第9話 駆くんと異世界お嬢様2

「エッチなのに興味津々なのは元からですが?」

「ダメだったあああ!!」

「ほらね~!」

「ふむ、わたしより高身長でおっぱいもある……死刑!」


 どこからかプラカードを取り出したつくしが死刑のシュプレヒコールを始める。自ら手を下しに行くわけではないらしい。


「あ、ところでお嬢さんお名前は? 改めまして僕は各務原駆、青春の擬人化だよ」

「わたしは星崎つくし! えっとー……じゃあわたしも青春の擬人化で!」

「青春じゃなくて性欲か何かの間違いだろ。……あー、俺は友崎友也、こいつらの友人みてえな奴だ。あんたも色々災難だな」


 友也の名前を聞き、ふむ、と首を傾げる少女。


「友友……馬鹿みたいなフルネームですね」

「テメェコラ、人がせっかく同情してやったと言うのに返す刀で馬鹿とはどういうこった」

「ま~友ちゃんは馬鹿に付き合ってるから馬鹿だよね」

「伝染病か何か?」

「ところで、あなたの名前はなんて言うの?」


 つくしの質問を受け、こほんと軽く咳払いして向き直る少女。

 スカートの端を持つ手つきは、令嬢のような優美さがある。落ち着きを湛えた碧眼はその奥に確かな知性を宿しているし、絹のような金髪は流麗で厳かささえ感じられる。

 白と水色を基調としたワンピース的な衣服は、細やかな装飾が施されており、品質の高さが窺える。

 駆たち三馬鹿も、異国情緒もとい異世界情緒に溢れた彼女の所作に思わず息を呑む。


「私の名はメリエール・ヨーロリと申します。王妃候補としてヨーロリ家で教育を受けておりましたが――」

「アリエール……洋ロリ……!?」

「フローラルな香りしそうな名前だな」

「で、洋ロリさん」

「あの、ヨーロリのアクセントは……えっと、『洋梨』ではなく『兄弟』の方で覚えてください」

「いや、そもそもこの馬鹿はそれ以前の問題でだな」

「?」


 気づくとメリエールの側まで駆が来ている。


「アリエールなんだから良い匂いがするはず」

「あわわわ嗅がないでください~!」

「ちょっとぉ! 駆くん何してんのー!」


 つくしが地面を粉砕して投擲用のダガーを一瞬で生成し、駆の顔面目掛けて放つ。およそ人間の投擲とは思えない速さで飛来したそれが駆のこめかみに突き刺さる。


「ふむふむ。服も良い匂いするけど奥から香る女子特有の甘酸っぱい匂いがいいよね。ん、てかさっきちょっと運動してた? 汗っぽい感じもまた良い」

「なんでこめかみから血を流しまくりながら平気な顔してセクハラしてんだあのタコ」

「くうううう許せぬ! 許せぬ! おのれ!」

「突然戯曲のキャラみたいな口調になるんじゃねえ」


 一方でメリエールと言えばただ嗅がれながらあわあわしているだけで、抵抗のそぶりすら見せない。


「あ、あのあのあの、人が見ていますから、そういうのはお洒落な個室で二人静かに……」

「誰だコイツに無駄な性知識を与えた奴は」

「元々の知識です」

「やっぱりただの淫乱か!」

「死刑! 洋ロリは死刑!」


 それを聞き、ふむ、とメリエールを観察する駆。


「年齢十五歳、身長155センチ、体重は[禁則事項です]、おっぱいはDカップかな。あと他にも色々ポテンシャルありそう」

「ななななっ、全部正解です……一体何者なんですか」

「紳士さ☆」

「真逆の概念を述べるな」

「う~ん、日本人女子であればロリに該当しないんだけど、金髪美少女アンドあどけない目つきポイントで洋ロリ認定とする!」

