第8話

 俺がこの街にきて一ヶ月が経った。

 長いような短いような時間の中で、俺もかなりこの街に溶け込み、街の人とも仲良くできている。

 特に、冒険者の人々はよく俺の店にわざわざ足を運んでいろいろなものを買っていってくれる。

 この街初めてのお客さんだったいかつい冒険者の男性がうまく広めてくれたのだろう。本当に感謝しかない。

 そして、衛兵の二人とも仲良くさせてもらっている。話を聞けば、二人は元々冒険者の出らしく、名前を出会った順にガインとクーベルというらしい。

 最近は二人も休憩がてらに俺の店に来てくれることが増えてきており、店の中がかなり賑やかになってきている。


「ウラーちょっと店番頼んでもいいかー?」

「えーめんどくさい」


 今日は街の北側に住む陽気なおばさんの家のリフォームのために家具をわたしにいかないといけないのだ。

 最初はここで受け取るという話だったが、歳的にここで家具を渡すわけにもいかず俺自身が向かうことにしたのだ。


「頼むよ、多分この後クレイちゃん来るから」

「ならば仕方ないな。今度何かしてもらうからな」

「ああ、もちろんだ。じゃあ頼んだぞ」


 クレイちゃんとは、母親が不治の病、淵眠病を患っている少女のことである。

 あれから二日に一度くらいの頻度で薬を買いにくるので、うちの一番の常連さんだ。

 彼女も冒険者として稼いでいるようで、日々街の手伝いや、近くの森での薬草採取を頑張っている。

 ウラに相当なついており、ウラのことをお姉ちゃん付け呼びまでするようになってしまった。


「ああー」


 ウラがカウンターにグターっとするのを確認すると、俺は店のドアを開けて街へと向かった。


◆◆


「ガインさんおはようございます」

「おお、クレナか。今日は何用だ?」


 草原を歩き終え、街の門へとやってきた。まだ朝ということもあり、ガインさんが門の前で佇んでいた。


「今日はパールさんのところに家具を届けにいかなきゃいけなくって」

「あの婆さんのところか、大変だなお前も。あの婆さんにお茶を勧められたら断って帰れよ」


 何の話だろうか。わからないが一応胸に留めておこう。

 なんか嫌な予感がする。


「そういやあウラだっけか。あの少女は今日いないんだな」

「今日は店の番をさせてるんです。少し心配ですが多分うまくやってくれると信じて」


 多分なんとかなってるだろう。どちらかというとさっきのお茶の下りの方が心配だ。


「ほー、あいつ人見知りでちゃんと接客なんてできるか?」

「そこですねー。ちゃんと教えはしましたができるかどうかは……」


 ふるふると頭を横に揺らす。

 ウラ自身最近は人間というものにも理解が深くなってきたと言っていたし、少しは人見知りが解消されたことを願うばかりだ。


「そうか、じゃあ昼頃あたりにちょっとよって様子見てみるわ」

「本当ですか、ありがとうございます。もし寝てたりしてるようでしたら無理矢理でもいいんで起こしてやってください」


 本当にありがたいことだ。

 信じてはいるが、やはり心配なものは心配だ。それを様子見してくれるだけでかなり心の余裕ができる。


「ああ仕事行く途中にすまなかったな、足止めして」

「いえいえ、なんも迷惑じゃありませんでしたよ。では俺はそろそろ行きますね」

「ああ、頑張ってな。もう一度言うが絶対に茶は断れよ!」


 そんなに何度もいうほど重要なことなのだろうか。

 俺はガインさんと別れると、少し早歩きでパールさんの家へと向かった。


◆◆


 一方その頃店の中では


「ああ暇だ。あやつめ、クレイが来ると言っておきながら全然来ないではないか」


 机に頬杖をついたウラこと空龍ウラノスが天才錬金術師クレナ・メギストスに対する愚痴を漏らしていた。

 店の中は閑散としており、クレナが来るとウラに行ったはずのクレイすらいまだに来ない。


「まあいい。時間などいくらでもある」


 始祖龍の寿命は無限。世界と生き、世界と死ぬ。ウラも例外ではなく、それが運命に定められていた。

 だからウラの持つ時間は無限に等しく、いくら時間を浪費しようと失うことはない。

