第二十八話 カロリーネ出陣

 その報告が上がって来たのは夏も真っ盛りの七月初めでした。


 帝国軍がもうヴィーリンを包囲しているという報告を受けた後でしたね。詳しい情勢は分かりませんけど、私はあまり心配してはいませんでした。アルタクス様ならきっと宿願を果たされるだろうと信じていましたので。


 しかしこの時私が受けた報告は西征に関わる報告ではありませんでした。


 国境に派遣しているハーシェスからの報告だったのです。ハーシェスには補給基地の状況の他、国境に不穏な動きが無いかどうかを監視させていました。


 そのハーシェスから使いがもたらされたのです。私は首を捻りました。なんでしょうね。補給が滞っているという報告は受けていませんし、帝国軍は順調に進撃しています。それなのにハーシェスからの「至急」という報告です。


 しかし書簡を見た私は一瞬でハーシェスの報告の重要性を理解しました。いつも落ち着いているハーシェスが慌てる訳です。


 それはハウンドール王国に不穏な動きありとの報告でした。


 詳しく読むと、ハウンドール王国に亡命している反エルケティア派のローウィン王国貴族が、ローウィン王国内の帝国に反感を持つ貴族と呼応して、帝国軍の後方を脅かそうとしているという話なのでした。


 ハーシェスと彼女に付けたゾルテーラという軍官僚はその情報を手に入れて調査を始めたのですが、途中で様々な妨害を受ける事になったようです。


 命の危険さえあったという話で、私の側近であり、皇帝の印の使用さえ許されたハーシェスが、帝国内でそんな妨害を受けるとは俄かには信じられません。当地の太守であるエルムンドは何をしているのでしょうか。


 ハーシェスは妨害にも負けずに情報を集め続けたようです。そして、彼女は重大な情報を掴みます。


 ハウンドール王国で蠢動するローウィン王国亡命貴族の中に、あのケルゼン様がいるというのです。


 ……その事を知った時の私の気分を想像してみてくださいませ。


 あの、ケルゼン様です。私の元婚約者にして元王太子にして、愚かにも私を婚約破棄して王都から追放してくれた、あのケルゼン様ですよ。


 それが追放先であった修道院から抜け出してハウンドール王国に亡命し、亡命貴族と合流して「我こそはローウィン王国の正統な王」だとかぬかして反帝国運動を反帝国運動を繰り広げているというのです。


 ……ふ、ふ、ふ、


 ふざけないで下さいませ!


 私はキレました。激怒しました。よりにもよってあのバカ王子が、思い出すのも忌まわしいあの元婚約者が、私の不幸と不運の諸悪の根源が。自業自得の没落を人のせいにした挙句に「正統な王」ですって?


 バカも休み休み言った方がよろしいですわよ! 挙句に帝国に、私に、アルタクス様に刃向かおうとは!


 私があまりにも怒り狂うので、私の側近や官僚は逃げ出してしばらく私の側に寄り付かなかったほどです。


 しかし私は怒りをなんとか鎮めると、歯軋りをギリギリとさせながらも対象方法を考えざるを得ませんでした。


 あのバカ王子の能力は問題外ですが、その血筋の正統性はバカに出来ません。各国の王家は神聖帝国皇帝、つまり西方式大女神教の指導者によって、神の名の下にその正統性を保証されています。


 お父様がローウィン王国を制圧しながらも、国王を追放もしくは処刑して、自ら王になることが出来なかったのはこの為です。簒奪を行ったお父様を神聖帝国皇帝が、王として認める事はまずないでしょう。だからお父様は王位に就かず、ベルマイヤーを王にする道を探っていたのです。


 ですから、ケルゼン様が亡命先で「我こそは正統な王」だと名乗りを上げたなら、彼を王として支持するものは国内外に多く現れる事でしょう。


 ローウィン王国にも潜在的な反エルケティア派、反帝国派は多数いるでしょう。その潜在的な反乱分子と、正統な王位継承者であるケルゼン様が結び付いたなら、これは侮れない危険要素になりかねません、


