第3話 夢を見た話

「佐賀さんまじで遅いのにありがとね。とりあえず来週の放送に大工さん探して、ゴミ箱泥棒さんに設計図とか借りて、出来れば声だけでも出演してほしいな」


そういう彼は自信に満ち溢れていた。


結局その後もオノマトペゲームを急遽加わった佐賀さんと三人でやることになった。


私は仕事も選べない人間なのかとため息をつく。完全アドリブってアドリブが過ぎるでしょ。


とりあえず私が「今日最初は前回時間が無くて途中になってしまった企画をやって、便りコーナーをして1時くらいから前回盛り上がった頭取りゲームをして、すこし話して、時間があれば新企画の話をしましょう」


といつも通り計画を一応言うが、「わかったーでもアドリブだから少し変えるかも」と2つ返事をして、そしてこのありさまだ。


でも、少し疲れるがとても楽しいのは事実だ。正直憧れの人だ。私はこんなことできないし、しようとも思わない。そんなことを思いながら駒込放送に戻った。


「おかえりー」とスタッフの御座さんが迎えてくれた。


いやー参りましたよと肩を下す私に「今日のほうそーおもろかったよ」なんて言うからまた、「はー」と息を漏らす。


前の時もそうだった。まだ、私が駆け出しのころで5月だというのに今日みたいに熱帯夜だった日。始まりは一通の手紙だった。


「じゃあ川端さんこの中から一つ引いてください」指示された通り目の前にあるお便り山の中から一枚の紙を選ぶ。


あれっと思い手紙を触った。何か番号が付いた紙が貼ってある。「53」って番号が書いてある紙があるんですけど」とソラさんに言うと「えー当たり?」と笑った。


ガチャと後ろから扉が開く音がして、私は振り向くとそこにはスタッフの白木さんがいた。無言で私に封筒を渡す。


ソラさんが「あー当たり引いたねー」と笑った。ラジオ番組だからとはがきしか届かないわけではない。


ぬいぐるみや今回みたいな封筒、イラストや食べ物なども送られてくる。お便りを選ぶときは平等になるようにはがきを引き選ぶ。


だから、今回みたいに番号を振っておいてそのはがきに付いていたものも渡すわけだ。


「で、その封筒は何が入ってるの」彼が訊く。私は上を破り、3枚の白い紙を取り出す。


そこには干からびたミミズのような字と線の入った地図が書かれていた。


とりあえずはがきから読む。


「ラジオネームしょ?しゃ?」私が漢字を読めないでいるとソラさんが見せてと手紙を見た。「褶曲」ポツリと言う。「しゅうきょく?」と訊くと彼は答えた。


「曲がりくねった地層のことだよ」そうなんですねと答え気を取り直して読む。


ラジオネーム褶曲2000さんこんばんは。


たすけてください。姉が。わたしは死ぬかもしれないです。


私は我ながらとんでもない依頼を引いてしまったと思った。


「いやーこりゃ不謹慎だけど俺が名探偵ってことだよね」とお遊び気分で手紙を見ている彼にはため息が出る。


これも読んであげてと渡されたのは姉の遺書だった。とりあえず読めそうなところだけ読むことにした。


一部抜粋


○○(褶曲2000さんの名前だと思われる)ねーちゃんは知りたくなかったことを知ってしまった。


最近寝れてるって心配してくれていたけど実はもう辛いの。


だからお父さんにちゃんと話に行こうと思う。もしかしたら、もしかするとねーちゃんはいなくなるかもしれない。


だけれど安心して、私は○○のことが大好きだから。○○もあと3年もすれば成人を迎えるね。


そしたらもうこの家とは縁を切った方がいい。ねーちゃんは弱いから○○も守れない。


最後に、と強い文字で「6月1日22時に二人を屋根から見つめるよ。あなたに場所がないと言って」なんて何言ってんのこの子と思うような文章が書いてあった。


なにこれと困惑している私は彼に聞く。「子供の字ですよねこのはがき。なんかいたずらっぽいっていうか」すると指を横に振る。


「まずこの文章からして二人いるという事だ。はがきを書いた人。そして遺書を書いた人。二人ねだから悪戯ってわけでもないし、てか褶曲2000さんはまだ成人してないんだね」


キモ名探偵だ、私は耐えかねて言った。


いやいやと手を横に振って私を煽る。「てか、成人していない学生さんが知ってる褶曲も読めないなんておバカちゃんですねー」なんなんだこいつと思っているとまた話し始めた。


「で、姉さんが書いた地図って上手過ぎない。もしかしたら地学関係やってるでしょラジオネームも褶曲だしさ」あー私が感心していると「真実はいつもひとつ」なんてふざけて言う。


