第7話 駆くんとゆかいな幼馴染ロリ7

 ――


 外、新宿駅。晴天。


「さて、とんでもない目にあわされたわけだが」

「こひゅーっ こひゅーっ こ」

「あ、死んだ」


 血走った目で過呼吸になったつくしが晴天の下、バタリと倒れる。血文字のダイイングメッセージはもちろん『かけるくん』だ。

 一方の友也は、座禅を組んだ状態で溢れ来る死を受け容れたため、スッキリツルツルピカピカのお顔である。一切の邪を払ったかのようだ。


「血文字……ふむ。想い人と殺人犯のダブルミーニングだな。昼ドラか?」

「う~ん、よく寝た気がする~。おはよ~友ちゃん、いい朝だねぇ」

「もうすぐ日暮れだわ。北極圏在住者かお前」


 陽気に伸びをしながら駆の姿がもわ~と現れる。

 ダンジョンと現実の間には時間の歪みが僅かにあるところもあれば、無いところもある。とは言え基本的に大きな時差が発生しているという例はない。概念的に時差が収束してきた段階でダンジョンが現界するのではないか、との見方もされている。


「つくしちゃ~ん、起きてる~?」

「んにゃ……って、うひゃぁ?! 駆くん?!」


 地面に突っ伏していたつくしの体がバヨンと曲がって跳ねる。


「違法AED食らった奴みたいな跳ね方したぞ……!?」

「おはよ~つくしちゃん」

「おおおおおはよ! きょきょ今日もかっこいいね!!」

「なんで突然対応がバグってんだよ」

「何言ってんの? 目覚めて第一に駆くんが目に入ってきたんだよ? もうこれ夫婦じゃん? ビックリして当然じゃん?」

「過程を飛ばしすぎて粗製濫造品すら目を見張るレベル」


 そんな三人のもとに、スーツ姿の女性が寄ってくる。強めのギャルメイクに主張を隠しきれない胸元が合わさって、何かの撮影用コスチュームなのではないかと錯覚しそうになる、が……首から下げているードホルダーには彼女のキメ顔と共に、『国土交通省外局 異次元空間管理局 係長 美土代みとしろ 実香』との記述がされていた。


「あ、美土代ちゃんだ~。やっほー」

「駆ちゃ~ん、おっつー。どう、一発ヌイてく?」

「およそ高校生に掛けていい言葉じゃねえぞセクハラババア」

「まぁまぁ友也ちゃんも、そんな怒った顔しないで。法は改正されたから、いいのよ☆」

「ペコちゃん顔すんないい年して」

「あと私まだ二十八だからね? むしろここからが性欲爆発ってトコなワケよ」

「ちなみに法改正されたのはホントだよ~」


 そう言って駆がスマホを見せてくる。ダンジョンの出現によって治安や幸福度等々が著しく改善したことを受け、なんかついでに出生率も上げちゃおうぜみたいなノリになったらしく、色んな年齢が引き下げられたり引き上げられたりしていた。

