第七話 第一夫人ヴェアーユ

 私は何が起こっているのか分からないまま、皇帝陛下の私室に入って行くアルタクス様に続きました。


 アルタクス様は皇帝陛下のお部屋に入り、厳しい表情のままお部屋の中をぐるっと見回すと、いつも陛下がお座りになるソファーには座らずに立ったまま、集合したシャーレを睥睨します。


 そして重々しく仰いました。


「兄である皇帝陛下、サルニージャ一世は昨夜、崩御なされた」


 その瞬間、私の後ろで悲鳴が上がり、人がバターンと倒れる音がしました。何人かが卒倒したのでしょう。


 私も愕然と致しましたよ。……皇帝陛下が、亡くなった?


 私だって皇帝陛下に親しく接して頂いた事がございます。威厳のある、それでいてお優しい方で、シャーレを乱暴に扱うような事も無い素晴らしい方でした。一時は、陛下の寵姫になろうと決心したのもあの方の人格を信頼していたからです。男性不信だった私にとって、アルタクス様の次に好感を持っていた男性だと言えます。


 それが亡くなった? なぜ? どうして? という疑問だけが私の頭を駆け巡ります。そんな私を見下ろしながら、アルタクス様は沈痛なお顔をなさっていましたね。


「即位はまだだが、次の皇帝には私がなることになる」


 アルタクス様がそう仰ると、部屋の中にざわめきが満ちました。


 私は皇帝陛下の崩御のショックが抜け切らなかった事もあり、アルタクス様の仰った事が何を意味するのか、よく分かっていませんでした。


 それは、皇帝陛下がお亡くなりになった以上、唯一の男性皇族であるアルタクス様が即位されることになるのは当然です。ここ数日の不在は、帝位の引き継ぎのためにハーレムを出ておられたのだな、とぼんやり思いました。


「皆の、兄上への忠誠に感謝を。明日より服喪になる故、準備をするように。皆への処置は追って申し渡す」


 アルタクス様のお言葉に、私以外の全員が一斉に平伏しました。


「「新しき皇帝陛下へ、絶対の忠誠を」」


 シャーレも宦官も声を揃えて宣言いたしました。その中で私はボケっと立ったままアルタクス様の厳しい表情を見詰めていました。


 そしてアルタクス様の指示で、私以外のシャーレや宦官は退室しました。広い皇帝陛下の私室にはアルタクス様と私だけが残されたのでした。


 私はとにかく愕然とするだけで何も出来ませんでした。実は二十日ほど前から皇帝陛下はハーレムにお帰りになっていなかったそうで、私以外のシャーレは皇帝陛下の異変を既に知っていたのです。ですから、私ほど驚いていなかったのでしょう。


 私はアルタクス様の寵姫になってからは皇帝陛下のお側に上がっていませんし、元々シャーレに友達もいませんから、情報が何も入ってきていなかったのです。


 それは兎も角、私はグルグルと混乱しながらアルタクス様の前に立ち尽くしていました。すると、アルタクス様はガックリと崩れ落ちるように皇帝陛下のソファーに座り込みました。


「アルタクス様!」


 私は慌ててアルタクス様に駆け寄りました。彼は俯いて頭を押さえています。私は彼の手を握り、さすりました。いつも暖かな手が、びっくりするほど冷たくなっていました。そして小刻みに震えています。


「アルタクス様、大丈夫ですか? お水、いえ、お茶を用意させましょうか?」


 私の言葉にアルタクス様は弱々しく首を横に振りました。全身がぐったりとしてしまっています。私は彼まで病気になってしまったのではないかと焦りました。


「お気を確かに、アルタクス様。ヴェアーユはここにおりますよ!」


 すると、アルタクス様は私の手をギュッと握り返して下さいました。


「ああ、ヴェアーユ。君がいてくれて良かった。一人では、この重さに耐えられそうにない……」


 そう言っていただけるの嬉しいのですが、その瞬間、なぜか私の背中にも物凄く巨大な何かがのし掛かって来たような感じが致しました。アルタクス様が背負っている重みなのでしょう。恐らくは、それは帝国そのものの重みなのです。


