第12話 駆くんと引きこもりニートのカス2
「――それで今日のダンジョンはここ?」
「半端に道路を塞いでて邪魔だよね~。まぁでも穴場ダンジョンって大体そういう感じなんだよね~」
「ダンジョンに穴場とかあるんだ……」
住宅街の路地横にあるゲートに到着した四人。
腹ごしらえもして準備万端と言う感じである。現代日本メシの頂点の一角たるラーメンを堪能したメリエルも満足げな表情をしている。
「途中のラーメンおいしかったですね。もう行きません」
「感情ジェットコースターか?」
「何言ってるんですかトモヤ、人生一期一会、思い出は綺麗なままに、ですよ」
「思い出もクソも、店は明日も引き続きやってんだよ。大体一期一会って他のメニューは食ってねーだろが」
「同じお店なんですから、情報量としては五割くらい同じでしょう? なら他のお店に行ったほうが情報量が多いじゃないですか」
「何でお前はメシを情報量で換算してんだ」
「世界の最小単位は情報粒子ですよ? これだから技術力の低い世界の人間はいけませんね」
「知らない粒子なんだが……」
「こりゃアレだね、異世界の方が発展してるってパターンだ~! もしこっちから転生しても承認欲求満たせない奴!」
「いや、何の意味があんだよそれ」
「何の意味って決まってるじゃないですか。技術の遅れた世界に転生してきたこの私、メリエール・ヨーロリが無双するお話ですよ?」
「あ、お前の世界の方が基準なのね」
「もちろんです! この原始人ども! はっはは!」
「って言いながら逆転される系のプレイが好きなんだよねメリちゃんは」
「そうなんですよ! って違いますぅ~! やめてください人をすぐ変態にするのは!」
「……中身がこうすこぶるアホだと、元の世界がどうだろうがただのアホにしか見えんな」
そうこう言いながらゲートを潜る四人。今回は高さがあまりなく、細長い洞穴のようになっているようだ。
「結構狭いねー。ってメリエルなんかふわふわしたの当たってるけど何?」
「すいません。おっぱいが当たってました」
「え? 何? 喧嘩売ってんの? 誰が絶壁まな板ぬりかべ女だって!? シバくぞコラァ!」
「誰も何も言ってませんが?!」
「それはそうとおっぱいやわらかい。やわらかいはおいしい。おいしいは正義」
「つくし!? ひぁっ、だめです! そんなに揉んだら、ひぁ~!」
「おい何してんだお前ら。モタモタしてっから駆がどっか行っちまったぞ」
「え?! むむ、これは駆くんが違う女のもとに行ってるやつだ……!」
「そんなこと分かるんですか?」
「つくしセンサーがビンビンに反応してるから間違いない! 追わなきゃだ!!」
「随分と設置場所の低いセンサーだな」
「だ~れが、目を合わせるためにはしゃがまないといけないくらい度し難いほどのチビ(笑)だってェ?!」
どこからともなく発生させたバットのフルスイングが友也の腰を打ち砕く。
「ンなこと言ってねェーッ!」
と降り掛かってきた理不尽にキレながら友也は彼方へとホームランされていった。
「まったくもう! 自分の撒いた種だから! 自業自得だから! ぷんすか!」
「ぷんすかって自分で言うんですね……」
「それより早く駆くんを追っかけよう!」
二人で駆の後を追っていくと、その先には駆と、なぜか美土代実香がいた。
「あれ? 実香さん?」
「あ、つくしちゃーん! おひさ~! って、その子が例の異世界転生者?」
「こんにちは、メリエール・ヨーロリと申します」
「洋ロリ……? え、どゆこと、異世界では自分の属性を苗字にする文化でもあるの?」
「いえ、ヨーロリです……」
メリエルについてはこちらの世界で戸籍がないため、寛容な星崎家がその苗字を貸し、戸籍の上では星崎メリエルとして登録されている。
なおそれを聞いた際、駆は「AV女優みたいな名前だね~!」と興奮していた。
諸々は既に役所に届け出を済ましてあり、メリエルの転生については特例、要経過観察と言うことで一旦の決着はついていたのだが、このスチャラカ公務員こと美土代実香がそんなことを知っているはずもない。
そのため、メリエルとつくしはゼロから説明していた。
――
「な~るほどね。あ、私は美土代実香。実香で良いわよ。普段は国土交通省外局の異次元空間管理局で働いてるわ。ったく、有能すぎるのも困りもんよね~、すぐ出世しちゃうんだもん。給料ほとんど上がらないくせに係長って意外とやること多いのよね」
「実香さんすごい! 巨乳には能力つまってる! 夢!」
「なるほど、実香さんは上に立たれている方なんですね。やはり多くの部下を抱えているんですか?」
「部下? 一人だよー。全く困っちゃうわよねぇどうなってんのようちの職場」
