第5話
「起きてください! 何時間寝るつもりですか」
「んん……あとちょっと」
初めてドラゴンのお客さんが来てから一週間、接客とドラゴンのお世話という謎な日常を過ごしてきた。
ちょっと目を離せばフラフラとどこかに行ってしまうし、かなり怠惰な性格のようで朝は毎日今のような状況が続いている。
それでも家の中に俺以外の誰かがいるというのは暇をすることもなく、さらに始祖のドラゴンということで、面白い知識などを時々授けてくれるので、どちらかといえば楽しい毎日だ。
「ダメですよ、今日は街に買い出しに行かないといけない日なんですから。ちゃんと手伝ってもらいますよ」
「えー行きたく無い……」
「ちゃんと起きてください。買ったものは収納に入れればいいですけど、ウラノス様の冒険者カードを作らないといけないんですから」
俺もそうだったが、毎度毎度街に入るたびに税を払うのはとっても面倒くさい。それならウラノスにも冒険者カードを作ってもらおうと思ったのだ。
あと三週間と少しもしたらいなくなってしまうが、それでもある分には困らないだろう。
「ウラ」
「なんですか?」
「様なんていらない。ウラだけで充分だ」
「流石に恐れ多いですけど……」
「ウラ」
「はいはい、わかりましたよ」
始祖龍を愛称呼びとはかなり色々方面に喧嘩を売る事になりそうだが、本人が望んでいるのだから仕方がない。
「敬語もいらない。元々我は讃えられる他のドラゴンとは違うからな」
「流石に敬語を外すのは……」
「同居人に敬語は些か距離がないか?」
同居人じゃなくて同居龍なんですがね。
まあでも言われてみれば確かに多少距離がある話し方をしていた気がする。
しかしそれでも年の差が万を確実に超えている相手にタメ語は不躾ではないだろうか。
「わかった。これからはタメ口で行くが本当にいいのか?」
まあでも本人がいいというのだから俺も楽な話し方をしようと思う。
これで何を言われようと知らん。諦めだ。
「ああ。我もその話し方の方が気を遣わなくて楽だからな」
そういうものなのだろうか。まあ確かに俺も弟子に敬語を使われるのは少しやりづらかったような気がする。
それとこれとはわけが違うような気もするがそういう事にしておこう。
「それならよかった」
「じゃあ我はもう少し寝る」
「早く起きろ!!」
俺はウラが被り直した布団を勢いよく引き剥がすのだった。
◆◆
「クレナはなぜこんな不便な場所に住んであるのだ?」
「多少街から遠いけどそんな不便か?」
ウラを起こして朝食をとったのち、俺たちは家と街の間にある草原を歩いていた。
確かに街まで五分かかるし帰りは上り坂だが、それだけだ。
街まで行くのに三十分かかるとかなら相当面倒くさいが、五分なんてあっという間だろう。
「もっと街の中や王都などに住めばよかっただろう?」
「あーそう言う事か。まあ一応前は王都に住んでたんだ」
「そうなのか? ならばなんでこんな辺境に?」
「まあいろいろ理由はあるんだがな、一番の理由はもう働く意味のないほど稼いでしまったからだ」
まあ普通の人ならばウラと同じことを考えるだろう。しかし俺はもう人と関わらなくてもよかったのだ。
欲望に塗れた薄汚い大人も、嫉妬を行動に移す大人ももううんざりだったのだ。
だからお金という表向きの理由を立てて王都を去った。
「まあ人間にはいろいろあるあるようだな」
「簡単に言えばそういうことだな」
流石というべきか。ウラはこの一週間の間に俺の気持ちを察してくれることが多くあった。
多少不器用な言い回しだが、それでも俺はウラのそういうところに励まされる事が多かった。
「緊張するな」
「何がそんなに緊張するんだ?」
もうそろそろ入り口の門に着くというところでウラは少し引き攣った顔を浮かべる。
まさか始祖のドラゴンにも緊張することがあるなんて……と少し驚いたが、初めての街というのはそれなりに緊張するものだ。
「大丈夫だと思うぞ。俺が知ってるこの街の人はいい人しかいなかったからな」
「それでも人というのにあまり関心を持たなかったから多少関わり方に戸惑ってしまうのだ」
その割には俺の家のドアを堂々とこじ開けてくれたが、そこら辺はどうなのだろうか。