 特に今、帝国軍はローウィン王国を通過して西征に向かっています。ローウィン王国の動揺は即ち遠征軍後方の動揺になり、補給路、後退路の不安になります。


 古来、幾つも遠征軍が後方を遮断されて浮き足立って敗れました。私は書物で読んでそれを知っています。後方支援は私が任された皇妃としての職務で、アルタクス様をこの件で煩わせる事は許されません。


 私はこの件に対する対処方法を考え、決断しました。


  ◇◇◇


 帝国の西の外れは丘陵地帯で、国境の川を越えるとその先はローウィン王国なのですが、そこからは急激に険しい山岳地帯になります。


 ローウィン王国にとってはこの山こそは天然の防壁。帝国にとっては西への道を阻む天嶮の要害だったわけですが、今やローウィン王国は帝国の保護国です。ローウィン王国の城門は開き、帝国軍を遮る者はいません。


 特に峠道の入り口を守るフェンツアー砦はローウィン王国防衛の要として極めて堅固に築かれていました。帝国軍の幾多の侵攻を跳ね除けてきたのです。この砦も、今は目前を帝国軍の輜重部隊が通過しても沈黙を守っています。


 その砦にある日、数百名の軍勢が静かに近付いて来ました。知る人が見ればその軍装は、ローウィン王国軍のものだと分かるでしょう。ローウィン王国の砦にローウィン王国の軍が近付く。一見おかしいところはありません。


 付近を守る帝国軍も特に疑問を抱く事はなかったでしょう。なんといってもローウィン王国は独立国で、別に滅亡したわけではありませんから、峠を守るいくつもの砦はローウィン王国軍が管理して未だに兵士が守っていました。交代の兵士が移動するのは当然でしたし、帝国軍にもそういう兵士の移動を妨害してはならないという布告が出ていました。


 いずれ、帝国の支配が確定すればこれらの砦は破却される事になるでしょうね。もしくは帝国軍によって管理される事になるでしょう。


 ですから今、王国軍が砦に向かうのは何にも不思議な事ではありません。ですけどもよく見れば、その軍勢の様子が少しおかしいことに気がついたでしょうね。


 旗や印はローウィン王国のものなのですが、鎧の形式はハウンドール王国の形式だったりとか、みょうに騎兵が多く、歩兵は銃器を携えていないとか。そして皆緊張した様子で、密集して歩いています。


 この者たちはローウィン王国亡命貴族の集団なのです。もちろん、ケルゼン様も緊張し切った表情で鎧姿で馬上にあります。あの方は乗馬も下手ですから、従者に引かれてなんとか進んでいるようです。


 彼らは事前に砦の者たちと連絡を取り合い、今日この砦に入城するとそのままここを占拠。同時に王国内部で騒乱を起こして帝国軍の活動を妨害する予定なのです。


 ローウィン王国で騒乱が起きれば帝国の西征軍は軍を返すしかなくなり、神聖帝国軍は勢いに乗って帝国軍を追撃してこれに損害を与えるかもしれません。そうすれば帝国はローウィン王国を放棄するかもしれない。そういう狙いなのでしょう。


 粗雑な考えです。帝国にとってローウィン王国は今や神聖帝国を睨む重要な要地ですから、手放す事などあり得ません。ローウィン王国で騒乱が起これば、アルタクス様は徹底した鎮圧を行なって、下手をすると保護国ではなく直轄地にしてしまうかもしれませんね。


 この砦を占拠した亡命貴族も同じです。あっという間に攻撃されて全滅するでしょう。そんな事も分からないで私とアルタクス様に爪を立てようというのですからお粗末です。相変わらずあの方の浅慮は治らないようですね。


 ですけどその浅慮のおかげで私は助かりましたけどね。


 復讐の機会がこうして訪れたのですから。


 亡命貴族軍は砦の門番と話をして、そのまま砦への坂道を登って来ました。ケルゼン様は急坂での馬の制御に四苦八苦していますね。


 そして、城壁の門を潜って砦の内部に入りました。門の内部は広場になっています。このスペースは、敵が門から侵入して来た際に、周囲の高い場所から集中攻撃を浴びせられるようにしてある場所です。彼らはそこへノコノコと入って来ました。まぁ、砦の人間は皆味方だと思っているのでしょうから、仕方がありませんね。


