第二十三話 アルタクス様の望みのために
ベルマイヤーはさすがにここでは即答出来かねる、本国に帰ってお父様に相談すると言いました。しかしアルタクス様はしれっとこう応じました。
「ふむ。だがそれほどは待てぬぞ? 準備は出来ていると言っただろう。貴国に迎撃準備を整える暇など与えぬからな」
つまりこれが最後通牒だということです。ベルマイヤーはアルタクス様の口調からそれをひしひしと感じ取ったようでした。しかしながらここで狼狽えたり私に頼る様子を全く見せないところは、さすがは私の弟だと言うべきでしょうね。
「分かっております。義兄様の覚悟はしかと承りました。ですので、義弟である私の覚悟もお受け取り下さいませ」
ベルマイヤーはそう言うとソファーから立ち上がり、そしてゆっくりと両膝を突きました。跪くなら片膝の筈です。
「帝国の光であり、大女神様の地上での代理人である偉大なる皇帝陛下に栄光あれ」
帝国の皇帝陛下を讃える言葉を捧げながら、ベルマイヤーは平伏しました。西方には平伏の習慣はありません。これは明らかに臣従の表明です。
国としては即答出来ないと言いながら、ベルマイヤー個人としては、アルタクス様に忠誠を表明してみせたのです。
これは内々にベルマイヤーがアルタクス様の後援を受け入れた、という事になります。たとえお父様がアルタクス様の意向を拒否しても、自分は受け入れますよ、という意思の表明なのです。
アルタクス様は満足そうに頷きました。
「其方の忠誠には必ず報いよう。我が義弟よ」
◇◇◇
「ふむ。思ったよりも手強いな。兎と思ったのだが狐だな。あれは」
ベルマイヤー達ローウィン王国の使節団が退席した後、アルタクス様は呟きました。ベルマイヤーの評価でしょう。私は首を傾げました。
「狐ですか?」
「随分とズル賢い。こちらの足元を見て、この私を脅してみせた。幼いと思って舐めて掛かると裏をかかれかねん」
脅された? そのような場面があったでしょうか?
「『帝国がすぐに全面的に護ってくれなければ、帝国に臣従することは出来ない』というのは本来は受け入れ難い要求だ。保護国化するとはいえ、防御まで帝国がやってやる義務はないのだからな」
しかしながらそうしてくれないのであれば、アルタクス様の要求を拒否して周辺諸国の軍勢を引き入れて、ローウィン王国は徹底抗戦するとベルマイヤーは匂わせました。
「先の西征が失敗に終わったのは、要害の地であるローウィン王国の攻略に手間取ったのが原因だ。王国に徹底抗戦されたら戦役はどう転ぶか分からぬ。それを見透かしているからベルマイヤーは私を脅したのだ。食えぬ奴だ。さすがは君の弟だな」
どこまでがベルマイヤーの判断で、どこからがお父様の指示なのかを察するのは難しいが、とアルタクス様は仰いました。
「いずれにせよ、ベルマイヤー個人としては神聖帝国から我が帝国に乗り換えても良いという意向のようだ。恐らく、君の父上も同じ考えだろう。そうでなければ次期王候補のベルマイヤーをわざわざ送り込んできて、君との関係を修復したりせぬ」
お父様としてもベルマイヤーを王位に就けるために様々な方法を模索しているところなのだろうということです。私を通じて帝国の、アルタクス様との間に友好関係が結べれば、それはそれだけで西方世界においても強力な意味を持ちます。
帝国の侵攻を恐れずに済み、他の西方諸国との関係に国力を集中出来るだけでも、常に帝国を警戒していなければならない他国に比べて優位に立てるのです。
しかしまさかアルタクス様が既に西方侵攻の準備を整えており、今すぐに臣従せよと要請してきたことは流石に予想外だった事でしょう。
「まぁ、私の侵攻宣言を受けて、君の父上が即座に西方の諸国と講和して神聖帝国軍まで含んだ大同盟軍を編成して我が軍を迎撃すると決めたなら、残念ながら我が帝国軍の手に余る。侵攻は断念せざるを得ないだろうな」
さすがの帝国でも、大同盟軍を撃破ってローウィン王国を蹂躙するのは難しいのだそうです。なんですかそれは? 随分言っている事の勢いがベルマイヤーに宣言した事と違うではありませんか。