「……それは出世と言うより、退職されないように肩書きを与えただけでは……? 一種のやりがい搾取では……?」
そうつぶやくメリエルの口を駆がしーっと塞ぐ。
「それ以上いけない」
「ゆび~~!」
口を指で抑えられると言う少女漫画のような展開に、一人興奮するメリエル。
「そいえば、なんで実香さんはダンジョンに?」
「んー? 気晴らし?」
「ダンジョンに?」
「そーよー。ダンジョンには好奇心旺盛でフレッシュなヤングのイケメンが多いからね! 食べ放題よ食べ放題」
「合流した早々、オープン性欲女がいやがる……」
そこで、吹き飛ばされた友也がぜぇぜぇと肩で息をしながら合流する。
「あら、皆揃ってるのね。今日は遊びに?」
「違うよ~今日はテッツォから貰った変な薬を試しに!」
「駆くん……日藻さんの呼び方統一してないのかな……」
「アイツの記憶はガバガバなんだ」
変な薬、の単語に興味を持ったようで、実香がずいと乗り出す。
「へー、どんな薬なの?」
「『通称――ダンジョン内の女子を皆エッチにしてしまう薬品、さっ』」
「お前さてはそれがフルネームだと思ってんな? 違うからな?」
「え~! すごい発明じゃない! ダンジョン内で少子化対策ってことね! え、でも待って、仮にダンジョンで受精したとして、外出たらどうなるんだっけ……?」
「本当に公務員か? なぜか受精卵ごと消滅してなかったことになるらしいって、これ常識だぞ」
「カーッ! 神様はいじわるねぇ!」
「急に中年の痰吐きみてぇな音出すな!」
「世ではこれをご褒美って言うのよ」
「特殊性癖者をベーシック扱いするんじゃねえ」
呆れ散らかして脱力する友也を尻目に、残り四人はやいのやいのと薬に群がる。
「ところでこれ、エッチになるってどのくらいなるんでしょうかね?」
「普段清楚な子がドスケベになるみたいな展開だと興奮するわよねぇ」
「わたしのこと!?」
「僕のこと!?」
「駆の性自認はどうなってんだ」
「『清楚』かな……」
ふっ、と流し目をする駆。
「テメーから最も遠い概念じゃねーか」
「まあ物は試しです! 使ってみましょうっ」
「あらあらメリエルちゃん、わかってるわねぇ! その開放性、将来有望よ! お姉さんが保証する!」
「わわわ、ありがとうございます! 実香さんのようなフェロモン全開女子になれるよう頑張ります!」
「やめろ。その女は一番参考にしちゃならん奴だ」
「まあまあ友ちゃん、それはこの薬を使ってみてからでも遅くないと思うよ?」
「遅いとか早いとかの話じゃねーんだよ……ってオイ駆!?」
ピルケースから鮮やかな赤白の錠剤を取り出した駆が、それを地面に叩きつけた。
すると錠剤が割れ、中からモクモクと凄まじい量の煙が吹き出してきた。
「成功ぶひね。これはダンジョン内の特定の素粒子――」
いつの間にか追いついてきた竹中がしたり顔で語ろうとしたが、その目線の先で起きている事態を理解した瞬間、またも赤熱し、今度は弾け飛んで死んだ。
「あの豚の身体はどういう構造してんだ」
「はぁ、なんか早速興奮してきたわね。どーしよ、上着だけじゃ脱ぎ足りないわ」
「美土代ちゃんノリいいね~! 流石!」
「いや効き目早過ぎだろコイツに関しては効いたフリして勝手に発情してるだけじゃ――」
言いながらつくしとメリエルの方を見て絶句する友也。それもそのはず、二人も実香同様――いやむしろ実香よりも酷く、目つきが既にとろんとしてしまっている。
「うおおおあやめろメリエル! 秒速で下着まで脱ぎ捨てようとすんな!」
「ダメだよ友ちゃん女の子の自由意志を尊重しようよ!」
「抜かせコラァ! これ実質催眠だから自由も意志もねーだろが!」
「でも自分から脱いでるからさ、結果が全てだよ」
「お前コンプラ警棒で殴り殺すぞ」
「正義のために暴力を正当化するとはまさにこういうことだね~」
世の中はままならないねぇ、と隠居老人のようなことを呟く駆に、下着姿になったつくしがペタリと密着する。胸がないので、完全な密着を実現できている。
「ねーえ、駆くぅん、そろそろわたしと子作りしない?」
「あら待ってつくしちゃん、先にこの美人お姉さんがサンプルを見せてあげるわ」
「だめですぅー、実香さんは友也くんとでもしててくださぃー! 駆くんはこの美少女ロリこと星崎つくしの旦那さんにするんですぅ~!」
下着の女子と女性にのしかかられ、ウキウキの駆。
「うっひょ~! こりゃ竹中に百万ザブトンだね~! 違う胸の感覚が一緒に味わえてまるで豚骨醤油ラーメンだ~!」」
いざ勢いよく下を脱ごうとしたところ、友也のスライディングタックルに阻止された。
「なんでマリアージュじゃなくて混ぜ込んでんだよ! ってンなことはどうでもいい、こんなところで青姦させてたまるか!」