 彼らの背後で城門が閉まりました。これも予定通りですから気にはならなかったでしょう。退路がなくなったわけですけどね。


 彼らの一人が鎧の面覆を跳ね上げて叫びました。


「我がローウィン王国の正統な王、ケルゼン様をお連れした。事前に申し合わせた通り、お部屋の準備は出来ているであろうな? 陛下はお疲れじゃ。早速お部屋に案内せよ」


 ふざけたことに、彼らは砦に王国貴族に相応しい部屋を十部屋は用意しろ、などと要求していたのです。私は呆れましたね。もちろん、お部屋など用意してはいませんよ。彼らがこれから入るのは、墓の中か良くても牢屋ですもの。


 砦の者たちは誰も対応に出ません。不審に思った男は更に叫びました。


「何をしている! 砦の責任者であるバックス殿はどこか!」


 そんな人はいません。偽名です。もう半月もその名前で亡命政権とやりとりしているのは私でした。わざと下手くそな字で密書をやりとりするのも大変でしたよ。


 ついでに言えばもう半月前にこの砦の人員は、全員帝国軍と入れ替えてあります、ローウィン王国の者は一人もいないのです。


 つまりすっかり罠の準備は整えてあるのですよ。そこへ知らずに踏み込んだお馬鹿な者たち。袋の鼠とはまさにこの事です。


 沈黙する砦に、亡命政権の者たちはさすがに不安そうな表情になってきました。そろそろ良いでしょう。


 私は広場を見下ろす位置にある見張り台の上に上がりました。皇妃らしい真紅のドレスに身を包み、ただし夫人なら外出時に被るものであるヴェールはしていません。頭にはティアラを乗せています。太陽の光にティアラはもちろん、首飾りやブローチや髪飾りの宝石がギラギラと輝いているでしょうね。


 そして傲然と亡命政権の者たちを見下ろします。特に、あの間抜けな顔をした馬鹿王子をです。ギロっと睨みつけると、ケルゼン様の顔が怪訝そうな顔から驚愕に、そして恐怖に震える表情へと変わっていきました。


 間違いなく私が誰だか分かったのでしょうね。私はニンマリと笑いました。私を忘れていたなら思い出させて上げなければいけないところでしたから、手間が省けました。


 私が誰だか分からせてこそ、復讐が完遂するというもの。私はケルゼン様を見下ろしながら口を開きました。


「お久しぶり。ケルゼン」


「……か、カロリーネ、なのか?」


「貴方などに呼び捨てにされる謂れはありませんが、ええそうですよ。帝国の皇妃カロリーネです」


 ちなみに私もケルゼン様も王国語で喋っています。帝国の兵士には理解出来なかった事でしょうね。


「な、なぜ……」


「貴方の考えなど私にはお見通しですよ。相変わらず短慮で浅慮でどうしようもありませんね。貴方は。貴方がこの私に勝てるわけがないでしょう?」


 その事は幼少時から事に触れて思い知らせてやった筈なのにね。その事を理解していれば、彼は私を妻に出来たでしょうし、もう少し長生きも出来たでしょうに。


「貴方をここに誘き寄せたのもこの私。ちなみに、王国内部で連絡を取り合っていた貴族も全員とっくに牢屋に入れています。返事を書いていたのも全部私ですよ」


 使者を捕らえて書簡を奪い、ケルゼン様に色良い返事を書いた者は全て捕え、返事は私が代筆したのですよ。もっとも、王国内部にケルゼン様の味方をしようとしていた者は三名ほどしかいませんでしたけどね。