「つまり、君の父上が私に味方してくれる事が全ての前提条件だという事だな」
そう言うアルタクス様の表情を見ると、彼自身はお父様がそうしてくれると確信しているようでしたね。
ただ、私は長らく自分を抑えて、自分よりも遥かに無能な国王陛下に辛抱強く仕えて王国統治を支えていたお父様の姿を知っております。王族を支える侯爵家の一族の誇りを持てといつも私に言っていました。
そのお父様が王族に対する反逆に踏み切ったのが、私を失った怒りと悲しみ故だったというのは、私の心が温かくなるような出来事だったわけですけど、だからと言ってお父様がそのまま簒奪に踏み切り、ベルマイヤーを王位に就けたがっているという事に、私は懐疑的でした。
内心では王位を奪うことに躊躇いがあるのではないかと思ったのです。まして異教徒の国である我が帝国に臣従してまでそれを成し遂げようとするのかどうか。そこまで踏み切れないのではないでしょうか。
その夜、私はペンを取ってお父様への手紙を書き始めました。
追放されてから現在までの経緯を記し、特に我が夫アルタクス様との出会いと、彼の人柄とその功績、そして野心についても詳細に記しました。お父様が今一番求めているのは、アルタクス様の情報だと思ったからです。
その上で私はアルタクス様を愛しており、皇妃としても彼の妻としても帝国の事を最優先すると言い、ローウィン王国が帝国の前に立ち塞がるのなら、私もアルタクス様も躊躇なく王国を滅ぼしますと宣言しました。
つまり私を頼って帝国の西征を手控えさせようとしても無駄ですよ、ということです。そして既にアルタクス様は西征を決意しているので、その行く手を阻むのは無謀であるとも記しました。要するに降伏勧告です。
私は記し終わった長文の手紙をアルタクス様にお見せしました。彼は「私を褒めすぎではないか?」と照れましたけど、これでも彼を讃える言葉はかなり削ったのです。そしてアルタクス様は手紙を出す許可を下さいました。
私は手紙をベルマイヤーに持たせましたよ。再度の接見は難しかった(ローウィン王国の使節だけを二度も接見すると他の国に怪しまれてしまいます)ため、側近の官僚に届けさせましたけど、ベルマイヤーから受領の手紙が返ってきましたので、間違いなくお父様の元に届くことでしょう。
こうして私とアルタクス様の結婚披露宴が終わると同時に、西方遠征への動きが本格化することになります。
◇◇◇
西方遠征計画はこの段階ではまだ極秘でした。帝国軍の軍備増強や再編成は既に始まっていましたし、西方遠征の計画は帝国軍の将軍や軍の官僚によって立てられていました。
しかしそれらは平時にも行われる範囲でしたから、まだまだ貴族達は遠征間近しとまでは思っていなかった事でしょう。
しかしアルタクス様は西方国境のエルムンドを含めた太守達に指令を出し、武器弾薬、そして糧食の集積を始めさせていました。遠征の補給拠点にするためです。アルタクス様の構想は神聖帝国の帝都攻略でしたから、半年から一年を予定しての大遠征です。それに見合うだけの物資の集積が必要になります。
ローウィン王国が臣従すれば、この前進基地は王国国内に押し上げられてローウィン王国全体が西征の橋頭堡になるでしょうね。ローウィン王国の北にはルクメンテ公国。西には帝国にも国境を接するハウンバール王国があります。そしてハウンバール王国の北には神聖帝国があるわけです。アルタクス様の構想はローウィン王国を保護国化してそこに大軍勢を進め、ルクメンテ公国かハウンバール王国を破って神聖帝国に侵攻する事でしょう。
ハウンバール王国は半分は神聖帝国、半分は我が帝国に臣従しているというような微妙な国です。ですからアルタクス様がローウィン王国を手に入れた上で命ずれば、無血で軍勢の通過を許す可能性があります。そうすれば帝国の大軍勢は無傷で神聖帝国になだれ込めます。
問題はむしろ神聖帝国の西にある大国であるシャルマー王国や、海を越えた先にあるヴェバンテという国らしいですね。これが神聖帝国に味方して大同盟を締結して遠征軍を派遣してきて抵抗すると、難しい戦争になってくるらしいのです。
