第10話

「あ、そういえばガインの奴がここにきた時にお前に土産だってなんか置いてったぞ」

「あのガインさんがわざわざ手土産?」

「ああ、ほらそこだ」


 ウラと本を読んだ後、ウラは思い出したかのような声をあげると、店の端にある小さなテーブルを指さした。


「なんだこれ……でかい木箱だな。骨董品か何かか?」

「ガインは昨日見つけたって言ってたぞ」

「骨董屋にでも行ってきたのかな、開けてみるか」


 テーブルの上に置かれていたのは、俺の肩幅ほどありそうな大きな木箱だった。

 あの人が骨董品などに興味をもっとは思えないのだが、それ以外だと全く想像がつかなかった。

 俺は、興味なさげなウラをしりめに箱の蓋を掴んだ。


「な、なんだこれ……」


 俺は蓋を開けて目を見開いた。

 蓋を開けて目に飛び込んできたのは、


「ほう、珍しいな火鳥の卵か」


 燃える火鳥の卵だった。


「ウラ、これ何!? なんか燃えてんだけど! 卵が!」

「そう焦るな。これは火鳥、最近は不死鳥フィニクスと呼ばれておる魔物の卵だな」


 俺は焦りのあまり卵をどうしていいのか分からず、ウラに押し付けた。

 ウラは受け取った木箱の中の卵をまじまじと見ながらとても興味深そうな顔をする。


「ウラにとって珍しいって……」

「フェニクスはこの国に一体いるかどうかというほどに個体数が少なく、不死鳥の名の通り、一度育ち切ると灰となりまた卵へ戻る。その卵に戻ったのがこれだ。我も実物は初見だ」


 フィニクスの生き方、特性は知っていた。

 しかし、フィニクス自体もその卵も初めて見たし、ウラまでもがこう言っている。

 ガインさんはなぜこんなものを俺への手土産としたのだろうか。


「ん、これは手紙か?」

「本当か? どれどれ」


 卵を観察していたウラが一枚の紙を箱の中から取り出した。

 そういえばフェニクスの火は癒しの炎だと聞いたことがある。さっきも手で直接卵を触った時も熱さは感じなかったし、ウラが取り出した手紙も燃えたあとや燃える気配はまるでなかった。

 手紙をウラから受け取り、広げてみる。


「……あの人やっぱおかしいんじゃないか?」

「なんて書いてあったんだ?」


 手紙を開いてみて驚いた。簡単に説明すると、この卵はクーベルさんが取ったものらしい。クーベルさんは衛兵の仕事にくる前の少しの散歩中に魔物の小さな群れと森で遭遇したらしく、その群れを簡単に壊滅させたらしい。しかし、壊滅させた魔物の群れの中心には弱っている不死鳥がおり、クーベルさんは何を思ったのか魔法で弱ったフェニクスの火のついた体に魔法で冷水をかけた。すると卵が出てきたのでガインさんに預けて俺のもとへきたわけだ。


「フェニクスに水をかけるやつはどの時代でもあるんだな」

「確かに燃えてる鳥がいたら水をかけるかもしれないが、それでも魔物だ大きさが違うだろうに」


 ウラがハハっと笑う。

 俺は裏から卵を受け取ると、箱から取り出し、各方向から見てみた。


「これどうすんだ?」

「孵化させないのか?」


 この卵を孵化させるのはちょっと抵抗がある。なんせフェニクスだ。もうこの家にはドラゴンを一体飼っているのようなものなのに、そこにフェニクスまで追加するのだ。誰でも躊躇するだろう。


「えーでもなー」

「別にいいではないか、産まれた瞬間人型に変化するわけでもないんだ。たかが鳥なんだぞ?」


 まあ確かにそうだ。ウラのように人型ではなく、伝説級ではあるが鳥類だ。


「それにフェニクスはすりこみで親を認識する。懐かれないことなどないと思うぞ?」

「そうなのか? なら孵化させてみるか」


 懐くのならば気にすることはほとんどないだろう。

 それに、フェニクスの卵なんてこれから一生手に入らないだろう。このチャンス逃すのは惜しい。


「どうやって孵化させるんだ?」

「今夜一晩でもお前の布団の中にでも入れとけば孵化するんじゃないか?」

「適当すぎないか? 布団の中に入れるだけでいいならば自然ではどうするんだ?」

「自然では体が崩れた後の灰の熱で孵化するんだ」


 理にかなっているな。確かにそれならかなりのことがない限り安全に孵化できる筈だ。

 でもその灰の熱と布団の中はかなり変わりそうなのだが、やってみないことにはわからないができるのだろうか?


「すごいな。でも灰の熱と布団の中なんてかなりの温度の差がないか?」

「そんなこともないと思うぞ。フェニクスの火は熱くない。灰の熱は体温がほとんどだ。体温なんて布団の中とそう違わないだろう?」

「そうなのか、なら行ける可能性は高いかもな」


 それまでは木箱の中に納めておこう。殻も分厚く割れることはないだろうが、やはり少し心配だ。

 俺は卵を木箱に納めると、カウンターへと戻った。


◆◆


「じゃあ我は寝るぞーおやすみ」

「ああ、おやすみ」


 二階にある各自の自室前。俺はガインさんからもらった卵を抱えながらウラと別れ、部屋へと入った。


「これどうやって寝ればいいんだ。抱えるか……」


 布団に入ってみて気がついた。重いし硬い。

 抱えても胸が圧迫されて肋骨が当たる。


「寝にくい……」


 俺はそんな大きな卵を抱えながら夜を過ごした。


*あとがき

最後までお読みいただきありがとうございます。

五日ほど投稿できずに申し訳ありませんでした。お知らせを読んでくれた方はわかっていると思いますが、第9話を投稿した日にコロナにかかってしまい、そこから3日、4日ほど頭痛、喉の痛み、咳、熱、倦怠感、鼻水、筋肉痛などの影響で横になっていないと悪化してしまうような状態が続き、それでもなんとか書いてみようと思ったのですが、書き始めて少し経つと熱がすごい上がってかなり危険な状態だったので断念しました。毎日投稿が途切れてしまったことや話の内容が薄いこと、本当に申し訳ありませんでした。

それと、10話を超えて次の描きたい小説も書いていきたいので、少し投稿頻度が落ちます


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天才錬金術師は成人までに一生暮らせるお金を得たので王国の辺境でのんびりスローライフを過ごします 音緒 @Ne051

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