斯くして彼は異能となった

セクシャルバイオレット後藤

富田村

富田村 ~プロローグ~

「井上さん、ずっと休みだけど大丈夫かな」

「あー……、井上さん、居なくなったみたいよ」


窓から吹き込む風がカーテンを翻弄する、放課後の教室内。

机を挟んで向かい合った女子2人が、いつも通りの雑談をし始めた。


「居なくなったって、家出?」

「違う違う、失踪したんだって」


眼鏡をかけた黒髪の女子の言葉に、日焼けした肌が眩しいボーイッシュな女子が、大きく目を見開く。


「ほら、井上さん、大学生の彼氏と肝試しに行くって言ってたじゃない?」

「あー、言ってたね。……え、じゃああの噂、マジだったんだ」


ボーイッシュ娘が、声を潜めた。

眼鏡娘が、その言葉に頷き、スマフォを机上へと置く。


「あの国道沿いにある、廃坑跡の神社。ある日そこに、奇妙な化け物が出るって噂が広がったじゃない?」

「だね。んで、一目見ようとした連中が、次々と行方不明になったんだっけ」


眼鏡娘がスマフォで開いた、画面。

そこには、件の神隠しについての書き込みが、無秩序無責任に書かれていた。


「好奇心は猫を殺すというのに、皆して本当に……」

「あはは、仕方ないんじゃない?やっぱ誰もが作り話って思っちゃうし」


ふと、カラスの声が響いた。

2人は一瞬沈黙するも、再び口を開きだす。


「書き込みを信じるなら、警察の人や有名な動画配信者も行方不明みたいね」

「んー、それが本当かはわかんないけど、盛り上がりそうなネタではあるね」

「これは友達の友達に聞いたんだけど、あの廃坑跡、大きな村があったみたいなの」

「戦前?戦後?」

「戦後。それで昔らしいと言うか……、数年に一度、村の発展のために生贄を捧げる祭があったそうよ」


眼鏡娘の感情の無い言葉に、ボーイッシュ娘は顔をしかめる。

マンガやアニメのような出来事が実在した事へ、嫌悪感を浮かべた。


「……んで?それが今回の件にどう繋がるの?」

「うん、まぁよくあるような話だけどね。生贄の娘が祭の日に逃げちゃって、それが神の怒りに触れ、村は呪われ、消える」


眼鏡娘が再びスマフォを弄ると、画面には穴だらけの廃坑の画像が出てきた。


「だから、囚われた村人は神に許しを請うため、近づいた人を生贄として攫う……って話」

「なーんかありきたり過ぎというか、創作っぽいなぁ」

「でも、このサイト見てわかると思うけど、件の土地が呪われてるってのは信憑性あるのよ」

「【廃坑が残る富田村跡、開発を進めようにも不幸な事故が連続で起き、呪われた土地と呼ばれる】か」


そういえばあの一帯は全く何も無かったなぁと、ボーイッシュ娘の脳裏に廃坑と緑の森が広がった。

それはメガネ娘も同じの様で、スマフォの画面が、過去の新聞記事の画像へと切り替わって行く。


「続発する工事関係者の不審死、失踪、工事の中断、土地の国有地化、ね」

「当時はオカルト関係で賑わってたみたいだけど、てか、そもそも入れないはずなんだけどね、あそこ」


眼鏡娘が首を傾げ、そのまま言葉を紡ぐ。


「問題が起こってる土地だから、普段は絶対入れない様に背の高い金属のバリケードあるのよ」

「行った事あるんだ?じゃあ、どこからか入れる場所があるんじゃない?」

「あるかも知れないけど、居なくなった人と一緒に居た人曰く、何もなかったんだってさ」


「何それ、消えたって事?」

「うん、あったのは壊れかけた神社と、社だけ。そして……」


眼鏡娘が、面白そうに唇を歪める。



「まるで誘われるように……、社の中に入って、行方不明になったんだって」



机上のスマフォの画面が変わる。


まるで意志を持つかの様に切り替わった画面には、巫女服姿の女性が舞う、古ぼけた写真が載っていた。


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