第6話

「おーいウラーそろそろ翼もいい感じになってきたんじゃないか?」

「ん、ああもう綺麗になってるぞ」


 ウラがやってきてから二週間が経過した。

 そろそろウラの翼も綺麗になっており、ウラがもうここにいる理由もない。

 寂しいが、それでも俺がウラを引き止める資格など全くない。


「そうだったのか……じゃあもうそろそろいくのか?」

「うーん……我、もうここに住みたいのだが」

「え? ここ住むの?」

「飛んでるよりここで睡眠をとる方が楽しいし楽だという事に気づいてしまったんだ」


 まさかの展開だ。俺は一体の始祖龍を堕落に落としてしまったらしい。

 多分過保護というか甘やかしすぎたかもしれない。


「それは大丈夫なのか?」

「まあ我が星海を飛んでた理由なんて暇つぶししてただけのようなものだからな」

「案外適当なんだな」

「我だけじゃないぞ。今の智龍だってどうせ寝坊だ」


 おとぎ話の始祖龍の姿が音を立てて崩れ去るのがわかった。

 もっと厳格なイメージがあったのだが、本当はかなりマイペースだったなんて。

 隣国の人に教えたら倒れそうなくらいの衝撃的な事実だ。


「寝坊で何百年って……」

「我もお主に起こされなかったらそのくらい寝るのが普通だぞ?」

「よかったいつも起こしておいて」


 家の中で永遠と寝てられていたらかなり困る。

 それに一人じゃないのに一人というのはどこか寂しい気がする。


「それでお主の作る食事を食べないのは龍生の半分を損してるからな」

「そこまでの腕は持ってないよ。そうだ、今度街の食堂にでもいってみるか。よく街の人におすすめされるしな」


 多分ウラは今まで人間の作る料理を食べたことがなかったのだと思う。だから俺の料理でもそこまでいってくれているのだろう。

 俺も多少料理はできるが、それを職業としてやっている人には流石に負ける。


「うまいのか?」

「食べたことないからわかんないけど、この街の人は全員美味しいって言ってたぞ」


 街の人にそれほど言われる料理。前から興味があったのだが、ウラのこととかあり行く機会を逃していた。


「そうなのか。じゃあ今日行こう!」

「え、今日?」

「そこまでのものを食べないのは勿体なくないか?」

「いやまた今度って……」

「勿体なくないか?」


 ドラゴンの圧がすごい。

 どんだけ食いたいんだよ。

 別に食べに行くのは構わないのだが、ウラが一人で店の物全部食べそうで怖い。


「はいはい、わかったよ。でもいつもみたいに沢山は食べれないからな」

「承知の上だ」


 時々目の前にいるこの少女は本当に始祖のドラゴンなのかどうか疑ってしまうことがよくある。

 朝起きるのは遅いし一日中ダラダラとしているし、わがままだし。


「仕方ないな、今日だけだぞ?」

「ああ!」


 こうみていると子供っぽいなと感じてしまう。

 見た目も俺と同い年かそれ以下くらいだからか、さらにそう思ってしまう。

 まるで妹ができた気分だった。


「じゃあ行くまでに着替えておけよ」

「わかっておる」


 俺は二階にあるリビングに寝転がるウラにそう伝えると、一階の店へと降りた。


◆◆


「ごめんくださーい」

「いらっしゃいませ。何か探してる物があるのかな?」


 俺が下に降りてくると同時に、店のドアが音を立てて開いた。

 そこから入ってきたのは、まだまだ成人していないだろう小さな少女だった。

 俺はその少女に近づき目線を合わせる。

 この街ではお使いを子供に頼む親がかなり多いらしく、よくこのくらいの年の子がここへ来る。


「あのね、お父さんがいなくてお母さんも病気でね、ずっと起きないの。だからね、私がお母さんのためにお薬を買わないといけないんだ」

「そうなんだ……大変だったね。どんなお薬がいいのかな?」


 こんな小さな女の子が両親の助けもなく必死に生きている。そんな事実が深く俺の心に刺さった。