 それから、アルタクス様はポツリポツリと今回の事情についてお話をして下さいました。


 皇帝陛下は健康ではありましたが、以前に流行病に罹ってから、体調を崩し易くなっていたそうです。


 それでこの所お忙しく、体調が悪い中ご無理をされていたそうで、二十日前程に伏せると一気に体調が悪化され、五日前には危篤状態になられたそう。


 急ぎアルタクス様が病床に呼び寄せられ、皇帝陛下が彼に後事を託され、そしてそのままお亡くなりになってしまったのだそうです。


 あまりに儚い話に私は驚きましたが、人間というのは病に対してはあまりに無力です。大帝国の皇帝であっても、病には勝てません。


「兄上は、私の手を握って、すまぬすまぬ、と謝っていらっしゃった……」


 そして「しかし、お前に任せられるのなら安心だ」とも言い残されたとか。ご無念ではあられたのでしょうが、アルタクス様なら立派に皇帝の職務が務まると信じてもいらっしゃったのでしょう。


 しかしアルタクス様は涙ぐみながら嘆きました。


「私の望みは兄上をお助けする事だった。こんな事は望んでいなかった。私には皇帝など無理だ」


 お気持ちは分からないではありません。アルタクス様は本当に皇帝陛下を兄として慕っていらっしゃいましたから。それに、兄君を名君であると認めてもいらっしゃった。ご自分を推す者たちを諌めて、そして自ら外界から閉ざされたハーレムに入ってもいます。


 皇帝陛下の補佐としてハーレムから出るのは望むところだったでしょうが、皇帝陛下の跡を継ぐことなど全く望んでいなかったのです。


 しかしながら、望む望まざるに関わらず唯一の皇族の男子として、皇帝位を継ぐのはアルタクス様の義務です。逃れる事は出来ません。私は彼を励ましました。


「しっかりなさって下さいませ。アルタクス様が挫けてしまったら、皇帝陛下ががっかりなさいますよ。陛下はアルタクス様だからこそ安心して後事を託されたのではないですか」


 私はアルタクス様の頭を抱き寄せました。そして彼の耳元で言い聞かせます。


「大丈夫です。アルタクス様なら大丈夫です。私も、微力を尽くしてお助け致しますから」


 私とアルタクス様はその夜、結局一睡もしないでそうして抱き合って過ごしました。アルタクス様は何度も「君がいてくれて良かった。一人でなくて良かった」と涙ながらに仰って下さいましたね。


  ◇◇◇


 こうして、アルタクス様は皇帝に即位なさることになりました。陛下が崩御した翌日には簡易な即位式が行われたそうで(正式な即位の大典は一年後に盛大に行われるそうです)、アルタクス様は皇帝アルタクス二世陛下になられました。


 というもののハーレムの中にいる私には、アルタクス様の即位式も、大臣や有力貴族が大広間に並んで平伏する様子も、大司教がアルタクス様に祝福を下さる様子も見る事は出来なかったのですけどね。


 皇帝の代替わりというのは帝国の大事件です。宮廷では大混乱、大騒ぎになっているでしょう。もちろん、ハーレムにも大変化の波が押し寄せましたよ。


 アルタクス様が皇帝になったという事は、アルタクス様がハーレムの主人になったという事です。


 そのためにまず行われるのが、前皇帝陛下の「夫人」と「寵姫」をハーレムから出す事でした。


 ハーレムを出すと言っても、ハーレムの外に放逐する訳ではありません。夫人と寵姫は余程の事がない限り、皇帝陛下が一生面倒を見ます。


 ただ、この宮殿のハーレムからは出されます。実は皇帝陛下のハーレムはこの宮殿だけではないのだそうです。もう一つ、離れたところに宮殿があって、そこにもハーレムがあるのだそうですね。