ちなみにここに上げた諸国は私とアルタクス様の結婚披露宴に招待されて使者を送ってきていましたよ。
ですので私は正式な接見以外にも、私個人として諸国の使節団を帝宮に呼び寄せて接見しました。
この時、私はあえて西方式のドレスを身に纏い、西方の様式でテーブルと椅子を用意して、西方式の作法でもてなしました。私が西方人であることを強調したのです。各国の使者達は随分と驚いていましたね。帝国では西方の文化が流入、同化している部分も多いのですが、私の作法は王太子妃教育で身に付けた本物です。西方の何処の宮廷に招かれても恥ずかしく無いと自負していますよ。
これを見て、各国の使者は私に親しみを覚えたようでした。私もあえて西方を懐かしがるような話題を出しまして、そうやって私は各国の情勢について情報を収集しました。王族同士の関係ですとか、神聖帝国との軋轢ですとか、国内で起こっている宗教改革についてですとか。色々です。こういう情報を集めてアルタクス様に報告して、彼の判断材料にしてもらうのです。
私が西方を懐かしんでいると思ってもらえればしめたものです。使者は本国に帰ってからそう報告することでしょう。そうすれば「皇妃は西方の女性なので西方贔屓である」と誤認させる事が出来ます。実際、幾つかの国はその後、私に密使を送ってアルタクス様の野望を抑えてくれるよう要請してきましたよ。私は色よい返事を送りながら、その国との繋がりを作って情報を集め続けました。
もちろん私には西方世界への未練などありません。私の全てはアルタクス様の為にあるのですから。
当たり前ですが、私は西方生まれである事を利用して西方諸国と繋がりを作る一方、私がローウィン王国の元貴族令嬢である事は慎重に隠しましたよ。もしもこの事が知れてしまうと、帝国とローウィン王国の関係が疑われて、アルタクス様の作戦に支障が生じる可能性がございますからね。
このようにして私はできる範囲でアルタクス様の野望に協力していきました。え? 侵略戦争に協力するのかって? それはそうでしょう? 夫が世界の帝王になろうとしているのですもの。そんなワクワクすることに妻として協力しないわけにはいかないではありませんか。
◇◇◇
ラスホイヤという貴族がいます。東の国境に近いところに領地を預かる太守です。
領地はさして大きくも無く、国境でも無いし肥沃な土地でもないので帝国として重要性は高くないところの太守である彼ですが、現在の帝国政府では丁重な扱いを受けていました。
それは彼がアルタクス様の「岳父」として扱われているからです。
岳父は通常は妻の父親という意味ですが、この場合はアルタクス様の母親の父親として扱われている事を意味します。
既にご承知の通り、アルタクス様はシャーレである母后様の子供です。シャーレには、それは父親はどこかにいるのでしょうけど、奴隷身分になった時に縁は切れていると見做されます。ですからこの場合は、女奴隷がシャーレとしてハーレムに献上される前の所有者、つまり献上を行った者を意味するのです。
しかもラスホイヤの場合はこれにも当てはまりません。母后様は元々は購買されてハーレムに入っています。つまり前所有者は奴隷商人なのです。そこから母后様は下剋上して寵姫になり、皇子を生み、遂には母后様に成り上がったのです。
ですから本来は岳父はいないのですが、それだとアルタクス様が皇子としてハーレムを出た時に後援してくれる者が居なくて困るということで、母后様が色々運動してラスホイヤを岳父扱いにしたそうなのです。
実際、アルタクス様が皇子として地方の街に赴任した際に、ラスホイヤは資金援助や人材の提供など、様々な便宜を図ってくれたそうですね。それでアルタクス様は当地を立派に治めて戦勝将軍にまでなっています。ですから、アルタクス様はラスホイヤには感謝をしていらっしゃるし、未だに岳父として遠慮なさっています。
しかしながら、ラスホイヤは地方の、しかも言ってしまえば血縁だけで太守になったような無能な男でした。中央での統治経験もないため、アルタクス様は彼を重用しませんでした。現在の宰相であるムルタージャは先帝陛下の岳父だそうです。
