目に狂いはなかったのだ。
だがカインの表情が複雑な感情の混ざりあったものへと変わる。
「まさか、君が男性に興味を持つなんて思わなかったよ……少し嫉妬しそうだ……」
「ん? あぁ、そういうことですか。安心してください。私の親友の座はカイン様、ただ一人のものですから」
メアリーは微笑むが、カインの表情は変わらない。なにか変な誤解をさせているかもしれないと感じた彼女は、エマのことを秘密にした上で真実を切り出す。
「実はとある女性が、アスタ様に好意を抱いていて……」
「――ッ……なるほど! 君はその応援をしたいと」
「ご明察です」
誤解が解けたカインは、花が咲いたような明るい表情へと変わる。
「杞憂で済んで良かったよ」
「杞憂ですか?」
「こちらの話さ。それで、その女性とは侍女のエマさんのことかな?」
「ご存知だったのですね……」
「見ていればすぐに気づくさ。きっと二人は両思いだ。僕が保証するよ」
知らぬは本人たちばかりで、騎士団の中でも二人の恋を見守るような動きがあったそうだ。
「でも、その恋を成就させるには、アスタに自信をつけさせないとね……彼は優秀なのに、自分に自信がなくてね。何事も悲観的なんだ。きっと告白も失敗を恐れて二の足を踏むだろうからね」
「それは厄介な問題ですね……」
エマの方から告白する手もあるが、どうせなら男性から愛を伝えて欲しいはずだ。大切な友人のため、メアリーは解決策を思案する。
「アスタ様に両想いだと伝えるのはどうでしょう?」
「駄目だろうね。確証がないなら友人のままでいいと断られるのがオチさ」
「ならどうすれば……」
「自信をつけさせるしかないね。そのための成功体験をつめるといいのだが……」
アスタに自信が付けば、エマの恋が実る。なら彼に成功体験を与えるのは自分の役目だと、メアリーは彼の元へと駆け出したのだった。
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