もしや俺は人間判定されていないのかもしれない。
「ほらここだ」
そんな冗談を考えているうちに、俺たちは門の前へと辿り着いた。
「お、てめーかぁ? ガインのやつが言ってた奴はー」
「ヒッ……」
やばいウラがビクッとしながら俺の後ろに隠れてしまった。
この人は前の衛兵が言っていた昼と夜の人だろうか。すごい人類を憎んでそうな見た目をしている。
「はい。一週間ほど前にここに引っ越して来ました。これからよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそー」
やばいまじでこの人の性格がわからない。
見た目と話し方はかなりやばい人のそれだが、もしかすると中身はいい人なのかもしれない。
「ほら、ウラも挨拶しろ」
「よ、よろしく頼む」
「ああ、よろしく」
やっぱりいい人なのかもしれない。
それにしてもウラの人見知りさはかなりひどいものらしい。今も俺の後ろにぴったりだ。
「ほら、通らねーのかぁー?」
「え、でもウラの通行税は」
「いやいや人外に税はかからんねーわ流石に」
「「!?」」
バレていた。今のウラは翼も角も尻尾も出していない純粋な人の形をしているはずなのだが、今の一瞬のやりとりのうちに見極められていた。
「なんでわかったんですか?」
「なんとなくだ。長年この仕事やってるとなぁー人かそれ以外かの違いがはっきりわかるようになんだよ」
ウラが若干引いている。まあ確かにそこまで行くと、もはやすごいを通り越して気持ちが悪い。なんせウラの人化魔法を見破るなんて普通は不可能だからだ。それに俺の後ろにずっといたから見極める暇なんてほんの少ししかなかった。
多分衛兵という職業がすごいんじゃなく、この人自身がかなりのやり手という事だろう。
「できればこのことは内緒でお願いします」
「ああ、別に興味ねぇ」
本当にありがたい。ウラが人に少しでも馴染めるようになるためには人間として振る舞った方が絶対にいい。ドラゴンなんて言ったら避けられるのは目に見えている。
そうなったらウラの人間に対する印象を少し歪んだものになってしまうかもしれない。
それならば絶対に隠すべきだと俺は思う。
◆◆
「我帰ってもいいか?」
「ダメ。やることなくてもついてくるだけついてきて」
その後、無事に街の門を潜ることができた俺たちは、二人市場の方へと向かっていた。
ウラには税がかからないらしいので冒険者カードを作る理由もなくなり、ここにいる理由もないのだが、一人で返すと厄介ごとを多く引き連れて帰りそうなので、俺の隣に置いておく事にした。
「街というのは人がたくさんいるものなのだな」
「そりゃ街だからな」
「ドラゴンには群れる習性など全くないから珍しく感じてならん」
確かにドラゴンはほとんどが孤独に生きている。たまに互いで行動している時もあるらしいが、人間のように棲家をまとめるという行動はしないらしい。
そう考えると人間はなぜ集団生活をするようになったのだろうか。もしかしたらウラに聞けばわかるのではないだろうか?
「ウラはなんで人間が集団生活を始めたか知っているか?」
「知るわけがなかろう。その頃は他の生物にまるで興味がなかったからな。そういうことは智龍に聞くべきだ」
「始祖のドラゴンとそんな簡単に会えたら苦労しないわ」
相変わらずウラの話のスケールはデカすぎる。智龍なんて隣国で神とまで崇められている存在だ。
もう何百年も姿を表さないせいでただの伝説、おとぎ話だったのではないかとまで言われるほどだ。
「あいつのことだからどうせまた世界樹の麓にでもいるだろうけどな」
「場所までわかるんだ……」
やはりドラゴンというものはわからない。
けれどそれ以上に知りたいと感じた。
*あとがき
最後までお読みいただきありがとうございます。
ウラが出てきてから書くことが多くなってきて混乱し始めてきている現状ですが、なんとか毎日投稿を続けられそうです。
もし少しでも面白いと感じたら評価と作品のフォローよろしくお願いします。orz
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