ラスホイヤはそれに不満らしく、アルタクス様に再三自分に権力を寄越すように文句を言ってくるのです。自分を軍司令官にしろとか、自領の周りの太守の領地を寄越せですとか。私利私欲に忠実な要求ばかりなので、いくら彼に感謝しているアルタクス様でも受け入れられないものばかりです。
そして、ラスホイヤはアルタクス様に母后様の解放を要求しているのだそうです。母后様は嘆きの宮殿で厳重に幽閉されています。母后様が解放されて、アルタクス様と直接対話が出来たほうが、ラスホイヤの意見がアルタクス様に伝わりやすくなりますからね。もちろん、こんな要求を受け入れる訳にはまいりません。
ラスホイヤは母后様が幽閉された原因も知っていますから、私に対してそれは悪感情を持っていましたよ。それは自分の重要な権力の源泉である母后様を完膚なきまでにハーレムから葬り去ってしまったのは間違い無く私ですからね。
ですから私は出来るだけ会わないようにしていたのですが、西征の準備で忙しくなったアルタクス様の代わりに、私が宮廷の事を全面的に取り仕切るようになってきますと、そうも行かなくなってしまいます。ラスホイヤの身分では内廷には上がれませんし、外廷での接見は全て私が代行しているのです。私に接見しなければアルタクス様に要望が出せないのです。
なのでラスホイヤは渋々私に接見を申し込むようになりました。で、口を開けば前述したような無茶苦茶な要求ばかりです。私は呆れ果てて即座に却下しましたが、そうするとラスホイヤは怒り狂って私に向けて怒鳴るのです。
「一体何の権限があってこの私の願いを拒絶するのか! 皇妃では話にならぬ! 皇帝陛下を出せ!」
アルタクス様から「ラスホイヤには恩があるのでなるべく穏当に対応して欲しい」とは言われていますけども、私は段々嫌になってきました。
なにせ私にはラスホイヤには何の恩もございません。それどころかハーレムの勢力争いで散々苦しめられた母后様の岳父だというだけで、私の印象は最悪なのです。
その彼が無礼にも皇妃である私を上から目線で怒鳴り付けるのです。アルタクス様のお願いと言っても限度があります。私は対抗策として、ラスホイヤの接見はなるべく後回しにするようになりました。
しかしながら一日の接見の予定数を消化してしまって、後回しにしたラスホイヤに会わないで済めば良いのですが、そうでなく予定の件数が少なくて彼に会わざる得ない日も当然あるわけです。そうすると彼は後回しにされた事を怒り、私を口汚く罵るのです。
とうとうある日、私は切れてしまいました。
その日も一番後ろの順番に回したラスホイヤと接見しなければならない事になってしまいました。私は仕方なくソファーに座って彼を出迎えます。ラスホイヤは一応は平伏して私に挨拶をした後、床にあぐらをかいて早速私に無茶苦茶な要請を出し始めます。
「領地に盗賊が出るのは分かりますが、その程度は太守の責任で掃討するものではありませんか。そんな事に帝国軍は出せませんよ」
「何を言うのか! 私はかつて皇帝陛下が皇子の時分に隣国と戦った時、率先して兵を率いて戦ったのだぞ! その恩を忘れたのか!」
そりゃ、隣国との戦いに太守が軍を率いて参戦するのは義務でございますからね。えばるような事ではありません。
「これだから女は困る! 陛下ならきっと私の窮地を理解して軍を出してくれようぞ! 陛下に会わせろ!」
帝国軍を出させて、それを自分で率いて盗賊を掃討することで「帝国軍の司令官を務めた」という箔が欲しいのですよ。私には見え透いていました。それで勝利すれば今度は帝都で凱旋式をやらせろと言いかねません。この男は無能で強欲なくせに名誉欲が人一倍強いのです。
私も随分辛抱したのですけど、ラスホイヤの次のセリフに堪忍袋の緒が切れてしまいました。
「所詮は女奴隷だな! 女奴隷は男に従い、傅くのがお似合いなのだ! 皇妃などと聞いて呆れるわ!」
