第14話 駆くんと引きこもりニートのカス4
「いやはや、ダンジョン内は想像力で走力も爆上がりするからお手軽ぶひねぇ! およ、友也どうしたでござるか、薬のテストはどうだったでぶひ? もっともォ? 拙者の開発した秘薬故、効きすぎごめんでござるが――ぶひぃいいんやめてやめて腹の肉も顎の肉も千切れちゃうぶひおおぉん!」
もはや充分腐れ縁と呼べる豚こと竹中の贅肉を両手で引き千切る勢いで掴む。
「竹中テメーの意味わからん薬、そもそも薬じゃねぇじゃねーか! 何で地面に叩きつけて使うんだよ! しかもモクモク煙なんぞ出しやがって、煙玉か!? 一丁前に錠剤の形なんかさせんじゃねえ!」
息が切れるのも構わず、今回の元凶たる豚に溜まっていた初期のツッコミを叩きつける。
「うぬぬ? その反応と疲れた感じ、やはり効果覿面でござったか。ってメメメメメリゥェエエエイル殿ォ!? 制服など反則でござるござござござるぅ! そんな姿で男に近寄ったら妊娠してしまうでござるぽよよ?! レッドカードぽよ~!」
「興奮しすぎて語尾変わってんぞ」
話に混ざろうと近寄ってきたメリエルの姿を見て、竹中が卒倒しかける。
しかしこいつに早々に退場されてもらっては困ると、友也が秘孔を突いて無理やり覚醒させる。バギョボニョンなどと言う不可解な音と共に、竹中の焦点が再び合う。
「ぶひん!? 今体の中で鳴ってはいけない音が鳴った気がするぶひねぇ」
「気のせいだろ。豚だからおかしな屁が出たんじゃねーの」
「トモヤ、そんなどうでもいい話は置いておいて、私は薬の成分が知りたいです!」
「ぬぬっ、メリエル殿、拙者の発明品に興味があるでござるぶひか?」
「はい! 私、気になります!」
「おい俺の方もちらっと見るんじゃねえ、俺はこんなワケのわからんもんは願い下げだ」
「省エネ主義ぶひねぇ。ハイカロリーツッコミのくせして」
「テメーこの場で死ぬか?」
「いやいや待ってくださいトモヤ、殺すなら話を聞いた後です!」
「お前はマフィアか」
メリエルから期待の眼差しを向けられてしまった竹中は、人生で最大の興奮を催し、全身の毛細血管も爆裂させ無限に吐血しながら、今回の偉大なる発明品について語った。
「――と言うわけで、あくまで仮説でしかなかった、性欲に作用するフェロモン素粒子(仮称)を最大限働かせるにはダンジョン内にあると見られる未知の粒子の一つと反応させる必要があったのでぶひ」
「これ後何時間続くんだ」
「一億と二千万時間ほどぶひね」
「地獄すぎる。今絶えろすぐ絶えろ! 火炎弾!」
「ぶひおあぁん?!」
顔の大きさほどもある火炎弾を生成し竹中の顔面にぶつけ、顔面が焼き消えると同時に体がどさりと地に落ち、焼き尽くされるのを待たずしてそのまま消滅した。
「これでは豚の生焼けですね」
「うん。メリエルにもコイツがリアルな豚に見えてきたようで何よりだ」
ペシペシペシペシと単調なビンタの音が聞こえる。音の方を見ると、理性を取り戻したらしいつくしが駆を起こすべく往復ビンタをしていた。その目に光は灯っていない。
「ん~、つくしちゃんおはよ~」
「おはよう駆くん、いい朝だね」
「およ? どしたのつくしちゃん、顔が怖いよ?」
「うん。あのね。実香さんが寝言で駆くんの名前を呼んでたんだけどね。あれは一体どういうことなのかね。教えて欲しいんだよね」
「そりゃ~この前美土代ちゃんちにご褒美お泊りした時じゃない?」
「ばかーっ!」
見事なアッパーカットを食らい、駆がダンジョンの天井に突き刺さる。
「テメーら……もう今日は十分だろ……変えるぞ……!」
疲弊してきた友也の言葉を受け、全員ゲートへと向かう。
実香だけは相変わらず寝ぼけ倒しているため、メリエルがおぶっている。
「美土代ちゃんなら僕が背負うのに~」
「ダメです。カケルが背負ったらミカのおっぱいが当たってしまうじゃないですか! ずるいです!」
「誰目線で話してんだよお前」
「……両方も……ですかね……?」
「せめて断定してくれ」
「はー! どっちにしろメリエルはエッチだなぁ!!」
「つくしはキレてるのか興奮してるのか分からん」
「は? 興奮してるんだけど?」
「そっすか。さーせん」
これ以上話しても余計な墓穴を掘りそうなため、友也は自ら口をつぐむ。
今回はそこまで深い階層まで潜っていなかったため、案外早くゲートに辿り着く。
「いや~、それにしてもテッツォの薬すごかったね~!」
「今回はいつにも増して度し難い結果だった……マジで先が思いやられる……」
「えぇ!? 夢と希望しかなくない?! これそのうち木とか岩とかも発情するようになる薬作ってくれるって!」
「無生物どころか無機物と致そうとすんな! お前日に日に性癖狂っていってるんじゃねーか?」
「修行僧たるもの、毎日精進であるよ~」
「俗物の極み男が何を抜かす」
ゲートを出ると、いつの間にか夕暮れが近くなっていた。
「ね~友ちゃん」
「何だよ」
「二人でダンジョン潜って色々やるのも楽しかったけどさ~、つくしちゃんが東京に戻ってきて、メリエルも増えて、なんかこれからもっと楽しくなりそうだよね~!」
夕焼けに照らされながら、屈託のない笑顔で言う駆。
「俺は心労が三倍になりそうだがな」
悪態をつきつつ、満更でも無さそうな表情で答える。
「ちょっと!? 二人で抜け駆けとか無しだからね! ちゃんとわたしとメリエルも混ぜてよ?」
「俺と駆が抜け駆けして何するってんだ」
「ちょちょちょちょトモヤ?! かかかかかカケルと抜け駆けって、お二人は実はそういう関係……?! 嫌ですわいやらしい! 次は何に目覚めさせるつもりなんですか?!」
「火のない所に煙を立てんな! オメー耳腐ってんのか!?」
「ん? 友ちゃんなら全然アリだけど?」
「嫌ですわ~~~~!」
「顔が思いっきり嬉しそうなんだよ! あとお前は良くても俺は断固拒否する!」
「そうやって最初は言うんだよ。これがツンデレってやつ」
「なるほど! つくしは教えるのが上手ですねっ」
「クソッ貴様ら揃いも揃って俺を貶めようとしても無駄だぞ俺は清楚未亡人人妻しか信じない」
「一単語ごとに矛盾してませんか?」
「人間ってのはな、複雑なんだ」
変わらずくだらない話を続けながら、帰路につく。
現代に突如現れたダンジョンは人々に、常に新たな刺激を与える。
それはバカ集団である駆たち一行も例外ではない。
現象に法則性が未だ見つからないと言う非科学の結晶たるダンジョンは、電子情報に溢れた世界で生きる少年少女たちにとって――いや、老若男女問わず、あらゆる人にとって、夢のある場所として存在している。
ダンジョンから持ち帰ることのできるものは経験、その記憶だけ。物質も現象も出ることはない。バーチャルよりリアルなバーチャルが、この世界にはあるのだ。
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