 手に余る時間を持ち、溢れ出るような知識を持つ彼女でも、失うものは得るものよりも多かった。


「あやつはいつ帰ってくるのやら」


 頭によぎるのはクレナのこと。

 初めてウラがクレナの魔力を見た時、彼女は驚いた。

 人間という貧弱な種族ながら、魔力の質、量共に自分と遜色がなかったからだ。

 ありえないと思った。たかが人間。眠ればすぎるような百年に満たない程しか無い時しか持たない種族。それが無限という時間を持つ自分に肩を並べるほどの力を有しているはずがない。

 彼女は気になった。だから出会う理由を作った。劣化の魔法を自らの翼に施し、星海という果てしない星々の巣から自分の守護する何もないただの平原と小さな街へと舞い降りた。


「しかし、蓋を開けてみればまだ年端もいかない幼児だとはな」


 ウラは一人呟き、一人笑った。

 今この場に誰かがいたのならば、ウラの突然の行動に怪奇の目を向けるだろう。


「だが、あやつには驚かされる」


 人間にあまり興味のなかったウラも、クレナを通し、人間というものを理解しようとしている。


「人間がこうも面白い種族だともっと前に知っておればな」


 未来に期待を学び、過去に後悔を知る。

 ウラとクレナの出会いは、まさに未来への期待のほんの始まりに過ぎなかった。


◆◆


「ごめんください」

「はーい、ちょっと待ってね」


 俺は街の奥、パールさんの家へとやってきていた。

 玄関の鐘を鳴らし、声をかける。すると、扉の奥から女性の声が返ってきた。

 

「いらっしゃい。わざわざありがとうねぇ」

「いえいえ、私は収納魔法を使えますから。こういうところはお互いに助け合っていかないと」


 声が返ってきて数秒後、玄関のドアが開き、中からまだまだ背筋がピシッとした、若々しいおばあさんが出てきた。

 人は助け合う生き物だ。それに、俺も商売人。お客さんには少しでもいい印象を残しておきたいと考えるのも当然のことだろう。


「じゃあ早速なのだけど、まずは寝室から置いて行ってもらいたいの。できるかしら?」

「もちろんです。ではお邪魔します」


 俺はパールさんの後に続き、家の中へ足を踏み入れた。

 

「とっても綺麗ですね」

「ふふ、私掃除が好きなのよ」


 寝室へと続くまでの道のりはひどく綺麗で、埃一つすら落ちていなかった。

 

「ここが寝室よ」


 何もないピカピカの部屋がそこにはあった。

 歩きづらい。そんなふうに思ってしまうほどに、この部屋を汚すことが大罪のように思えてしまった。


「じゃあここにベッドを置いてくださる?」

「わかりました」


 部屋の端、窓のそばに俺は大きめのベッドを、一つおいた。

 そうして、頼まれるように、その他の家具を寝室に置いていくのだった。


◆◆


 三時間ほど経っただろうか。日も高く昇り、そろそろ降り始めてきた頃。俺は寝室を完成させていた。

 

「これで完成ですか?」

「ええ、後は棚に大切な本たちを入れるだけです」


 完成した部屋はとてもすごかった。

 全てに統一感があり、広々として心地の良い部屋だった。


「よかった。では私はこれにてお暇しますね」

「よろしければ少しお茶でもいかがですか?」

「いいんですか? ではお言葉に甘えて」


 あ。

 朝ガインさんに言われたことを思い出したのだが、もう遅かった。気づいた時にはもう返事を返してしまっていた。

 お茶は断れ。一体なぜだったのだろうか。まあいいだろう。少し帰るのが遅くなってもウラはそんな文句は言わないはずだ。

 俺はそんなことを考えながら、前を歩くパールさんの後に続いた。


*あとがき

最後までお読みいただきありがとうございます。

気付けば前話でPV数1000を超えていました。本当にありがとうございます!! こんなに早い段階でいくとは思っていなかったのでとても驚きです。これからも頑張りますのでよろしくお願いします!

よろしければモチベーションのためにも、評価、作品のフォローよろしくお願いします!

 


 

 

 

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