第3話 友情

 次の日、大学へ行くとキャンパスで私の前を行く香苗に出会った。何か悩んでいる様子でうつむき加減に歩いている。

「香苗、どうかした」


「うううん」

と言いつつ、涙ぐんでいた。


「本当にどうしたの」


「私、どうしたら良いか判らない」


「だから、何があったの」


「実は、近所の友人から突然に、創価学会に入っている事を告げられて、この事実を理解されないまま交際しても、今までの友人関係が何の意味もなさないって言うのよ。そして、学会の本を三冊渡され、これを読んで信仰を理解してもらいたいって言われたの。

 私は、その本を読みたくない。読んでしまうと、心が動いてしまいそう。私は学会へ入りたくない。でも、友だちでいたい」


「確かに、香苗は影響されやすいから、その本を読むと感化されるかもね。でも、その友だちだって本心から絶交しょうとしているとは思わないけど。ただ、自分の信仰を理解してもらいたいばかりに、そう言っただけだと思うよ。その本を読みたくなければ、そう言えばいいのよ」


「そうかしら」


「もし、本を読んで理解したとしたら、それは、香苗自身の根本理念が変えられてしまったから、理解できたと思うよ。それだけ、宗教というものは影響力があるんじゃない。学会へ入る考えがあるのなら本を読んでも構わないと思うけど。その意思がないのなら、やめた方が良いと思う。

 私の高校時代の友人も創価学会に入っていたのを、一切話さなかった。あれだけ人生について話していた二人だったのに。でも、私が入会しないことを知っていたからだと思うけど。この年代になって、宗教というものを対岸の火事のように見物していられなくなっているのね」


「そうね、勇気を持って友だちに話すわ。今まで友だちだったのだから、分かり合えるわね」

と、香苗は少し明るさを取り戻していた。


「それにしても、宗教というのは人間生活に深く入り込んでいるのね。人間が自分自身の存在を分かりかねているからなのかな」


「人って不思議な存在よね。そんな事が宗教につながるのかしら」

と言って、香苗は学会の友を思いやった。


「宗教学の後、何があるの」


「フランス語よ。美沙も来るわ。聖子は」


「哲学があるの。詩織と一緒だから、お昼は学食で待ち合わせよう」


「そうね。それにしても、聖子は好きね。一年の時にも社会学と心理学を受講していたわね」

と、呆れ顔をした。


「言われてみれば、そうかも」

私は苦笑した。 


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