第7話

「お待たせしましたー! ご注文のオムレツとライスですー!」

「ありがとうございます」


 俺たちがだべっていると、さっき注文した店員の女性が器用に片手で二人分の料理を運んできた。


「ごゆっくりお楽しみください!」


 そういって店員の女性はもう片方の手にある料理を次のテーブルに運びに行った。

 

「大変そうだな」

「人間には器用なのがおおいな」

「人はみんな不器用だよ」


 ウラは食堂でテキパキと動く店員の人たちの姿を凝視しながら、感慨深そうにしていた。

 ウラも人間に混ざる中で人間を学ぼうとしているのだろうか。

 

「でもお主も器用であの娘も器用だ」

「俺は不器用だよ。錬金術がちょっとできるだけのね」

「難しい物なのだな」


 料理や錬金術、家事全般ならできる俺でも、困っている人にどう接していいかなどはわからない。

 逆に、どんなに表面上が完璧な人間でも、実は裏では虫が苦手だったり、家事が壊滅的にできなかったりする。

 適材適所と言っただろうか。極東の国の言葉らしいが、よく言ったものだ。

 人には得意不得意があってそれを互いに補うことが必要になってくる。本当によくできた生物だと思う。


「そうだな。料理が冷めちゃうし早く食べよう」

「ああ!」


 今難しいことを考えても仕方がない。

 俺はウラと食べるこの料理の方が大切だ。

 俺の言葉ににぱっと顔を明るくさせるウラの顔をみると、そう思わざるを得なかった。


◆◆


「ごちそうさま」

「ごちそうさま」

「おお、ちゃんといえたじゃないか」

「ふふんっ」


 食堂での食事を取り終えた俺たちは、端の席で空になった食器に向かって手を合わせていた。

 前までは、人間の文化など我が守るわけなかろう。とまで言っていたウラも、最近はきちんといただきますとごちそうさまを言ってくれるようになった。

 

「偉いなー!」

「だろうだろう」


 子供の教育というのは多分こんな気分なのだろう。

 最近ウラの扱いというものに慣れてきたような気がする。

 多分ウラは今まで人間に敬われたことや讃えられたことなどなかったのだろう。少し褒めてあげるだけでもやる気になってくれるのでかなり扱いやすい。

 簡単にいえばかなりチョロい。


「それにしても本当に美味しかったな」

「そうだな、少し量が少ないとは思ったがかなり美味しかったぞ」


 王城などで出される貴族の味とはちがう、庶民の味なのだが、それでも王城で出される料理と引けを取らないほど美味しかった。

 いつもなら今食べた分の三倍ほど食べているため、ウラには少し少なかったようだ。


「家帰ったらもう少し食べるか?」

「いいのか!?」

「ああ、構わないぞ」


 流石の胃袋だ。

 今日は元々家で食べるつもりだったから食料は準備してある。

 あとは調理するだけなので、別に面倒くさがることでもない。

 少しウラに甘すぎるかもと思うところはあるが、ウラが嬉しそうなので別に気にしなくていいだろうと思ってしまう。

 

「あ、すみません」

「お会計ですか?」

「はい、お願いします」


 俺はたまたま近くを通りかかった店員の人を呼び止めお会計をする。

 街の食堂ということもあり、自炊よりはお金がかかるものの、ウラの分を入れれば相当なプラスだ。


「ありがとうございましたー! またいらしてください!」

「はい、ありがとうございました」


 俺たちは会計を終えると、そのまま店員さんの見送りのもと帰路に着いた。

 ウラもそこまで多くは食べれなかったものの、かなり満足してくれたようでよかった。

 ウラが望むのならば定期的にきてもいいかもしれない。


「また行こうな」

「ああ!」


 かなり上機嫌なウラと共に、少し日の暮れ始めた街路を歩いた。


◆◆


 街の食堂での外食を終え、夜。

 ウラの追加の食事も終わり、残るは後片付けだけとなっていた。


「なあ、そういえ聞きたかったんだが淵眠病って知ってるか?」

「あの不治の病と呼ばれている奇病のことか?」

「ああそれだ」


 俺は今日の昼、少女に聞いた母親のことが気になってしまいウラに尋ねてみた。

 もしかしたらウラなら治し方とまではいかなくても小さな情報くらいなら持っているかもしれない。なんて小さな希望を抱きながら。


「名前は聞いた事があるが詳細に着いてはさっぱりだ。なんせその病院自体が出てきたのがつい百年ほど前の話だからな」

「そうか、一体なんなんだろうなこの病気は」


 エリクサーも効かない病気。今までの歴史を見てもそのような病気は存在したことがなかった。

 もしかしたら原因は別にあるのかもしれないと研究した人がいたらしいのだが、それでも何一つ共通点を見つけられなかったようだ。


「まず病気かどうかも怪しいぞ」

「どういうことだ?」

「病気というものは少なくとも人を体の内側から蝕むものだ。そしてそういうものは共通して必ずエリクサーがいやしてくれる。しかし、この淵眠病には効果がない。つまり、身体に害となるものではないのだ」


 ということはあくまで淵眠病に罹っている最中というのは寝ている状態と全く同じ状態ということだろうか。

 そう思うと確かに病気とはまた別のものという認識の方が正しい気がする。

 しかし、そうなってくるとさらに原因がわからない。精神的な理由なのだろうか、それとも魔物の影響? どちらも違う気がする。


「今のままじゃわからないな」

「ならば今度智龍を訪ねるのはどうだ?」

「智龍ってあの智龍? そんな簡単に訪ねてもいい物なのか?」

「そろそろ我もあやつを起こそうと思っていたしちょうどいいわ」


 そんな遠足のような気持ちで訪れていい場所ではないような気がするのだが。

 それに、智龍は淵眠病が見つかった百年前にはもう眠りについているはずだ、存在自体知らないのではないだろうか。

 

「今智龍は寝てたから知らないんじゃないかって思ったな?」

「正解だ」

「やっぱりな。あいつはな、世界樹と意識を繋ぐことができるんだ。そしてそこからこの世界の知恵を吸い出している。それをあやつは睡眠としているのだ」


 規格外だな。素直にそう思った。

 なんせ世界樹というものはこの世界の全てを支えているとまで言われる世界の基礎的存在だ。

 それを我が物のように使えるほどの実力を持っていることが始祖龍なんだな、と思わせる風格があった。


「しかし、行くのはいいがまだ先だ。まだここへきて一カ月も経ってないんだ。いきなりそんな遠出をするわけにはいかない」

「それもそうだな。我もそれには同意見だ。ここの地域には我にもわからない何かが潜んでいるからな。それを認知するまではここを離れられん」


 なぜだろう。王都にいた時よりも激動の日常を過ごしている気がする。

 しかし悪い気はしないから不思議だ。


*あとがき

最後までお読みいただきありがとうございます。

前回行った通り少し今回は短めになってしまいました。そして急いで書いたので至らない部分が多くあるとおもいますが、これからの話で元を取るので多めに見てくだされば幸いです。


これからのモチベーションになるのでよければ作品のフォローと評価お願いします!

 


 




 


 


 


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