第9話

「わざわざありがとうございます」

「いいえ、何もかもやってもらって少しでものお礼に」


 パールさんの寝室のリフォームを終えた俺は、パールさんに勧められ、お茶を飲んでいた。

 パールさんのお茶は、なぜガインさんがあんなに断れと言っていたのかわからないほど美味しく、茶菓子まで出してくれた。


「お代はいただいているので大丈夫でしたのに」

「そういうわけには行きませんわ。それに、貴方とお話をしてみたかったですしね」


 話をしてみたかったと言うのはどう言うことだろうか。

 王都の話でも聞きたいのかもしれない。


「それにしても、とても本が多いですね。読書が好きなんですか?」

「ええ、幼い頃から集めてるの。御伽話が大好きでね」


 現在いるリビングの壁側にはとっても大きな本棚があり、その中にびっくりするほどびっしりと本が詰められていた。

 よく見れば全て世界の御伽話の本で、有名どころから、産まれて一度も聞いたことのないようなマイナーなタイトルまである。


「そんな御伽話でも一番好きなのがこの始祖龍様達の本なの。産まれて初めて読んだ本もこれでね、私のいちばんの宝物」

「へー、どんなお話なんですか?」


 パールさんは椅子から立ち上がり、おもむろに本棚に近づくと、端の方から一冊の分厚い本を取り出した。

 始祖龍の御伽話。世界各国に存在する御伽話の本でも一二を争うほどの量がある。

 たくさんあればあるほど多様な話があり、混沌を救った始祖龍の話や、王国を救ったという逸話まで存在する。そのため、今パールさんが持っている本の内容に俺はととても興味がわいた。


「これはね、天地創造と始祖龍の誕生のお話なの」


 そういえば始祖龍の誕生話なんて今まで一度も聞いたことがなかった。というか、始祖龍がどのような存在なのかなど、詳しい事を理解していない。学校でも習わなかったし、学ぼうとも思わなかった。

 しかし、今は違う。今俺の家には本物の始祖龍がいる。ウラのことを理解したいし、始祖龍についてもかなりの興味を持った。


「とても面白そうな内容ですね。考えてみれば始祖龍の誕生話なんて今まで聞いたことも考えたこともありませんでした」

「そうなのね、じゃあこの本貸してあげるわ」

「いいんですか?」

「ええ、もちろん。好きなものに興味を持ってもらえるのはとっても嬉しいもの」


 とってもありがたかった。

 なぜガインさんがあんなにも茶を断ることを勧めてきたのか、結局俺にはよくわからなかった。


「ではそろそろ私は帰ります。早く帰ってこの本を読んでみたいですしね」


 パールさんから本を受け取り収納魔法の中に入れ、俺は立ち上がった。

 そろそろウラの様子も気になったので帰ろうと思ったのだ。

 気になることを話していると時間はすぐ流れるもので、気づけば話を初めてもう二時間もの時間が経過していた。

 

「あらそう? じゃあまたいらっしゃってね。あなたと話すのはとても楽しかったわ」


 そういってパールさんは俺を玄関まで送ってくれた。

 俺はそんなパールさんに一つお辞儀をすると、俺は家への道を歩き出した。


◆◆


「ただいまー」

「お、やっと帰ってきたか。少々遅すぎやしないか?」


 パールさんの家から出てきた後、少し衛兵のクーベルさんと話し、帰ってきた。

 家に帰ると、ちゃんと寝ずにカウンターに座っていたウラが、ジト目を向けながら俺の帰りの遅さに文句を垂れた。


「すまんすまん。ちょっとパールさんとの話が長くなって」

「そうか、なら別にいいんだが」

「ありがとうな、ちゃんと店番してくれて」

「今日はクレイとガイン以外にそんな客が来なかったからな」


 約束通りガインさんもウラの様子を見てくれたようだ。また今度何かお礼をしなくては。


「ん、お主何かいいことでもあったか?」

「ん? ああ、パールさんから本を貸してもらったんだよ」


 俺がカウンターに座ると、隣にいたウラが俺の顔を見て言った。

 その問いに答えながら、俺は収納魔法の中から借りた本をウラに見せる。


「始祖龍の御伽話か。そんな物わざわざ借りんでも我が答えた方が早くはないか?」

「答え合わせをしたいと思ってな」


 確かに一理ある。しかし、ウラとこの本の答え合わせをするのも面白いだろう。どこが本当で、どこが間違っているのか。話しながら読みたいと思ったのだ。


「面白そうだな。我も他の始祖龍がどのように書かれてるか見てみたいぞ」

「じゃあ早速開いてみるか」


 店のカウンターで俺とウラは本を開いた。

 開いた瞬間本特有の匂いが広がり、かなり古い本なのだなと気づいた。


「世界は無に覆われ、星海も今だ誕生していなかった頃」


 俺はウラがわかりやすいように声に出す。

 ウラは目を閉じながら思い出そうとしているのか真剣な表情を浮かべた。


「神は地を作り、生命の種を蒔いた……」


 ただ俺は読み続けた。これが事実なのかどうかはウラに聞かないとわからないが、この本にウラの名前は一度も出ては来なかった。


◆◆


「……と、龍は言い残し地を去ったとさ」

「ふっ」


 俺が読み終えた頃、真剣な顔をして考えていたはずのウラは小馬鹿にしたように鼻で笑った。


「どうだった。この話は」

「まるで絵に描いたような理想だな。こんなのただの創作だ」


 ウラはキッパリと言った。

 俺もこの話が創作なのはすぐ気がついた。なんせウラの名前が一度も出てこなかったからだ。それに、智龍やその他の始祖龍の聞いたこともない逸話が並んでいた。


「だろうな。俺もそう思う」

「あの神がそんな面倒なことするわけないだろう。あやつは我らに全て押し付けてあとは傍観しておったぞ」


 天地創造の神をそんなふうに言えるのは多分世界でウラくらいではないだろうか。

 ここへやって来た時も今と同じようなことを言っていた気がする。

 本当にウラは人間の俺が理解してはいけなさそうなことまで平気で言うので聞いている方はとてもヒヤヒヤする。


「やっぱりと言ったところか」

「まあ我が産まれた頃に生きていた生物などあるわけがないからな。この世にあるその手の本など全て創作だろうことはわかっていた」


 確かに言われてみればそうだ。天地創造の神がどうやって地上を作ったのか、空を作ったのかなんて人間が知るわけがない。こんなこと言ったら多方に怒られそうな気がするが、結局は人間のただの想像でしかないのだろう。


「それでも創作にしては面白かったがな」

「それならよかった。安心してパールさんに返せるよ」


 世界で始祖龍が読んだ始祖龍の御伽話なんて他にないのではないだろうか。

 あったとしても、それはこれとはまた違った話だろう。

 やはり事実は本人に聞くのが一番手っ取り早いことを理解した。


*あとがき

最後までお読みいただきありがとうございます。

すみませんコロナに感染しました。そのせいで今回の話は文章がめちゃくちゃになってしまってるかもしれません。これからの小説の投稿も休まず続けますが、少し文章がおかしいかもしれません。そこは申し訳ありませんがご了承ください。



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