「世界一どうでもいい認定」

「待ってよ駆くん! 155センチなんて国際ロリ法違反だよ! 罪状は死刑だよ!」

「どこのディストピア世界出身なんだお前は」

「てかさ、これもしかしておっさんの依頼も達成しちゃったんじゃね?」

「あぁ、腕組み仁王立ち全裸マッチョドラゴンのザラか」

「そそ、腕組み仁王立ち全裸マッチョドラゴンのザラ」

「二つ名が長すぎるんだけど」


 その名を聞き、メリエールが反応する。


「え、皆さん、腕組み仁王立ち全裸マッチョドラゴンのザラとお知り合いだったんですか?」

「メリエールさんは普通にザラって呼んであげなよ!?」

「いや待て、アイツが探してるのは姫じゃなかったか? さっき王妃候補って」

「あぁ、彼が私のことをずっと姫と呼んでいたと言うだけです」

「愛称だったのかよ紛らわしいな」

「ん~、でも高学歴高収入の箱入り娘ってとこは合ってるっぽくない?」

「パンドラの箱だろこれは」


 うーん、と唸るメリエール。


「確かに私はアリメカ合体国の王妃候補として幼少より様々な教育を受けてきましたが――」

「審判タイムタイム、国名ワンモアしてくれる?」

「ルー大柴かお前」

「アリメカ合体国……ですか? 私の生まれ故郷です」

「あーもう一回言って?」

「アリメカ合体国」

「あーもう一回」

「お耳腐ってらっしゃる?」

「うん、僕もそれを疑ってる」

「いや多分そのアホ丸出しの国名で合ってんだろ、ほら見てみろつくしのこのアホ面」

「誰が美少女ロリだって!?」

「言ってねぇよ!」


 故郷を馬鹿にされ、メリエールがむくれる。


「むむ、失礼な。アリメカ合体国は二千年の歴史を誇る由緒正しき国なんですよ!」

「なるほど。こりゃアメリカじゃなくて中国だね~」

「まず合体国って何なんだよ」

「色々あって色んなものが合体したからです」

「幼稚園児の説明か!?」

「まぁ、私の故郷の話はいいじゃないですか。せっかくクソ面倒くさい王妃候補ギスギスバトルから足を洗うことができたんです。あ~運が良かったなあ私! これからは普通の日常を楽しみます!」

「よし、そうと決まれば今後は僕の家で暮らすと良いよ」

「全然全く一ミリたりともよろしくない!!」

「どうしたの激しいねつくしちゃん」


 そこでぽむ、とつくしが手を打つ。


「駆くんと一緒に暮らすくらいならうちに住んで!」

「意味不明な二択を押し付けんな」


 そう言って友也がメリエールの方を見ると、確かに彼女は困ったような顔をしていた。


「ほらな、突然意味わからんこと言うから」

「いえ、確かに住居をどうするかは喫緊の問題でしたし。野営をして盗賊にでも襲われたら……裸に剥かれて良いようにされてしまいますっ、あわわお助け~!」

「勝手に興奮してるとこ悪いが現代日本に盗賊はいねーよ」

「でも、よろしいのですか? その……自分で言うのも何ですが、正体不明じゃないですか? 私」

「僕が保証する! メリエールは良い洋ロリ! 清楚! 健康! エッチ!」

「最後のは要らんだろ」

「あー、さっき脳スキャン? された時にね、メリエールさんの記憶? 経験? みたいなのがちょっと流れ込んできてさ。なんか他人って思えないって言うか。それに……悪い人じゃないんだなってのはわたしにもわかったし。ほんと色々大変そうだった……ハーレクイン系の現実ってきびしーね……」