はーまだ何も解決してませんよと手を顔につける。


ふと思い立って「おねーさんの遺書の最後なにか居場所のヒントじゃないですか?」私は頭がいいですよと言う風にメガネを「くいっ」と上げた。


「ばかそー」とバカにしてくる彼も大概だろう。


私は何かないかと紙とペンをとって推理し始めた。こう見えても推理系は大好きだ。


後にこの回は私の暴走回だなんて言われるこのになるのだが、彼はこんな私を見て川端さんに火がつきましたねーなんてリスナーに煽る。


何とか彼が話を繋げていた。たまには私が暴走してもいいだろうそう考えながら紙を見つめる。


裏を見たり、横にしたり、縦読み、斜め、スタッフからライターを借りて紙を温める。変わった様子はない。


6月1日22時を調べる。事件か、歴史的出来事か、その時間に何かが起きるのか。分からない。


二人を屋根から見つめる。二人とは誰なんだろうか。


屋根から見つめる?なにを言っているんだ。


「川端さん」


「あなたに場所がないと言って」ってことは二人とは両親のことだろうか。


じゃあ屋根の上にいるのか。


「川端さん」


いや、そんな簡単ならすぐに見つかっているだろう。


この地図がなんなんだ。


てかこの紙大きさが普通のA4じゃない理由があるのか。地図以外はA4なのに。


「川端さん」


はっとして前を見る。


川端さんどうですか?

あと5分で終わってしまいますが、進捗のほどをと彼が言う。

「いやー二人を屋根から見つめるって両親のことなんじゃないかってそうしたら両親のことを今も見つめているんじゃないかって。


だから、両親の部屋から見られる場所にいると思うんですよ」それっぽくまとめて言う。


彼が「うー」と唸り、来週までにいろいろやってきますとラジオを締めくくった。


あー分かんねーと彼が椅子にもたれる。


私は腑に落ちないで明日も仕事か―と疲れていた。家ではやる気が起きずに気づくと一週間が経ち、ラジオの日になった。


321の合図で彼がはい。皆さん今晩はー。


毎週金曜日の夜にお届けする完全アドリブラジオ「人間クエスト」が始まりましたー。進行を務めさせていただきます。新海芸能事務所タレントの水溜ソラと。


駒込放送アナウンサーの川端美羽です。私もいつも通りに言う。


では今回のゲストの褶曲2000さんでーす。彼の言葉の後1コンマ置いてすぐに可愛らしい声で「よろしくお願いします」と返事が返ってきた。


どうやら電話がつながっているらしい。私は前回暴走し過ぎたと反省していたが、もっと暴走する彼を見て安心した。


「あの私聞いてないんですけど」と眉をひそめると彼は「始まる3分前に決まったからね」と言ってスタッフさんもそういう事なのでなんて流した。


あなたの自己判断で決めないでください。ていうか未成年と深夜に電話って捕まりますよ。私が叱ると「もう私21なんです」とスピーカーから流れてきた。


遺書が書かれたのは今から4年前だった。4年前じゃもう見つからないと心の中で考えていると「じゃあ前回の復讐と確認したことを言います」と彼が言った。


前回、川端さんがあなたの送ってくれたはがきを引きました。


そして見てみると「たすけて」というはがきと姉の遺書、地図が届きました。


とりあえず僕たちはいや、暴走した川端さんが遺書や地図、はがきから読み取れることを推理していました。


ですが、全くわからないという事でした。


そこで俺は直接電話をかけて彼女に確認を取りました。


分かったことは4年前に彼女の姉が失踪したらしい。そして彼女は遺書からもわかる通り、親が怪しいと考えた。


そして山に埋められていると考えている。また、次は自分じゃないかと思い、警察は頼りにならないからとラジオに相談したと。


続けて言う。


これはまだあなたに確認してないので憶測ですが、あなたとあなたのお姉さんは地学を学んでいますね。


地形図が上手すぎです。そしてあなたの家に行きました。その時見せてもらいましたが、地図と一緒でした。山もあるんですね。


貴方はこの四年間ずっと穴を掘ってた。少し等高線と違うところがありました。貴方は頑張りすぎです。


もっと計画を立ててからここだと穴を掘りましょう。とりあえず今は作戦会議です。


彼が話し終わると「もう、もう考えました。でもわからないんです。姉が好きな場所にも行きました。だからお願いします。知恵をお貸しください」鳴き声交じりにこだました声を合図に私はまた、紙に書き始めた。


なんだこれ。私が悩んでいると彼が言い出した。「普通地形図の用紙サイズってなに」その声に驚いたかのようにスピーカーが反応する。


「えっ、えっとA4かA3、それかA2だと思います」へーと口角を上げた彼が「この紙さB5なんだよね」と言った。なんでB5にしたんだろうか。


私は理由を考えた。B5でなきゃいけない理由。


理由……。


私ならなんでこうする。


間違っていると指摘されるため。気づかれるため。「あっ」と声を上げる。


「褶曲2000さんの親って地学を学んでるんですか?」という私の問いに「いいや」と答える。


なるほど。「あなただけが知ることなんですね」つまり、理由がある。特定の人に気づかせるという事だ。


「ガチャ」と扉が開く。そこにはお坊さんがいた。


はぁとため息交じりの声が漏れる。


いやちょっと一回座禅すると言い出した彼に私は笑いが込み上げてきた。


スピーカーからも笑い声が聞こえる。きっと彼女も笑っているんだろう。「今座禅組むなよ」と突っ込みを入れる。


「じゃあ正座ならいいんかよ」と言う彼の肩をお坊さんが「ぺしっ」と叩いた。「痛ってー」こんな痛いんすかこれと聞く彼の声が聞こえなくなるほどの声が「あー」とこだました。


