第13話 駆くんと引きこもりニートのカス3

 両肩の二人をゆさゆさしながら無邪気に喜ぶ駆。

 ちなみに当の三人はどうなっているかと言うと、発情が勝手に限界を迎えて昇天しており、単なる重い荷物と化していた。


「て、テメェなんて酷いことしやがる……!」


 残った熱血系の男が憤慨する。しかし全力で逃げているその足は止まっていない。

 ヤレヤレ系の方は断末魔の後、うわぁやめろ脱がすな! のような事を言っているような感じがしたが、興奮する鼻息に瞬時に掻き消されていた。その後どうなったかを想像すると背筋が凍るので、熱血系の男は考えないようにした。


「酷いもクソもあるかよ。いいか? ああいうヤレヤレ系ってのは、自分の心の中で『誰よりもオレは冷静迅速的確な解答を導き出せる、そしてオレのあまりの対応力に周りは賞賛しか掛ける言葉がないのだが、そんなものを気にしないオレはヨユーで聞き流しちゃうんだぜ』みてぇなクソ童貞の妄想を垂れ流しているわけだ。だが現実に存在するヤレヤレ系と言うのは総じてフニャチンのクソザコ運動神経であり、そのくせ行動の前に無駄な逆張り思考が発生するせいで実際動くまでに最低でも二~五秒のタイムラグが発生するだろう? するとどうなる? そう、ダンジョンでは即死だ。まあそもそも筋肉がねーから動けないワケだが、使えない脳みそとのダブルパンチにより二重の即死が確定する」

「うん、『無駄』の辞書に載せるべき例文だ~! 一ミリも頭に入らなかったよ~!」

「チッ、このクソボケ魔人が」

「お前はヤレヤレ系に一体何の恨みがあるんだ……?」


 あろうことか名無しの熱血系男にツッコミをされる。先程のヤレヤレ系よろしくムッとした友也は、彼とは異なり手の早い脳筋バカのため、体の前に槍を出現させ、熱血系の男に向けて勢いよく飛ばした。


「食らえ槍ーッッッ!」

「うぐぁあああ!?」

「流石友ちゃん! 単細胞の鑑~!」

「テメェもぶち殺すぞ?!」


 腹を抑えてうずくまる熱血系の男。もう後ろから迫ってくる発情オークから逃れる術はない。最期に恨むような目で友也を睨みつけ、言う。


「クソが、お前、俺に何の恨みが……っ!」

「俺と口調が被ってるからに決まってんだろ」


 友也がそう鼻で笑うと、解せぬと言う表情を一瞬だけ見せた熱血系の男は直後、オークに飲まれた。ヤレヤレ系と同じような断末魔を上げて。


「やっぱアレはメスオークっぽいな……」

「え、超能力で察した系?」

「ちげーよ。男二人とも同じ断末魔だっただろが」

「うん。それがどうかした? あ、わかったぞ~二人は仲良しって言いたいんだね~!?」

「思考能力赤ちゃんか?」

「僕赤ちゃんだったの?! うぉおおお伸び代しかねぇ~!!」

「テメー脳細胞お花畑かよ、まあいいやもうお前は何も考えんなとにかくアレはメスオークとその他興奮発情したメスモンスターの集団で、俺らは捕まると永遠無窮の地獄に堕ちるってコト! わかったか!?」