 しかしそんな彼女に俺ができることなどいい薬を売ることくらいしかない。


「緑色のドロドロしてるやつ!」

「睡醒薬か……。ちょっと待っててね、準備するから」


 睡醒薬、この世界に存在する唯一の不治の病、淵眠病の進行をほんの少しだが遅くするための薬だ。

 淵眠病というのは、一度眠りにつくと夢から醒めなくなり、そのまま永遠の眠りに着くという単純だがいまだに治療法が確立されていない不治の病だ。

 普通の病気ならばどのような傷も病気も治すことのできるエリクサーを使用すればいいのだが、この病気は違った。なぜかはわからないが、まるで回復する兆しが見えないのだ。

 

「はい、これで銅貨三枚だよ」

「はい!」

「ありがとう。またね」


 今俺が彼女にしてあげられることなど何一つ存在しない。可哀想だが、俺はただの街の錬金術師でしかないのだ。

 店のドアを開けて元気に走り出す少女の姿を見て、一層心にくるものがあった。


◆◆


「ここが街の食堂か。沢山人がいるな」

「本当だな、それだけ美味しいってことだろう」

 

 あの後、ウラが着替え終わり行く支度が整った後、俺たちは街の食堂へとやってきていた。

 店の中は繁盛という言葉では例えきれないほど多くの人が、店の中で食事を楽しんでおり、俺たちもその人々の合間を縫うように進み、一つの空いてるテーブルへと座ることができた。

 

「俺はオムレツとライスにするけどウラはどれにするんだ?」

「我も同じのにする」

「わかった」


 俺はテーブルに置いてあったメニューの表の中からオムレツとライスを選ぶ。

 ウラも俺の食べるものが気になったのか、メニューの写真をじっくりみると、オムレツとライスを選んだ。


「すみません」

「はい! ご注文はお決まりでしょうか?」

「はい、オムレツとライスを二つづつお願いします」

「わかりました! 少々お待ちください!」


 俺はテーブルの近くにいた女性の店員に注文の内容を伝えた。

 彼女は俺の注文を聞くとニコニコとしながら元気にそういうと、奥へと下がっていった。


「かなり時間かかるかもしれないがじっとしてるんだぞ」

「我を子供か何かと勘違いしておらんか?」

「いつもいろんなところをうろちょろしてるから言ってるんだよ」

「そんなことはないと思うのだが、まあ言うことは聞いてやる」


 俺がチラチラと周りを見るウラにじっとしてるようにいうと、ウラは少しむすっとしたような表情になった。

 いつもの家での行動を見直してから言って欲しい物だ。


「そういえばこの辺りってウラの守護地なんだよな?」

「ああ、ちょうどお主の裏手にある雪山と街の向こうにある森林の半ばほどまでだがな」

「それでここら辺に魔物が全然いないのもその守護地っていうものの影響なのか?」


 急に俺の頭に浮かんだ疑問をウラに聞いてみた。

 ここへきたばっかの時に守護地がどうのこうのという話を聞いたような気がしたが、もしかするとそれと魔物の少なさに関係があるかもと思ったからだ。


「いいや、それと守護地にはなんの関係もないな。多分我とは別の何者かの影響だろう」

「別の何者か?」

「ああ、我がここへ降り立った時に感じたのだ。自然で発生したとは思えないほどの濃い魔除けの魔力をな」


 人間だろうか。けれどウラも正体を掴んでいなさそうな口ぶりなので少なくとも街にはいないのだろう。

 そうなると一体誰だろうか。この街を守ってくれているのだろうか。

 疑問は深まるばかりだった。


*あとがき

最後までお読みいただきありがとうございます。

申し訳ないのですが、明日は卒業式とその打ち上げがあるので内容が短くなってしまうと思います


もし少しでも面白いと感じたら作品のフォローと評価よろしくお願いします!



 

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