第7話 過去の事件
ゴミ箱泥棒さんこと丸軸さんの家は山沿いにあった。私の陰は蹲るようにしてコンクリートにいる。
蝉の声が聞こえる中、私たち7人は庭に入る。
町はずれにある少し大きな家をいった風貌でとてもあの値段だとは思えない。そしてここで首吊りの事件と動物の大量虐殺があっただなんて考えられなかった。
家に入ると本当に立派であった。事故物件ということ以外はすべて完ぺきだった。
まるでお洒落なカフェのような家具や雑貨が置いてある。
「お洒落ですね」
なんて言うと丸軸さんは「いやいや、親からは逆に引かれてます」なんて笑う。
みんなもこの空間に驚いているようであちらこちらから驚きの声が上がっていた。
「喫茶店だと他のお客さんとかが居たのでこちらだともっと詳しく言えますよね」
そういう彼はまた、お洒落な器に入ったお茶を出してくれた。
「ありがとうございます」
なんて皆が一斉にいうものだから学校時代を思い出して笑ってしまった。
「ではさっそくで悪いのですが、瀬能さん。あの話を皆さんにしてあげてください」
どうやら彼曰く、瀬能さんはキーパーソンらしい。まあ彼が連れてきたのだから何か意図があるのだろう。
「あーはい。じゃあちょっと話します。えっと」そう言ってお洒落な器をテーブルに置いた彼女は話し始めた。
今から3年前の真冬。この家に一人の男が住み始めた。男はもともと動物が大好きで動物関係の仕事に就職していたそうだ。
住み始めてから4カ月。彼の飼っていた文鳥がゲージと止まり木の間に挟まって窒息死してしまったそうだ。
独りだった彼は猫や犬を保健所から貰い飼育することにした。春になり、部屋から鳥の声が聞こえるようになった。男は嬉しくて嬉しくて家の隅々まで探した。
「きっとあの亡くなった文鳥がまた戻ってきたんだ」そう信じていたそうだ。
そうしてその年の夏。彼は仕事に来なくなったそうだ。
不審に思った同僚がこの家に来た。
すると腐敗した匂いに包まれていたため、あいつが死んだんじゃないか。と思って警察に連絡したらしい。
警察とドアを開けるとそれはそれは酷かったそうだ。
玄関には犬の頭や猫の足、更には無残なカラスの死体も転がっていたそうで夏だったこともあり、匂いが尋常じゃなかった。
さらに二人は進むことにした。
ほら、今あなたが座ってるところには恨めしそうに見る犬の目ん玉が積んであったそうだ。
そこにはスズメが山積みになっていたそうだよ。しかも、生きたままミキサーで粉々さ。
「これって怖い話ですか?」私は限界が来て話を逸らそうとした。
「いいや、ここで昔起きたことですよ」彼女はニタリと不敵な笑みを漏らした。
「男は言ってたんです、この家は呪われてるって。俺が動物たちを殺さないと俺が殺されるって」
彼女の話に皆、動くことが出来なかった。
「ペットロス症候群」
彼がポツリと言った。
いつの間にか固体となったこの空間は液体へとなっていた。
「ペットが亡くなったり、ペットが居なくなってしまったことによるストレスで起きる精神疾患のような症状のことです」
液体の空間をまた、気体へと戻すように重い口を開いた。
彼は言う。
6カ月以上も酷い症状が続くそうだ。うつ病や不眠、摂食障害、心身症。さらにはペットの声や姿が一瞬現れた気がするという錯覚やペットの声がすると言った幻聴などの幻覚。
きっと男は幻聴や幻覚が身を朽ちさせていったのだろう。精神病の様なものになってしまったのだ。
瀬能さんは「そうですね。その通りって感じです。はい」と小さく返事をした。
男ペットロス症候群によって精神が不安定になっていた。文鳥と前の住民の死に方が類似していた点や鳥の声が聞こえるという点が男の心をさらに縛っていった。
男は犬の心臓を頬に当て、温かみを感じながら、血だらけの服を小刻みに揺らしていたそうだ。
「あいつが来る。餌をあげないと俺が食われる。あいつが来る」
こんな言葉を復唱していたそうだ。
私はブロンズ像のようになった手を動かし乾ききった喉にお茶を降らせた。
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