「地獄か~、一回は行ってみたいよね」

「地獄を秘境的な観光スポットだと思ってんのかコイツ」

「て言うかさ?」

「うおおぉ!?」


 急ブレーキを掛けて反転する駆。ぽーんと空を舞う下着姿のつくしと実香を、友也は反射的に担いでいたメリエルを使ってその上へ乗せるようにして受け止める。


「ワケのわからん大道芸をさせんなコラァ!」

「ほら、発情してるなら一発ヤッちゃえば落ち着くんじゃね?」

「まあ可能性はなくもないが……は?」

「だ~か~ら~、一発」

「ああもうそれ以上抜かすな! まあお前が足止めになるんならそれで良いや……どうせ逃げ切れなさそうだったし」

「うお~! 僕興奮してきた~!」

「ツレが異常性癖者で助かったと今日ほど思ったことはない」


 そして一切振り返ることなく、三人を抱えて友也は引き続き猛ダッシュでその場を後にした。


 ――


「友ちゃ~ん!」

「はっや!?」


 数分逃げ続けてはいたものの、駆が残ってからはピタリとオークが襲ってこなくなったため、そこら辺に三人を転がして友也は適当に焚き火を起こしていた。


「あったけ~、シャワーの代わりだねこりゃ」

「聞きたくねーけど一応聞くわ……お前何してきたんだ?」

「ナニ、してきた☆」

「……全員分?」

「もちろん☆」

「うげぇえええ……」


 凄まじい勢いで追いついた駆の肌は妙にツルツルしており、その時点で何をしてきたかが雄弁に語られているのだが、確定させないことには脅威が去ったと言い切ることはできないため、嫌々ながらに聞いた友也だった。

 が、あまりにも予想通りの答えのみが返ってきたため、友也は聞いた事を後悔した。


「知ってた? 魔物って案外人間と変わんないんだよ! 面白い初体験だった~!」

「知らねーし知りたくもねーし今後知るつもりもなかった」

「いやいやいや、そんなこと言ってさ、実は気になってたりするんでしょ?」

「微塵も」

「んでね、流石の僕も数え切れないほどの魔物を相手にするにはちょっと時間がかかるからさ、死ぬほど分身作ってみたんだけど、そしたら一瞬で終わっちゃってさ~」

「お前人が何を言っても勝手に喋ってくるタイプの奴だったな忘れてたわ」


 制するのを諦める友也。阿呆を思い通りにするよりも自分が聞き流す方が早いととっくの昔に学んでいる彼は、早速聞き流しモードに入った。


「何回楽しめるかな~と思ったんだけど、全員一回でノックアウトしちゃってさ~、これがワンキルパワーって奴か~って自分で自分を恨んだよね」

「こんなカスみてえなところでまでワンキルパワーは発揮されんのかよ」


 言ってから、しまったつい流れで突っ込んでしまったと思う友也。が、これもまた性分なので諦める。


「ぅうん……ってふわぁっ!? なななななななんで私下着姿に……っ!? じゃあここは魔物の巣!? そんな……私の純潔はゴブリンやオークに奪われてそして苗床に……っ、うぅっ……」

「起きて早々何を楽しく妄想を垂れ流してんだ、早く服着ろ」

「メリちゃん下着可愛いね~! 青と白がいい塩梅に組み合わさってる! 金髪美少女と言ったら青系と白系はどっちも外せないんだよね~」

「わかりますかカケル!? そうなんです! アリメカ合体国王妃候補として厳しい教育を受けてきた私は、一瞬のパンチラで何が見えるか――と言う細かなところでさえ抜かりはないんです!」

「そんな変態合体国は早く滅んでしまえ」

「ま~今はパンチラどころかモロパンなんだけどね~」


 わかりやすく顔を真っ赤にしたメリエルは、一瞬で衣服を生成する。なぜか学生服を。


「ん? うちの学校の制服じゃん、どしたの?」

「……やってしまいました、制服プレイに興味があるという思考に引っ張られて学生服を出してしまったとは口が裂けても言えません……」

「モロ聞こえてんだよ」


 残りの二人も、酔って寝てしまった後の覚醒の如く、頭を抱えながら目覚める。


「ん……わたし何してたんだっけ……確か駆くんと結婚して……うぅん、子供が一人、子供が二人、子供が三匹……」

「幻想を抜かしながら羊を数えるな。子供が匹になってんじゃねーか」

「ふぁ……おはよ……うん、いつもありがと駆ちゃん、コーンスープおいひい……」

「美土代はパントマイムしながら何を言ってるんだ? あ、おいつくし待て寝ぼけた顔のまま駆の首を締め上げるな」

「駆くん? 罪には罰が必要だよね?」

「あ、これ完全に覚醒してら。駆……は泡吹いてるけど恍惚の表情だからどーでもいいか……」


 どこを見てもアホしかいない現状に友也が大きくため息をついていると、見慣れた豚がテコテコと走ってきた。

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