 夫人と寵姫はそのハーレムに移されるのだそうです。通称「嘆きの宮殿」と言われるそのハーレムには、歴代の主人を失った夫人と寵姫が収められるのだとか。


 この内で寵姫は、一年の服喪期間が明けるとハーレムを出るかどうかが選べるそうです。ハーレムを出る事を希望した寵姫は、奴隷身分から解放され自由民になり、故郷に帰るなり帝都で新たな生活を始めるなり出来るそうです。大抵は結婚するそうですけど。


 ただし、夫人は一生ハーレムから出られず、嘆きの宮殿の中で過ごさなければなりません。外出の機会はあるようですけど、結婚も出産も許されません。皇帝陛下の強いご寵愛を賜った夫人たちが他の男の妻になるなど許されないということなのでしょうか。


 ちなみに、皇帝陛下の寵を一度でも賜らなかったシャーレは女官も下働きも、代替わりの際には全員ハーレムを出る権利が与えられます。その際には一時金を与えられた上で奴隷身分から解放されるのだそうです。


 ただ、よほど強力な伝手でもない限り、ほとんどのシャーレがそのままハーレムに残ることを選びます。女一人がいきなり帝都で暮らせと言われても仕事はありませんし、下手をするとまた奴隷になってもっと酷い所に売り飛ばされるのがオチです。


 ですから、シャーレは大体年季が明けるまではハーレムで暮らし、その後に宦官や出入りの業者の伝手を使って婚活をして、結婚相手を見つけてからハーレムを出て行くのだそうです。


 しかし中にはハーレム暮らしが気に入る、もしくはハーレム内で才能を発揮して皇帝陛下や夫人に重宝され、引き留められてハーレムに居着く者もいます。


 今回も全体の三分の二のシャーレはハーレムに残る事を選びました。それでも夫人と寵姫を含めて百人程も減ってしいましたから、ハーレムの中はずいぶん寂しくなってしまいました。


 ただ、皇帝代替わりの際には、各地の有力者が選りすぐりの女奴隷を献上してくるので、すぐに定員の穴は塞がるだろうとの事でしたけどね。


  ◇◇◇


 通常、皇帝陛下は即位なさって初めて、ハーレムに足を踏み入れます。皇子はもちろんハーレムでお生まれになるのですが、十歳になると母親から離れてハーレムを出され、宮廷で厳しい教育を受けるそうです。ですから、ハーレムの中には寵姫どころか知っているシャーレすらいないのです。


 ハーレムに入った皇帝陛下は居残りを決めたシャーレにお世話されながらハーレムでの生活を始めます。そして新皇帝の即位祝いで献上された新しいシャーレとも触れ合い、そして即位後大体半年くらいしたら「夫人」を任命します。


 夫人はその瞬間からハーレムのシャーレの頂点となり、シャーレを指導監督する立場になるのです。夫人は自分の世話係として女官を任命し、そして寵姫候補を皇帝陛下に推薦するのです。


 夫人は四人まで増やせますし、寵姫は皇帝陛下がお気に召したシャーレが出る度に増えます。しかし、即位からしばらくは、シャーレには序列がありません(先輩後輩、元女官と下元働きの序列はあります)。全員が真っ白なドレスを着た状態で皇帝陛下に仕える事になるのです。


 ところが今回、アルタクス様は即位前からハーレムにいらっしゃいました。これは前例が皆無ではないものの、珍しい事だと言えましたね。


 そして寵姫として既に私がお仕えしていたのです。かなりこれも異例な事でした。


 その結果、アルタクス様が皇帝陛下としてハーレムにお入りになった瞬間に、私が陛下の「夫人」になる事は決まっていました。そしてアルタクス様は翌朝には全シャーレの前で「ヴェアーユを第一の夫人とする」と発表してしまったのです。