スピーカーからだ。


ねーちゃんの星座ふたご座です。ふたご座。


喜ぶ彼女に「せいざ。えっ。星座」と私は混乱していた。


彼女は言う。姉の「6月1日22時に二人を屋根から見つめるよ。あなたに場所がないと言って」の二人って両親じゃなくてふたご座のことじゃないですか。


ふたご座を屋根から見る。それを一分の25000に縮小して姉の書いた地図に貼る。それで……。


言葉に詰まっていた彼女に座禅を組んだままの彼が話す。「君が弟のポルックスでお姉さんはカルトスなんじゃない」


すると彼女が一層大きな声で話す。「じゃあ姉はカルトスの顔部分にある星と交わる所にいるんですね」


みんなで騒いでいると「また、あんた今何時だと思ってるの。電話切って早く寝なさい」と声がして電話が切れた。


「愛されてますなー」という彼がまたお坊さんに肩をたたかれた。


とりあえず日曜日に家に行きます。と連絡をしてラジオでは次週報告させていただきます。と放送を終わらせた。ちょうど2時こんな盛り上がっているのはいつぶりだろうか。


「もしかしてあの子に星座って言わせるためにお坊さんを雇って座禅組んだんですか?」と笑う私に彼は「いろいろと見つめ直そうと思ってね」なんて言って帰った。


とりあえず私も駒込放送に戻って余韻に浸っていた。「褶曲ちゃんの親悪い人だと思ってたけど子供想いじゃんか」と口に漏らしながらパソコンを見ていると、「今日は神回だったね」とコーヒーを持ってきてくれた。


「御座さん今日は本当疲れましたよー」とお礼を言う私に微笑んだ。


「明後日行くんでしょ」という彼は面白いことあったら教えてねーと私の隣に座った。


今日は6月2日。彼女の家は山のふもと付近にあり、似たような家がぽつぽつあったため迷っていた。


「確か屋根が片流れになっているんだっけ」そう考えているとポツリと大きな家が見えた。屋根が片流れだ。そう思いチャイムを押す。


昨日からソラさんはこの家に来ていたらしい。「はじめまして」と私が言う前に「がちゃ」と扉が開き、可愛らしい彼女はハグしてきた。


「川端さん会いたかったですー見てくださいこれ昨日水溜さんと屋根に上って計算とか、長さとか求めて作り上げたんです」彼女の手にはふたご座の書かれたB5用紙があった。


じゃあこれとあの地図を照らし合わせれば。


そうして私たちは紙を照らし合わせた。「6月1日22時に二人を屋根から見つめるよ。あなたに場所がないと言って」にも書いてある通り、ポルックスがあるはずの場所は敷地外になっていた。


カルトスの点が打たれた場所は山の上の方だった。運動靴で来ればよかったと後悔しながら山を登る。


所々に掘った跡があった。「これ全部あなたが掘ったの」と訊くと地図を見ながら彼女は頷いた。いつの間にか大きなスギの木が生えるスギ林になっていた。


そのあともスギ林を登り、やっとの思いで場所についた。「あれ」と思う。掘った跡が少しあった。一応と掘り返したが、何も出てこなかった。


二人は「なんか計算が違ったのかな」とか「多角測量で求めたよな」とか言っていたが私には理解できなかった。


「はー」と靴擦れしているであろう足を休めるため木に寄り掛かった。「やっぱ山って景色良いねーほらしかも今日天気良いし」上を向いて私は固まる。


「あぁあぁぁ」なんとも情けない声だ。褶曲2000さんが気づいてこっちを見た。私は間髪入れず上を指でさす。


「きゃー」鳥が飛んで行った。


「まじか」と流石のソラさんも驚いているようだった。


私たちはすぐに警察を呼んだ。


彼女は「やっぱりあんた達が殺したんでしょ」と母親に泣きついていた。

彼女の母親は「○○ごめんなさい。ちゃんと話しておけば」なんて泣く。


姉は自殺だった。


大きな木に登り、首をくくったのだ。


褶曲2000さんはきちんと探し始めたのが3年前である。


約一年間もすれば木だって成長する。しかも下を探して掘ることを繰り返していれば上なんて見ないだろう。


約4年の月日が経った今は空を見上げようと見えないほどの高さになっていた。


だけれど私はやはり自殺だと思えなかった。

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