 世界的なトレンドのため、乗るしかない、このビッグウェーブに。との雰囲気らしい。


「マジか。全世界共通ガバじゃん」

「マッチングアプリで十代と八十代が出会えるようになるらしいよ~」

「幻覚ひ孫活動かよ、限界過ぎる……」

「幸せは一瞬で過ぎちゃうモノ! みんな等しくハッピーになれるならそれがオッパッピーってコトよ! これで私もいたいけな少年にモテまくっちゃうわねぇ!」

「ねぇ二人とも? この脳内オッパッピー女は……誰?」


 いつの間にか正気を取り戻したつくしが、今度は狂気を纏いつつ問いかける。

 低身長貧乳部に所属する彼女は、中でも非常にラディカルな立ち位置におり、高身長巨乳を見つければ軒並み呪殺せねばならないと言う宗教的義務を持っているのだ。

 なお、今はそれを必死に抑えている。


「あら、はじめましてね。私は国土交通省外局、異次元空間管理局の美土代実香よ。貴女は……駆ちゃんの妹?」

「違いますぅ~っ! 幼馴染の! 星崎つくしですぅ~!」

「幼馴染?! あらあら良いわねぇ、ヤリたい放題じゃない」

「そのはずだったんですよぉ!! なのに五年前親と一緒に引っ越すことになっちゃって……それで、あれもこれもそれもどれも全部お預けで……っ、ぐすっ」

「大変だったわねぇ、親、呪い殺したいわよねぇ! 性欲は堂々たる三大欲求なんだから、妨害するということは餓死させてくるのと同じ! 虐待よ虐待!」

「つくしの親に理不尽な罪が降りかかっている……!」

「でも、今日から東京に戻ってきたので、楽しい幼馴染ライフの復活です!」

「うんうん。紆余曲折も幼馴染ライフの醍醐味の一つよ! あ、赤ちゃん出来たら申請を忘れずにね? 今ならアホ政府から補助金ガッポガッポよ!」

「はーい! 実香さん良い巨乳!」

「テメェら大通りのど真ん中で低俗女子トーク繰り広げんのもうやめろ!」


 ぽふ、と実香が手を打つ。


「あ、そうそう。駆ちゃんがダンジョンに入ったって報告が来たから、このクソ邪魔なダンジョンもいよいよ消えるかなーって乙女の第六感がヘビメタ鳴らしてきてね、それで他の仕事ぜーんぶほっぽりだして一番乗りしてきたってワケなのよ」

「コイツ本当に公務員適正が無さ過ぎるだろ」

「わかってないわね、周りの男がつッッッッッまんないシナチン野郎であればあるほど、他での出会いに彩りが生まれるものなのよ!」

「何の修行してんだお前。あと全ての公務員男性に謝罪しろ」

「わかるよ~~~! 人妻巨乳モノばっか見てるとなぜか突然JKロリモノが見たくなるみたいなもんだよね~!」

「絶対違う」

「そうそう! 駆ちゃんはわかってるわねぇ! ご褒美あげるわ! そう――性欲には日々のコントラストが重要なのよ!」

「JK……ロリ……モノ……が……見たい……?」

「つくしィ! 変なとこに反応してんじゃねぇ! 発情やめ! パンツ上げェ!」


 ボケが増えたことにより友也の労働量が増大し、肩でぜぇぜぇと息をしている。

 旋風の原因たる実香はと言えば、そんな彼を気にすることなく、タブレットを取り出した。


「んで、私の直感は見事大当たり! いや~今回は生理も軽かったし、良いことずくめね!」

「純度百パーの不要情報を付け足すな」

「あ~これなんだっけ? サインする奴?」

「そうよ。『異次元空間消滅確認書』、ゲートの消滅が確認されたダンジョンへ最後に入った人に、証人になってもらうの」

「おっけー。よくわかんないけど消えました、っと」

「はーいありがとー、これで確認は終わりよ」

「毎回恒例なんだが、このガバガバ公務を見ていると税金の行き先に対して憤りを覚える」

「友也くん、そんなに目くじら立ててたらモテないよ? 牛乳飲む?」

「いらねーよ。大体お前はどっから牛乳パックを取り出したんだ」

「今買ってきた」

「自由人か」


 実香は満足そうにタブレットをしまい、笑顔を共に謝辞を述べた。


「ここのダンジョン、ま~じでクソ邪魔だったから、早めに消し去りたかったのよね! みんな本当にありがと~! また何かあったら、よ・ろ・し・く・ね☆」

「またね~美土代ちゃ~ん。後でご褒美もらいにいくね~」

「一瞬だけ言われたご褒美の単語だけ記憶してたのかコイツ」

「待ってる~(はぁと)」

「この女は早めに検挙すべきだろ」

「駆くん??????????? どゆこと?????? 焼くよ??????????」

「いいぞ。焼いてくれ」


 最終的にツッコミを放棄した友也を尻目に、実香がひらひらと手を振りながら去っていく。そして交差点で一般車両をタクシーだと思い乗り込んでいた。運転手からしたらいい迷惑である。修羅場にでもなったらどうするつもりなのか。

 しかし、そんな他人の些事に気を取られるような女ではないのが、美土代実香と言う女性なのだ。


「あ~ダンジョンで動いたらお腹空いた~。ラーメン食べて帰ろーよ」

「そうだな。疲れた」

「賛成!! わたしいっぱい食べていっぱい成長するからね!!」

「期待してる~」


 そして幼馴染三人も笑顔で帰路につく。

 約一名、疲れの抜けない顔の男はいたが。

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