「つくしさん……!」


 少しだけ照れくさそうに言うつくし。最後の方は追体験したメリエールの記憶を思い出してげっそりしていたが。


「あとうち、四部屋くらい余ってるしね」

「建築ミスとか言うレベルじゃねーぞ」

「五人子供作る予定があったらしいんだけどわたししか産まれなかったんだって」

「う、なんかすまん」

「単に見栄張って家買ったせいで、子育てに回すはずだったお金が住宅ローン返済に回っちゃっただけだよ」

「金の問題!? 謝って損した!」

「てなわけで、うちに住むと良いよ!」

「私、人様のありがたい提案には堂々乗るタチなので……つくしさん、ありがとうございますっ!」

「感謝の前の口上不要すぎるだろ。そのうち騙されんぞ」

「望むところです!!!!」

「鼻息荒げて興奮すんな」


 深々とお辞儀をしたまま興奮するメリエール。しかし何かを思いついたようで、ふと姿勢を戻した。


「あ、そうだ。皆さん、せっかくですし私のことは愛称で呼んでくれませんか? こういうの憧れてたんです!」

「へ~、何て愛称?」

「はい、メリエル、とお呼びください!」

「長音を略しただけのものが愛称……?」

「これが異世界文化です」


 そう言ってメリエール改めメリエルがドヤ顔をする。


「なるほど、メリちゃんね」

「早速追加で略すのかよ」

「メリちゃんも可愛いからありです!」

「わたしはメリエルって呼ぶよ、よろしくね!」

「はい! あ、あの……私は皆さんのこと、呼び捨てでお呼びしてもよろしいですか……? 実はその、こういうのもちょっと憧れてて……」

「全然良いよ!」

「もちろん! ついでに罵って!」

「駆は黙ってろ! ……まぁ呼び名くらい好きにしろよな」

「やったあ! こほんっ……では改めまして、つくし、カケル、トモヤ、これからよろしくお願いします!」


 各々頷き、一旦ダンジョンを出ようとする。しかしメリエルはなぜかその足を止めた。


「あの、私……ダンジョン? の外に出られたことがないんですが……」

「うん? 最終フェーズ的なの終わったっぽいし、もう良いんじゃない?」

「外に出てしまったら、民衆から好奇の目に晒されながら凌辱されたりしませんか!?!?」

「されねーよ! お前現代知識がインポートされてんならわかるだろ」

「つくしの脳内ではたまにそういう妄想が繰り広げられていますよ」

「クソッやっぱり対象が悪すぎたか」

「永遠に明かされないはずだったわたしの妄想が晒されてる!? 羞恥プレイだぁ!」

「これじゃ変態が増えただけじゃねーか……」

「少子高齢化対策にはもってこいだね~!」

「それはそうかもしれん」

「ツッコミを放棄しないで友也くん」


 隙を見て駆がメリエルの股下に入り込み、よいしょと肩車をする。


「ふわぁぁあ?! おまたがスースーします!」

「肩車されてその感想はおかしいだろ。どういう空調してんだ」

「履いてないんじゃない?」


 チラ、と上を見る駆。そんなワケあるかと友也は鼻で笑っていたが、肝心のメリエルは顔を真っ赤にして前後左右に暴れていた。


「もももぉもももぉ黙秘権をぉ~! 行使しま~す!」

「わかりやすすぎるだろ!」

「うぉお~! 肩車ガチャ成功だ~~~!」

「詐欺レベルの確率だろそれ。なぜ当たるのか」

「淫乱! 淫乱は死刑! 宇宙淫乱共同協定によりこの場で破壊する! 武力介入!」

「うおおお待てつくしィ! カノン砲を錬成してんじゃねぇ! デカすぎる! てか砲塔いくつあんだこれ?! 辺り一面吹き飛ばす気か!」

「異能生存体なら生き残るでしょーッ!」


 突如怒髪天と化したつくしがカノン砲を連発する。一体どうやってリロードしているのかは皆目わからないが、弾は延々と発射され続け、それはダンジョンのあちこちを破壊し尽くした。


