第3話
「こ、これは……!」
「ただのポーションです」
「なんて質の高い……」
「ただのポーションです」
「こんなのが市場に出回ったら……」
「だからただのポーションです」
なぜだろう。俺のポーションを初めて見た冒険者や商人は目玉が飛び出すんじゃないかというほどにポーションを凝視する。
まあ確かに他の錬金術師のポーションと比べたら多少質がいいかもしれないが、それだけだ。結局はただのポーションでしかない。
自分で使ったことがないためなんとも言えないが。
「それで武器なんですけど」
「ん、ああ、武器な」
「元になる素材は何がいいですか?」
「魔力鋼で頼む」
魔力鋼の大剣なら確か収納魔法に入ってた筈だ。
それにしてもそんなにポーションが気になるのだろうか。ずっとポーションを眺めては何やら考え事をしている。
「ほっ。重いな」
ずんっ。という重みを含んだ音と共に大剣を取り出して地面に突き立てる。
よくこんな重いのを軽々と震えるなと思う。俺は絶対無理だ。
「ほう、収納魔法持ちの錬金術師か。才能に恵まれたみたいだな。大切にしろよ」
「そうですねありがとうございます」
この才能がなかったら今頃何をしていただろうか。多分実家の家督を継いでいただろうが、想像ができない。
そういえば引っ越すこと両親に伝えてなかったかもしれない。
まあ伝えるのは日常が落ち着いてからでいいか。
「それにしてもいい剣だな……ドワーフが打ったみたいだ」
「流石にそこまでの剣は鍛冶屋の仕事を取りかねないんで作りませんよ」
作らないだけで作れないとは言ってない。
一回作った時は切れ味が良すぎたため、適当な一振りでも斬撃が飛んでしまい店の中の商品が全て真っ二つになってしまった。
そしてそんな剣を街中で振るったとしたら相当な被害が出ることは間違いない。そのため俺は本気で武器を作るのをやめようと誓った。
しかしそれでも前の俺が誠心誠意込めて作ったのだ。これで勘弁して欲しい。
「だが、こんないい武器相当な金がかかるだろ。予算は銀貨十五枚ほどだぞ?」
「いえ、ポーションと大剣で銀貨十枚です」
「まじかよ……これで銀貨十枚って、破産しねーか?」
俺の話を聞いて絶句する男。
ぶっちゃけた話、もうお金はいらないほど稼いでるので料金受け取らなくてもいいのだ。材料費も無料だし。
「いえいえ、これでも私まあまあ腕の立つ錬金術師でして、かなりお金には余裕があるんです」
嘘はついていない。
自負できるほどの実力がなければ国家錬金術師なんて大役任されるわけがない。
「だろうな、兄ちゃん以上の錬金術師見たことねーからよ」
「ははは、またご冗談を」
うん、実は俺も見たことない。
無から金を錬金する錬金術師が他にいたらそれはもう大騒ぎになっている筈。俺の時になったのだから間違いない。しかしそんなことはたったの一度も、歴史上ですら見たことがない。
「ありがとよ、ここに越してきたってことは店を構えたってことだよな、他の奴らにも宣伝しとくから頑張ってな」
「ありがとうございます」
代金を受け取り、商品を渡した。
ありがたい話だ。一人前の冒険者に宣伝してもらえればかなり店も認知されるだろう。
まあ行き来は若干不便だが、そこはご愛嬌ということで許して欲しい。
手を振る男に腰をおり、ありがとうござましたと礼をする。
「かなりいい人だったな。名前聞きそびれちゃったけど」
もしかしたらまた今度お店に来てもらえるかもしれないし、その時にきこう。
「よし、次こそこの街を見て回ろう」
当初の目的にやっと手を出すことができる。と言っても後二時間もしたら一度冒険者協会に戻らなくてはいけないのだが。
この街に他の錬金術師がいたら挨拶もしておきたいし、まだまだやることばかりだ。
◆◆
「二時間じゃ周りきれなかったな」
街を周り初めて早くも二時間が経った。
二時間という時間の間に街の四分の三ほどを周り終え、今は冒険者協会へと戻っている。
あと四分の一くらい周りきれよ、という話だが、足が痛いので許して欲しい。
「すみません、冒険者協会のカードを受け取りに来たんですけど、できてますかね?」
「メギストス様ですね? はい、もうできていますよ」
冒険者協会の戸を開け、さっきの受付まで歩いていき、確認をする。