 愕然とするケルゼン様を、私はいろんな感情が渦巻く瞳で睨みました。そして、高らかにこう宣言したのです。


「さあ、ケルゼン様。終わりにしましょうか。断罪のお時間です」


  ◇◇◇


 私自ら西部国境地域に赴く事に決めたのは私怨を晴らすためではありません。


 事態の重大性を鑑みてです。ええ。けして私怨ではありませんよ。


 私は宰相のムルタージャを呼んで帝都を任せる旨を伝えました。ムルタージャは驚いたようですが、私が国境の事態の重大性を説明するとすぐに納得してくれましたよ。


 私はハーレムの統率もアレジュームに任せると、帝都に残る五十名の騎兵を率いて西部国境へと向かいました、全員を騎兵にしたのは速度を重視したからです。


 ですから私も騎乗で帝都を発ちましたよ。もう何年も馬になど乗ったことはなかったのですが、子供の頃に覚えた事は忘れないものですね。しばらく駆けさせたらすぐに慣れました。


 もっとも、馬も皇帝陛下所有の名馬でしたからね。アルタクス様のお気に入りの馬ですから私に合わぬ筈はありません。


 私は途中の宿を簡易なテントにしてまで先を急ぎました。そんな天幕で寝られるか心配でしたけど、普通に快適でしたね。もう暑い季節だったから風通しが良くてよく寝られました。修道院の堅いベッドより遥かにマシでしたよ。


 通常は半月の行軍の所を十日で駆け抜けた私たちは、国境の街ドルトールの手前の村でハーシェスたちと合流しました。ハーシェスにはこの時点で使いを送って、輜重部隊を護衛する部隊から一千名を選抜させておきました。


 そして私はその軍勢を率いてドルトールの街に堂々と入城したのです。私がハーレム入りする前に教育を受けつつ住んでいたのがこの街です。実に六年ぶりくらいの再訪でした。


 私は皇妃の印、皇帝陛下の印、帝国旗、軍旗を掲げて入城しました。皇妃来るを隠さなかったのです。


 皇妃が来たと全市民が知り、無邪気に歓呼の声を上げて私を歓迎すれば、エルムンドは私を素直に迎え入れるしかなくなります。それが狙いでした。


 実際彼は自分のお屋敷、屋敷というより城と言って良いですね。その城門を開け放って私を出迎えました。私はお屋敷の外に半分の軍勢を止め、半数を率いて中に入りました。門を閉めて閉じ込めさせないためですね。


 騎馬で進み出た私を出迎えたエルムンドは目を丸くしていましたね。彼とは帝都で何度も会っていますけど、この地で会うのは六年ぶりくらいです。


「久しぶりですね。エルムンド」


「これは……、皇妃様。勇ましいお姿で……」


 馬から降りた私は護衛に囲まれながら、エルムンドのお屋敷の中に入りました。


 懐かしいですね。半年ほどですけど、私はこのお屋敷で生活していたのです。初めて見る帝国風の建物に随分驚いたのが遠い昔に感じます。


 当時は私は奴隷になりたてで、不安も感じていましたし心細い思いもしました。そんな中でハーシェスが小まめに世話を焼いてくれて、エルムンドが丁重に私を扱ってくれて、私は心理的に大変楽になったのです。


 私とエルムンドは白いタイルで装飾された開放的な作りの部屋に入り、テーブルを挟んで椅子に座りました。冷たいお茶と果物が出されます。


 私はお茶を一口飲むと言いました。


「人払いを」


 エルムンドは驚きましたが、私の要求に応じて自分の護衛や召使、私も護衛達を遠ざけました。ただし、ハーシェスだけは残します。


 この三人だけになると、六年前、まだ私がただの奴隷であった頃に戻ったようですね。エルムンドは微笑んでいますが、頬が引き攣っています。彼ならハーシェスだけが残された理由がよく分かったでしょうからね。


 私は言いました。


「馬鹿な事は考えないことです。エルムンド」


 エルムンドの顔から仮初の笑顔が消えます。顔中に汗が浮かんで真っ青になってしまいました。私が全てを把握している事が分かったのでしょう。彼は有能な男なのです。


「貴方がハーシェスを襲わせてまで、彼女の調査を妨害したのは分かっています。彼女と行動を共にしているゾルテーラは軍の官僚ですが、優れた戦士でもあります。刺客を捕らえて尋問して、全て吐かせましたよ」