ブチッときましたよ。ここまで言われて我慢出来る女では、私はありません。我慢したら私ではありません。私はガッと音を立てて立ち上がりました。目を丸くするラスホイヤを睨み付けて怒鳴り付けます。
「言わせておけば! たかが地方の太守の分際で! この私に、皇妃に! なんという口のききかたですか!」
指を突き付け緑の目を光らせ、今までの鬱憤を晴らすべく私は全力で叫びました。
「義理の父だと思って黙っていればいい気になって! そもそもお前はあの母后様の岳父であって、私の何でもありません! 考えて見ればあの女の岳父ということは、皇子殺しの同罪に等しいではありませんか!」
私の怒りの籠もった叫びにラスホイヤはたじろぎましたが、すぐに自分も怒り狂って私に怒鳴り返しました。
「貴様! この私にそんな態度をしてどうなるか分かっているのか! 私は岳父として陛下から大恩を向けられている身なのだぞ!」
「そんな恩など、陛下の最愛の人である私をここまで侮辱し、我慢させた事ですっかり摩滅しましたよ! もはや貴方は皇妃侮辱の大罪人です! そこに直りなさい!」
私が叫ぶと、私の護衛の兵士、入り口を護っていた兵士もラスホイヤに槍を向けました。さすがにラスホイヤが狼狽します。
「こ、この私を誰だと思っているのか! 陛下を、陛下をお呼びしろ!」
「必要ありません! この私が皇帝陛下の代理です!」
私はずんずんと進んでラスホイヤに迫りました。
「陛下の全ての権限は今はこの私の元にあります。太守を罰する権限ももちろんね! その権限をもって、貴方に罰を与えます!」
戸惑うラスホイヤの目の前まで迫った私は大きく右手を振りかぶりました。彼は間抜けな顔でそれを見ているだけでしたね。
「皇妃侮辱罪です! 反省しなさい!」
私のビンタが綺麗にラスホイヤの太った頬に炸裂しました。掌底が顎に入る角度で打ちましたから効いたと思いますよ。
その証拠に、ラスホイヤは糸の切れたマリオネットのように崩れ落ち、グデンと床に仰向けに倒れました。たわいもない。私はハーシェスからハンカチを受け取って手を拭いました。ああ、汚い。
「牢屋に転がしておきなさい! 私が命ずるまで出してはなりません!」
……岳父であり太守でもあるラスホイヤを打ちのめして牢獄に放り込んだ事は結構大きな問題になりました。アルタクス様は頭を抱えてしまいましたね。岳父を尊重することは慣例でしたし、太守を牢獄に入れてしまうとその地方の統治が滞ってしまいますから。
ただ、ラスホイヤは元々評判の悪い男でしたし、無能でもありました。現在では息子が太守代理として領地をしっかり守っている(だから何度も私に接見を申し込めるくらい帝都に入り浸っていられたのでしょう)そうで、彼がいなくなっても領地の統治は問題ないだろうという事でした。
そして私が頑として彼への処分の解除を拒否した(皇帝代理として発した処置ですから、アルタクス様にしか解除出来ません。そして彼は私の行った処置は尊重して下さいます)事で、結局ラスホイヤは強制的に引退させられ、息子が太守を継ぐ事になりました。
その息子は事態を聞いて帝都に駆け付け、私と接見して平身低頭、私が怒るのは当然で今回の処置には何の不満もなく、我が家はこれからも皇帝陛下と皇妃様に忠誠を誓う。どうか寛大なご処置をと涙ながらに言いました。
そこまでされては私も鬼ではありませんので、ラスホイヤの解放に同意して、その代わり領地から二度と出さない事を新太守に約束させましたよ。若い新太守は私の寛大さに感謝して、必ずそのようにすると約束してくれました。
この一件で、たとえ慣例では宰相と同程度に重要視されるべき皇帝の岳父であろうとも、皇妃の権限には逆らえないということが知らしめられ、それまで私を女で所詮は代理であると侮っていた大貴族達の態度が大きく変わることになります。私の権限が宰相をも上回る事が確定した事は、この後起こる西征の際に私が帝都を預かって、帝国政府を皇妃として裁量していく上で非常に重要なポイントとなってくるのです。
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