やはりもうできていたようだ。もう少し早くきてもよかった気がしないでもない。
「どうぞ、こちらが冒険者カードです」
「ありがとうございます」
俺は受付の女性に差し出されたカードを受け取り、少し眺める。
やはり付与系統の魔法がかけられている。内容は……紛失防止と複製無効か。初心者魔術師でもかけられる付与魔術だ。
でもひとまずこれで街へ入る時の税を毎回払わなくて済むので一安心だ。
「すみません、ところでメギストスって……」
俺がカードを収納魔法にしまうと、それを待ってたように受付の女性が耳元で囁いてきた。
やはり知っている人は知っているのか。別に隠す気なんて最初からなかったため別にバレてもなんとも思わないが、それで街の人達から距離を取られるかもなんて考えてしまう。
「そうですよ。まあ今となっては何の意味も持ちませんがね」
たかが苗字。まあ一応貴族という立ち位置にはなるが、領地も持たないため形だけのものだ。
「やっぱり! 前に王都で受付の研修を受けてる時に聞いたんです。この国には世界で一番の錬金術師がいるって話を。そしてその人の名前が、クレナ・メギストス」
「はは、そんなふうに呼ばれていたなんて恥ずかしいですね。ちょっと錬金術師の天賦の才があっただけなのに」
はしゃいだように表情をにこやかにしながら話す彼女。
世界は広くて本当に俺がいちばんの錬金術師かどうかなんてわかるはずもない。しかし、それでも俺を世界一と信じてくれる人たちがいるのはとても嬉しいし、自信になる。
「でもなんでこんなところに?」
「お金が集まったから静かなところに行きたくなったんですよ。王都はやっぱり私には合わなかったみたいで」
「ふーん」
「本当ですよ」
彼女はこちらを疑うような視線を向けてくる。
実際は本音の一つとでも言ったところか。そう易々と全てを言えるほど人を信じていないのだ。
◆◆
「カードありがとうございました」
「またのお越しをお待ちしております!」
受付の女性から少しの間カードの説明や冒険者協会の説明を聞いたのち、俺は自分の家に帰るため、冒険者協会を出た。
そろそろ日は西の空に沈み始めており、家の煙突からは白い煙が何本も伸びていた。
「お、君は朝の少年じゃないか」
俺が町の門をくぐると、朝もいた衛兵が俺に気が付いたらしく話しかけてきた。
「お疲れ様です」
「ありがとう。そういえば無事に冒険者協会のカードは取れたか?」
「はい、何事もなくとることができました」
「それならよかった」
ずっとここにいるなんて暇そうだなーなんて思いつつ、心配そうな顔をする彼に無事に取れたことを説明する。
「一日中ずっとこうしてるんですか?」
「いいや、さすがにこんな静かなところにずっといたら頭がおかしくなっちまうよ。俺は朝と夕方でもう一人のやつが昼と夜ここにくるんだ」
俺は疑問に思ったことを彼に聞いてみた。さすがに一人では回せないと思っていたが、やはりもう一人いたらしい。
これからもここの門の衛兵にはお世話になることが多そうなので仲良くするのはいい事だろう。
「大変ですね。やめたいとは思わなかったんですか?」
「まさか、何度もやめたいと思ったよ。けどな、ここの門はたまに魔物の大群が押し寄せるんだ。理由はわかんねーが、俺がここにいないとこの街は大変なことになる。そんな重大な仕事俺とあいつ以外に出来っこしない。だからやめるわけにはいかないんだ」
すごい。純粋にそう思った。自分の仕事に責任をもってこなしているし、そのもう一人とやらにも絶大な信頼を置いている。仕事を放り捨てて逃げてきたような俺とはまるで違うと思った。
というか今の話を聞いてる分だと俺の家魔物の大群に押しつぶされたりしないよな……そんな不安を抱きつつ、俺は衛兵に別れを告げて再び帰路に就いた。
*あとがき
お読みいただきありがとうございます。
それと、完全に投稿するのを忘れていました。本当に申し訳ありません。これからはちゃんと投稿していくので、モチベーションのためにも評価とフォローのほうよろしくお願いします!!!!orz
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