 まぁ、異論は出ませんよね。私がアルタクス様の寵姫である、しかもうんざりするようなラブラブカップルである事は全シャーレが承知でしたからね。


 でも私は狼狽えました。


「わ、私には夫人は無理ではありませんか? 三夫人の内どなたかに残っていただく訳には参りませんか?」


 私はアルタクス様に言いました。


「なぜだ。夫人を残すなど無理だぞ?」


「だって、私は人望が何んにもありませんもの。シャーレの指導監督なんて無理です」


 ……遺憾ながら、この頃の私は本当に、全く人望がなかったのです。はっきり言って、ハーレムのほとんどのシャーレに嫌われていたと言っても良いでしょう。


 なにしろ私は性格がキツく、愛想が良くなかったのです。目下の者は労わりましたから、直接関わるハーシェスなど下働きとの関係は悪くなかったのですが。女官たち、特に寵姫には蛇蝎の如く嫌われていましたね。


 いきなり女官として入宮するという特別扱いだけでも嫌がらせをされるほどでしたのに、すぐに高位の業務である書記を任され、あまつさえ皇帝陛下の特別なご配慮を受け、それなのに皇帝陛下の寵愛を振り切ってアルタクス様の寵姫になりました。


 挙句に毎日毎日業務のあるシャーレを尻目にハーレム内でアルタクス様とベタベタイチャイチャ遊び暮らしていたのです。


 嫌われなければ嘘でありましょう。当然、私にだって自覚はありましたけど、私はアルタクス様の寵姫であるという驕りと、それにいずれアルタクス様がハーレムから出られたら一緒にハーレムを出るのだとも計算しておりました。


 なのでハーレム内で人間関係を上手く作ろうとまったく思っていなかったのです。それでは人望など生ずる筈はございません。その私にハーレムのシャーレの長になれと? 無理です。誰もついて来てくれないでしょう。


 思えば侯爵令嬢時代から私は人望がありませんでした。国王陛下からもお父様からも「もう少し他人の面目にも気を使うように」と諭されておりましたよ。その意味の分からなかった私は当時から口喧嘩をすれば相手が男だろうが女だろうが徹底的にやり込め、相手の上に君臨しようとしたのです。


 そういう高慢で傲慢な性格が自分の足元を掬ったことが、例の王都追放騒動の一因になったのだと、ずっと後になれば分かるのですけど、この時の私にはそこまではまだ分かっておりません。でも自分には何故か人望が無い事、人望がなければ人をまとめて率いる事は出来ないという事はなんとなく分かっておりました。


「……君が夫人になれないのなら、他のシャーレを寵愛して夫人にするしかない。それでも良いのか?」


「嫌です!」


 アルタクス様の言葉に私は即答しました。とんでもない。アルタクス様が他のシャーレを寵愛するなんて考えたくもありません。


「ならば君が頑張るしかない。大丈夫だ。君になら出来る。私が助けるから」


 ……自分がアルタクス様を励ました言葉がそのまま帰って来てしまいました。


 確かに、アルタクス様を他のシャーレに渡したく無いのであれば、私が第一夫人になるしかありません。シャーレを束ねハーレムを統制してアルタクス様が心安らげるような空間を作って行くしかありません。


「……分かりました。がんばります」


「本当はハーレムなどいらぬのだがな。私は君さえいれば良いのだ」


 アルタクス様はそう仰って下さいますが、そういう訳にもいかないのが伝統というものでございます。それに現在、皇族の男系は危機的な状況です。なにしろ、男性皇族がアルタクス様お一人しかいらっしゃらないのですから。


 アルタクス様がお子を作るのは、出来れば沢山作るのは、皇族としての義務でございました。ハーレムのシャーレと多く交わり、沢山の子を産ませなければならないのです。


 ……これは当然、私がアルタクス様を独占出来なくなる事を意味します。同じハーレムにいるのに、アルタクス様も私もすっかり立場も境遇も変わってしまったのです。この事に本当の意味で私が気が付いたのは、まだもう少し後のことです。


  ◇◇◇


「上手くやったわねぇ」


 クムケレメ様はそう言って溜息を吐きました。


 クムケレメ様の私室です。皇帝陛下の私室に程近いこの部屋は、クムケレメ様が嘆きの宮殿に移られた後は私のお部屋になる事になっていました。女官たちが既に片付けを始めていまして、装飾がほとんどない殺風景なお部屋になりつつありました。