 その報告を受けた時には信じられませんでしたが、しかし考えてみれば思い当たる事がないではありませんでしたね。エルムンドは当初から今回の西征に反対だったのです。その理由を考えてみれば分かります。


「そうですね。西征が成功して国境が西へと北へと遠ざかれば、国境の公益で大きな利益を得ている貴方にとっては大問題ですものね」


 それでエルムンドは西征に反対していたのです。しかし、アルタクス様の強い意向には逆らえませんでした。それで一応は西征に協力していたのですが、その時にローウィン亡命政府の話を耳にします。


 この亡命政府の動きを利用すれば、西征を頓挫させられると思ったのでしょう。それで、亡命政府に資金を援助したり、人を出してケルゼン様を修道院から出す手引きをしたりと様々な協力行為を行っていたようですね。


 もっとも、亡命政府の行動が完全に成功する可能性は最初から低かったですから、西征軍が少し混乱し、ルクメンテ王国を放棄せざるを得なくなるくらいになる事を期待していたのでしょうね。帝国がルクメンテ王国とハウンドール王国を帝国が完全に支配してしまうと、ドルトールの街は国境から遥かに離れ、交易の中継点としての利益が消滅してしまいます。


 しかしその動きをハーシェス達が察知して調査を始めます。エルムンドは慌てました。それでハーシェス達を妨害して、思い余って旧知の彼女を消そうとまで企んだのでしょう。浅はかな事です。


「エルムンド。貴方は私の岳父。ひいては次期皇帝たるサルニージャの岳父ではありませんか。目先の利益に囚われ、帝国を裏切るとは何事です」


 私の叱責にエルムンドは項垂れます。彼としては裏切る気まではなかったと思いますけど、事が露見すればこれは立派な反逆です。アルタクス様に報告すれば彼は太守の地位を剥奪される事になるでしょう。


 汗をボタボタ垂らして俯くエルムンドを睨み、たっぷり反省と後悔を味合わせた後、私はため息を吐きながら言いました。


「私は貴方に感謝しているのです」


 私をハーレムに献上してくれたからこそ、私はアルタクス様と出会い、皇妃にまでなれたのです。


「貴方への大恩に免じて、今回だけは不問にいたします」


 私の言葉にエルムンドはバッと顔を上げました。信じられないというような表情でしたね。確かに処刑されかねない大罪に対する措置にしてはあまりに甘いと言われても仕方がありませんが。


「二度目はありません。今後、私とアルタクス様に一層の忠誠を誓うように」


「も、もちろんでございます! 皇帝陛下と皇妃様に謝罪を! 大女神様に誓ってお二人の意に背くような事は致しません!」


 エルムンドは椅子から飛び降りて平伏しました、


 そもそも、彼は私の岳父で、私の子であるサルニージャの後ろ盾になるべき人物でした。その彼を処分してしまいますと、私とサルニージャを後援する者がいなくなってしまい、後々困るのです。


 ですから彼を助けたのは何も彼に慈悲を掛けた訳ではありません。彼としては今後この話を蒸し返して処分されたくなければ、私とサルニージャへこれまで以上に献身するしかないのです。その献身は我が子サルニージャを帝位に押し上げるのにきっと役に立ってくれる事でしょう。


 私はエルムンドを屈服させると、彼からローウィン亡命政権の全容を聴取しました。彼は匿名の帝国の協力者として亡命政権に接触していましたから、私はこれを利用する事にしました。


 まるっとエルムンドと入れ替わり、ケルゼン様と書簡をやりとりして彼らを誘導したのです。王国内部で反乱が成功しそうだという嘘情報を流し、彼らをフェンツアー砦に誘き出したのでした。


 私がエルムンドを許した理由はもう一つあります。彼が陰謀を企んだおかげで、私の長年の恨み辛みを晴らし、最高の形で復讐する機会を得られたのです。その事の感謝の意味もあったのですよ。

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