「げっほげほ、土煙がエグすぎる、地盤大丈夫かよこれ」

「はぁ、はぁ……悪は滅した……! 我がロリ帝国に一片の淫乱なし!」

「何だこの独裁者」


 しかし、煙が晴れるとその向こうには青い魔法陣を体の前にに展開したメリエル(と股下の駆)が誇らしげな顔をしていた。


「すご……私の魔法防壁、強すぎ……?!」

「二番煎じかよ」

「悪が! 滅びて! いない! わたしは諦めないぞ! ってうわぁぁあ?!」

「そい! 閃影牢雷! そいそい!」


 気楽な声と共に放たれた無数の電撃の槍が、無造作に作られたつくしのカノン砲を粉砕。つくしは戦闘意欲をあっさり折られ、その場に崩れ落ちた。


「く、くうぅ、淫乱異世界女に負けた……っ」

「ちょっとつくし!? 私は『良い洋ロリ』ではなかったんですか!? 思い出してください! 貴女はそんな人じゃない!」

「説得ボイスのくせに内容がしょうもなさすぎる」

「あ、そうだった。メリエルは良い洋ロリ!」

「お前は特定の単語に反応するbotか?」


 メリエルがうんうんと嬉しそうな表情をした後、突然ひぁぁん! と嬌声を上げる。そして股を開いたり閉じたりしようと試みていた。


「う~ん、素晴らしい、ツルツルの感触だねこれは。満点だよメリちゃん」

「ちょ、ちょっとばかぁ! そういうこと人前でやらないでくださいっ……ひゃぁあん!」

「ぐあーっ! NTRで脳が破壊されるーッ!」

「やめろつくし! ダンジョン丸ごと武器に変換しようとすんな! 足場が!」

「うっさーい! そのまま虚無に堕ちろーーーっ!」

「足場がなくなったら全員落ちるんだよ馬鹿野うぉおおおなんだこの球!?」


 雑に周囲の全てを固めて元気玉並みに大きな球にしたつくしが、その球を放る。メジャーリーガーも目玉が飛び出るほどの速度でメリエルに向かっていく球だったが、肝心のメリエルはと言うと。


「もお~~! それ以上は、んっ、あっ、だ、だめですぅ~~~っ!」

「うぉおおぅ?!」


 延々と股に頭を擦り付け続けていた駆を引き離し、なぜか恥じらいながらドロップキックをかましていた。

 恐ろしい脚力で吹き飛ばされた駆が、これまた恐ろしい速度で飛来する岩の球に激突する。


「ほぎゃあ!」


 が、粉砕されたのは球の方だった。発剄でも食らったかのように爆散したのである。


「駆が……ダンジョン内のものに……干渉した……?」


 それを見た友也が困惑の声も上げる。それもそのはず、これまで駆は例えどういう形をしていようと、ダンジョン内の物質には干渉できなかったし、干渉もされなかったのである。


「つくしパワーが球を覆ってたからじゃない?」

「う~ん、なるほど?」

「ひゃ~ビックリしたよ~! もーつくしちゃんはいきなりなんだから~」


 何事もなかったかのような顔ですたりと着地する駆。しかし、大量の地盤とエネルギーを吸収されたダンジョンの方は、ゴゴゴゴと唸り声のような悲鳴を上げていた。


「おっ」


 駆が何かを受信したかのような顔で奥を見る。


「みんな~、なんかボス戦始まるっぽい~」

「何でそんな急に……っ! 駆くんをつくし成分で上書きしなきゃいけないのに……!」

「テメーのせいだろつくし! ダンジョン壊しまくってキレてんじゃねえの?!」

「そうっぽい!」


 駆が満面の笑みでグーサインをする。いつの間にか三人の元へやってきていたメリエルが、魔法陣から錫杖のようなものを取り出す。形こそ錫杖だが、その先端にはダガーが三本付いており、さながら三叉戟である。そしてその表情に恐れや不安などはなく、むしろ修学旅行前夜の子供のようにワクワクした表情をしていた。


「敵ですか!? 転生後最初のメリエール・ヨーロリのお披露目というわけですね! 腕が鳴ります!」

「無駄な順応性……」

「そーいえばメリエルの出す魔法陣って本格的だよね~」

「確かに、六芒星って言うんだっけ? かっこいいよね」

「こっちの世界で魔法陣出す奴は雰囲気でしか出してねぇからな」

「気が抜けてるよね~」

「世界一気の抜けてる奴が何を言う」

「ふむ! でしたら転生ボーナスで強くなったっぽい私の魔法をお見せ致しましょうっ! そうですね……私のいた世界での標準的な魔法を!」


 ふんす! とメリエルがダンジョンの奥の方を見つめて錫杖を構え、魔法陣を展開する。生まれて初めて見る異世界人なるものが使う魔法とのことで、駆たち三人も自然と心が踊ってしまう。


