第6話 駆くんとゆかいな幼馴染ロリ6

「バリアーーーーーーーーッッッッ!!!!」


 しかし友也の掛け声に呼応して、三人の眼前にコンタクトレンズを巨大化したようなバリアが展開される。


「すげ~! まるでミラー◯ォースだ~!」

「お前は一万回くらい見てんだろ鳥頭」

「その小学生が遊びで言ってる奴みたいな技名、何とかならないの……?」


 とはいえ、そのバリアの防御力は凄まじいものだった。

 二十のブレスを一身に受けながら、びくともしない。

 ……訳でもなかった。


「ねぇ友也くん!? バリア割れてない!?」

「焼きすぎたガラスみたいになってきてるね~」

「うーん困った」

「この状況でライトに考え込まないで?!」


 ダンジョン初心者のつくしが困惑している中でもボスのブレスは止むことがなく、いよいよバリアのヒビが大きくなっていき――

 ビシ、と大きな亀裂が入った。


「あ、やべ」


 とぼけた声を漏らす友也。同時に限界を迎えたバリアが一部砕け、鋭利なガラスの破片のようなそれが三人の元へヒュンッと飛んでいく。


「ふごっ」


 そしてそれは、駆の脳天を直撃した。


「駆くーーーん!!!!」

「しまったあああああ!!??」


 珍しく友也が動揺したような叫び声を上げる。脳天にガラスもといバリアが突き刺さった駆は、血をダラダラと流したまま真上を見上げて硬直していた。間抜けな即死だった。。

 そこでブレスが終了し、バリアも消滅する。ギリギリで凌ぎきったようだ。

 訪れる静寂。


「……駆くん、消えないね? ダンジョンって死んだらリスポンするんじゃ……?」


 突き刺さったバリアの破片も消え去ったのだが、駆は未だ停止したまま微動だにしない。

 その様を見たドラゴンもどきは、何かを察したのか全ての頭が同時にビクリとする。


「あー。そーだな。初回からコレが見られるのは……ラッキーだな……! うん!」

「友也くん? 口調が現実逃避みあるんだけど? これもしかしてやばい系のやつ?」

「わかんない!!」

「幼児退行した?!」


 何に耐えかねたのか、ドラゴンもどきの頭の一つが口から青白い光線を溜め始める。

 他の頭はと言えば「おいバカやめろ」と言わんばかりの表情でその頭をなだめようとしていた。


「ドラゴンの頭って意思疎通してるわけじゃないんだ……」

『フニャアアアアアアアアア!!!!』


 つくしが戸惑いの表情を見せていると、当の頭が収束させた光線を駆目がけ発射する。

 しかし――


「雑魚が」


 文字通り目にも止まらぬ速さで撃たれた光線だったが、駆はあっさりと手の甲で弾いた。

 しかも傲岸不遜系のカッコいい口調になっている。

 そのまま静かな足取りで一人、前に進む駆。


「……うん? なに? いまの? 光線が弾かれて消えたよ?」

「来ちまったか……」


 光線を撃ったドラゴンもどきの首がうにょーんと凄まじい勢いで伸び、駆を食い破らんと迫っていく。

 その鼻っ柱へ黙って右ストレートを繰り出す。

 命中。

 と、同時に、そのドラゴンもどきの頭が波打ち、爆散した。


「え、なんかチート始まったんだけど」


 目の前であり得べからざる現象が発生し、唖然とするつくし。


「まぁ、ダンジョンは何でもありってコトよ」

「友也くんはどうしてさっきから軽い口調とは裏腹に涙を流しているの?」

「お前も文語調の喋りになってんぞ」


 一方で他のドラゴンもどき頭たちはと言うと、突撃した一体の首を根本から切断することで難を逃れていた。


「なんかどの顔もすっごい安心した表情してるんだけど……」

「トカゲの尻尾切りとはまさにこのことだな。ハハ」

「棒読みが酷い! てかボスがこんだけ怯えるってどういうこと? それに駆くんはどうなっちゃったの?」


 それはだなァ、と友也が仰々しく前置きする。


「駆はな、ダンジョンで一度死ぬと無敵のワンキルクソ野郎になるんだ」

「ゲームのバグかな?」

「クソバグがよ。修正して欲しくてたまんねーぜ。運営に日夜抗議し続け俺はもう死に体だ。労災を申請する」

「幻覚の運営を見ちゃってる……」

「ちなみにこの駆の状態はだな。他には、俺また何かやっちゃいましたかモード、なろう系モード、デウス・エクス・マキナ・モード、馬鹿、阿呆、思考停止、など複数の名称で呼ばれているそうだ」

「最後の方何?! 表記揺れってレベルじゃないよ!? つまり……何なのかよくわかんないけどヤバいくらい強いってことでいい?」

「正解!!!! 強いどころかワンパンでワンキルだァ!」

「発想パクリじゃん」

「オマージュと言ってくれたまゑ」

「この開き直ったドヤ顔ムカつく」


 そんな中でも粛々とドラゴンもどきへ向かって駆は歩み続けている。

 ドラゴンもどきたちは来るな来るなと言わんばかりにそれぞれ光線やら光弾やらを発射し続けているが、駆はその全てをひょいひょいと弾き飛ばしていた。蝿でも払うように。


「そもそも光線を弾き飛ばすって何? 物理法則はどこ? もうマ◯オのスター状態じゃん」

「俺ツエー系に物理法則もクソもねーんだよ」

「……と言うか、無敵ならそれでいいんじゃない? 倒してくれるんでしょ?」

「ってェ、思うじゃァん?」

「唐突なヤンキー口調とヤンキーフェイスうざすぎる」


 くっついていても勝ち目なしと判断したのか、ドラゴンもどきが十九に分離し、それぞれ天空に舞って駆を包囲する。


「分離するんだ……」

「気をつけろつくし」

「ほぇ?」


 それぞれのドラゴンが律儀に一体ずつ駆に迫り、一撃でシバかれ爆散していく。綺麗な殺陣のような死に方だ。

 だが、一撃でシバくたびにその余波がダンジョンの空間を破壊している。

 衝撃波の残滓がダンジョンの壁にぶつかっただけで、そこは爆撃でも受けたかのように激しい破壊が発生していた。


「これってもしかして……ダンジョン壊れちゃうんじゃ?」

「正解ッッッッッッッッッッッッッ!!!!」

「パワー系が過ぎる!!」

「同行者は大体崩壊したダンジョンや発狂した魔物に潰されて死ぬぞ☆ 仮に生き残っても消滅したダンジョン内では呼吸もできないから、窒息死を強制されるんだ☆」

「駆くんは天災か何かなの? 存在が悪すぎるんだけど?」


 などと言い合っているうちに、早速ダンジョンが凄まじい地鳴りと共に崩壊の兆しを見せてきた。

 地や壁を始め、空間のあちこちに生じた歪みからキメラのようなモンスターがうじゃうじゃと出てくる。


「と、言うわけなんだ。南無三!」

「諦めて座禅組まないで!?」


 程なくして、ダンジョンの多大なる崩壊とボスのあっけない死を経て、当ダンジョンは無事消滅した。

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