「そんなつもりはありません。私の望みはアルタクス様と二人だけで過ごす事でしたから」


「分かっているわ。言ってみただけよ」


 クムケレメ様は苦笑しましたが、その目は如何にも憂鬱そうでした。


 夫人は一生嘆きの宮殿から解放される事はありません。かなりの贅沢が出来るくらいの予算は支給されるそうですし、こちらのハーレムよりはかなり自由に行動出来るみたいですが、確実に権力は低下する上に、宮殿を下がって結婚する事も出来ません。


 クムケレメ様は三十にもなっておらず、まだ若いです。長過ぎる余生を思うと憂鬱にもなるのでしょう。


「せめてお子が産まれていればねぇ」


 そのお言葉に、周囲の女官が顔を俯けました。


 実はクムケレメ様は陛下とのお子を二回、身籠った事があるそうです。しかし、一回は流れ、二回目は死産だったとか。


 無事にお子が産まれていれば、クムケレメ様はハーレムに残ってそのお子を育てる事になったでしょう。


「でも、いずれダメね。こんなに陛下が早く亡くなったのでは」


 先帝陛下はその治世が五年しかありませんでした。という事はお子が産まれても五歳にしかならない事になります。そうすると統治能力が無い子供ではなく、実績の豊富な青年であるアルタクス様が即位する事になったという事です。


「悪くすればお子は殺されてしまったかも知れないわ。やっぱりいなくて良かったかもね」


「アルタクス様は甥御を殺すような事はなさいませんよ」


「分かっているわよ。言ってみただけだってば」


 クムケレメ様は多分、自分を納得させているのでしょう。せっかくハーレムの頂点に君臨出来たのに、それを失う事になる無念さ。最愛の恋人でもあった皇帝陛下を失った悲しさ。そしてチャンスがあったにも関わらず、皇子を産むことが出来なかった寂しさ。その色々な思いをなんとか納得させたかったのでしょう。


「貴女は苦労するでしょうね。あれだけ好き勝手にやった後、ですからね」


「覚悟はしております」


 実際、既に「貴女の下では働けない」と何人もの女官がハーレムを出る選択をしています。私と仲の悪かった女官頭は、年季が明けてもハーレムに残っていたベテランのシャーレだったのですが、私に従いたくないとハーレムを辞してしまいました。


 あの女官頭はああ見えて女官や宦官の仕事を全て把握していて、クムケレメ様は大変頼りにしていたのです。私も喉から手が出るほど欲しい人材だったのですが、私は嫌われ過ぎていて、とても引き止められませんでした。


 人望というのは大事です。このところ私はその事を痛切に思い知っておりました。私は自分には才覚があると思っておりましたし、実際シャーレのほとんどよりも私の方が頭も良かったし学もあったでしょう。運も良かったと思います。


 しかしながらそれだけで世の中全て上手く行くと思ったら大間違いな訳です。どんなに優れた人間でも一人で出来る事には限界があります。どうしても大きな事を成し遂げるには組織を作り、人を使い、協力しあって仕事をするしかないのです。


「分かっているなら大丈夫よ。貴女には奇妙な愛嬌があるからね。その気があれば上手くやれるでしょう」


「そうであれば良いのですが……」


 私の返事にクムケレメ様は声を上げて笑いました。そして笑い終えるとフーッとまた、溜息を吐きました。笑った事で少しは気が晴れたようでしたね。


「ま、上手くやって頂戴。貴女がハーレムを上手くまとめれば、貴女を引き上げてあげた私の株も上がるというものですからね」


 そしてクムケレメ様は目を細めて、なんだかイタズラでもするような表情を浮かべました。


「もう一つ。出戻り女には気を付けなさい。アレは相当厄介な女みたいだから」


「出戻り女? なんですかそれは?」


 私はそう尋ねたのですが、クムケレメ様は、この私の恩人は、楽しそうに笑うだけで答えてくれませんでした。


 ……まぁ、出戻り女の正体は、すぐに、嫌でも、嫌というほど判明する事になるんですけどね。

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