「では、行きます! ――我、深層から連なる災禍を担いし者――」

「うお~! リアル厨二病~~!! かっけぇ~!」

「なんか蛍みてぇな光に包まれてるし本格的だな!!」

「友也くんですら興奮してる?! でも確かに、なんかすごそう!」


 目を瞑り詠唱するメリエル。その錫杖の先端に光が収束し始める。

 そして、更に大きくなる地鳴りと共にダンジョン奥の壁が大胆に崩壊し、奥から異様に巨大なユニコーンが姿を表した。


「白い馬だ~~~! 馬刺しにするとやっぱ真っ白なのかな?!」

「食欲減退しそう」

「あ、角が引っかかってユニコーンが止まった……」

「ホントだ~~! 今だやっちゃえメリちゃん~!」

「――永劫の回廊から今一度目覚めよ、汝が討つは西方の瞬き!」


 メリエルがカッと目を見開く。角が上部の岩場に引っかかってモタモタとしているユニコーンに向け、再度錫杖を突きつける。


「発射! ファイヤーボーーール!」

「ん?」

「え?」

「は?」


 手のひらサイズの火球がひゅ~んと飛んでいく。ユニコーンの目より遥かに小さなそれは放物線を描きながら首元に命中。

 ぽふ、と音を立てて消えた。特にダメージは無さそうだ。


「すっげ~! 最終的に技名だせーし球小せえ~~!」

「ちょっと駆くん?! 直球の煽りは流石に可哀想だよ?! 確かに想定外の残念さではあるけど!」

「うーん、ロマンチックな誘い文句使うくせにいざ脱いだら短小包茎早漏だったみてえな残念感だな」

「友也くんは何目線なの?!」

「大体『発射!』ってなんだよ。ロケットか何か?」

「これ以上はやめたげて!」


 肝心のメリエルはと言うと、本人も想像と違いすぎたのか、おろおろとしている。


「お、おかしいですね……本当はもっとすごいんですけど……」

「どうすごいの?」

「こう、もっとバーンってなります」

「たまに幼稚園児レベルの語彙になるのは何なんだ」

「うぅっ、こんなはずじゃないんですぅ~~!」


 ふにゃふにゃとしゃがみ込み、めそめそとし始めるメリエル。


「う~む、こういうプレイだと考えると、『アリ』だね」

「意味不明な手のひら返しはやめろ」

「と言うかメリエル、さっき鹿島さんに当てた電撃? みたいなのはすごかったじゃん」

「あれは……私のオリジナルで……」

「あ~なるほどね。うんうんわかるよ。安全牌を狙って皆と同じことしてみたは良いものの逆にショボくなっちゃう奴ね。僕も経験あるわ~」

「お前が人と同じことをしてる記憶が俺にはないんだが? 俺の記憶違いか?」

「やだな~友ちゃん、こんなの対女の子用の嘘トークだよ~」

「うん。ゴミクズの通常運行で安心した」


 つくしが無表情で二人を見る中、ユニコーンが角の引っかかっていた岩場をぶち壊し、咆哮を上げる。


「ブオオオオオオオン!」

「何だあれ~! 神々しい見た目のくせにオンボロ掃除機みたいな鳴き声だ~!」

「黙っていればモテるタイプの女子みてぇだな」

「失礼な、わたしは喋っててもモテるよ!」

「誰もつくしの話はしてないぞ?」


 錫杖の先端をゲシゲシと殴りながら「こんなはずじゃ……こんなはずじゃ……」と嘆くメリエルの横から、駆が自信満々にずいと出る。


「これは――ついに僕の出番のようだね!」

「何カッコつけてるか知らんがお前ただのアホ無能だろが」

「くっくく……友ちゃん、その時代はもう終わったのさ」

「ほう」

「僕にはわかる! 今の僕にはワンキルぢからが漲っているってね!」

「なるほど」

「ちゃんと反応してよ~! 寂しいよ~~!!」

「くねくねすんな気色悪い! あーもう、言葉より行動で示しやがれこの野郎!」

「良かろう!」


 ユニコーンが前足を振り上げ、駆たち目がけて振り下ろしてくる。だが、駆は怯える様子もなくその足目がけて右ストレートを決めた。

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