「トモヤ~、この際初めてはトモヤでも良いですからぁ~、愉しいことしましょ? 異世界金髪美少女ですよ? ね?」
「また脱ぎやがってテメェ……! なんで俺の周りは慎ましい子がいねぇんだ畜生……! 慎ましい人妻は夢のまた夢か!?」
「不倫はまだ犯罪だよ~友ちゃん」
「な~に言ってんだ、法は人のことをわかってねぇ! 夫婦になって訪れた倦怠期に刺激を与えるのはいつだって若者って決まってんだよ!俺はその崇高な使命を達成するために」
「友也くんうっさい! どいて!」
「ほがあ!?」
独自理論を展開し始めた友也を酔っ払いの如きタックルで退かす。
「いってて……この馬鹿力チビが……って駆ゥ! こんなとこで脱ごうとすんな撮影されたらコイツら可哀想すぎるだろ!」
「友ちゃん突然倫理観戻るよね~。でも僕はね! 据え膳は! 盛って食う派なんだ!! おかわりもするぞ!!」
「こんな場所では一口たりとも食うな!!」
下着すら脱ぎ捨てようとするメリエルと実香を両手で必死に押し留める友也。つくしはと言えば、下着で密着しているだけで興奮しており、しばらく動けなさそうなので駆は満面の笑みで放置している。
が、その時。
「駆……なんか嫌な声聞こえないか?」
「ん? あ~、言われてみれば……興奮してる系の息が超聞こえてくる!」
「絶対嫌な事が――」
友也の顔から血の気が失せるのと同時に、四方八方の壁やら何やらを破壊して、無数の魔物――その八割がオークに見える――が駆たち目がけて突っ走ってきた。
そのどれも目が血走っており、荒すぎる鼻息で常に顔面が上下している。
「――起きるんだよなぁあああああ!」
「うお~すげえ! どゆこと!? 僕たちモテモテすぎない?! 百匹繁殖できるかなって童謡の夢が今叶っちゃう!?」
「そんな畜生繁盛みてぇな童謡はねぇ! 良いからお前はつくしと美土代担げ! 逃げるぞ!」
「なるほど、サイズ感のバランスを取っているわけだね! 僕は二種類のおっぱいを堪能できる!」
「クソくだらねえコト抜かしてる場合か!?」
「ひゃっほ~い!」
ど直球の淫乱とは異なりまだ恥じらいと言うものがあるのか、それとも異世界人には効きづらいのか、単に焦らしプレイが好きなのか、真偽のほどを確かめる気もないが、中途半端な位置でモゾモゾしていたメリエルを担ぐ友也。
「友ちゃ~ん、これなんだろ? もしかして魔物のメスも発情しちゃったのかな!?」
「オスなのかメスなのかはわからんが……キメぇタイプの興奮してることだけは間違いねえ! 捕まったら死ぬよりキツいトラウマ植えつけられんぞ!」
「え~? 僕は興味あるよ、魔物姦」
「あーくそ、異常性癖者は口を開くな! もし魔物がオスだったらつくしたちがやべー目に合うんだぞ!?」
「それはそれでエモいな……」
「考え込むなバカタレが、正気で合意の上ならまだしも、こんなイカレた状態で置いとけるか!」
「一理ある! やっぱ最初は純愛だよね~! NTRはスパイスって感じ!」
「くそおおおこのゴミは話もまともにできねえのかああああ!!」
女性三人を担いで逃げ続ける駆と友也だったが、興奮オークの集団は一向に止まることなく、それどころかむしろ数が増してすらいる。
サバクトビバッタもビックリの魔物の押し寄せように、他の人間も影響を免れていないようで、どこの誰とも知らない熱血系の顔をした男が並走し怒鳴りつけてきた。
「おいちょっとアンタら! この魔物の数どういうこった!?」
「あぁ!? 誰!? 今俺ら逃げるので忙しいんで後にしてくれる!?」
「え、君結構イケメンだね~、可愛い子知ってそう! 紹介してよ~!」
「「何言ってんだお前!」」
熱血系の男の横からひょいともう一人の男が顔を出す。そちらは打って変わって伏し目がちであり、長めの前髪も相まって陰気そうな雰囲気を出している。
「やれやれ……お前はすぐ熱くなって他人に絡む……そいつらが関係しているとは限らないじゃないか。決めつけるのはよくな」
「いや俺らのせいだけど?」
「ほらな――ん?」
「これだからヤレヤレ系はよ」
「流石友ちゃん! ヤレヤレ系を瞬時に黙らせた!」
無駄に囃し立てる駆にむっとしたのか、ヤレヤレ系の男が早口で言う。
「ふん、大体こんなもの逃げる必要ないんだよ。さっきから何馬鹿にしてきてのか知らねえけど、こんな奴ら俺が一掃してやるよ。まあ見てろお前ら――ふごぁ!?」
誰を相手に言ってるかもわからない距離感の喋り方にイラついて友也が足払いを掛けると、ヤレヤレ系の男はスピンして転倒した軽自動車よろしく、踊るように地面を跳ねた。
「うわああああああ!!!!――――」
「ヤレヤレ系が死んだ!!」
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