第2話 駆くんとゆかいな幼馴染ロリ2

 駆を先頭にダンジョンへ入る三人。


「お邪魔しま~す」

「誰もいねーよ」


 友也のツッコミ通り、そこはザ・ダンジョンと言うべき空間だけが広がっていた。

 物珍しそうにつくしがきょろきょろと辺りを見ている。


「へー、なんかイメージ通りかも」

「デカい岩穴って感じだよね~。都合よく松明も配置してあるし。やっぱゲーム風の世界なのかな?」

「ダンジョンの構造に文句つけてどうする。こういう系の作品だと面倒くさいとこは良い感じになってんだよ」

「子供の事情だね~」

「なろう系の全てを敵に回すな」


 一人でちょこちょこと奥へ行っていたつくしが、「ひゃあ!」と声を上げて戻ってくる。


「な、なんかモンスター? みたいなのがいる……」

「そりゃダンジョンなんだからモンスターくらいいるよ。サキュバスとか」

「なんでピンポイントでサキュバスなんだよ。あそこにいんのはゴブリンだろ」

「と言うかサキュバスが一万体とか出てきたら流石の僕も精力持たないよね。そんなに見たことないけど」

「え、何体かなら見たことあるってこと?」

「うん、楽しかったよ。サキュバス」

「殺さなきゃ……」


 ずおお、と地から殺気を湧かせるつくし。本能が恐怖を感じたのか、五体ほどいたゴブリンは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「この女、戦わずして初戦を勝ちやがった」

「さながらむしよけスプレーだね~」

「つまり後百歩進む間はモンスターと出くわさない……?」

「人を便利アイテム扱いするのやめて!?」


 そこから適当にぶらぶらと歩いていたが、ゴブリンやコボルトを何度か見かける程度だった。


「ねぇ駆くん、ダンジョンってこんな平らなの? つまんないマインクラフトみたいなんだけど」

「う~ん、場所にも寄るけど、ここは特につまんないね。リコール対象だよ」

「ダンジョンを回収する業者がいるかよ。……あ、もしかすると転移陣があるパターンじゃねぇか?」

「転移陣って、アレ?」


 つくしが指さした方向には、青い魔法陣が地面に描かれている。

 岩と岩に挟まれてとても見にくい場所にあったため、つくしより二十センチは高い駆と友也は目につかなかった。


「流石つくしちゃん。低身長の代償に発見能力があるってことだね」

「まだ成長期ですが?!」

「それにしても目立ったモンスターが居ないのに転移陣だけ、か……」

「珍しいの?」

「そこまでメジャーではないな。あの類いの魔法陣は罠の可能性もある」

「罠か~。友ちゃん、八つ裂きにされたりとかしたよね。今思い出してもウケる」

「あれは律儀に『罠です』って書いてあったろうが。なのに突き落としやがって、テメーあれは一生許さねえからな」

「二人ともー! これ『上階行きます』って書いてあるー!」


 どうにも便利な魔法陣だった。

 万が一の分散を防ぐためにせーので魔法陣に乗る。

 視界が揺らぎ浮遊感に包まれる。そしてチン、と言う音と共に全身が安定した。


「どこだここ」

「八十七階だってさ~」

「麻◯台ヒルズより高えじゃねーか」

「こりゃ僕らも億万長者だね」

「高度で収入が決まるなら毎日飛行機乗るわ」


 二人がもたもたと周囲の様子を伺う中、早々に角を曲がっていったつくしが「ぎゃー!」と大声を上げる。

 間もなく角の向こうから火柱が上がり、つくしが頭を抱えて逃げ戻ってきた。ほぼ全裸で。


「あわわわわわドラゴン! ドラゴンだよ二人とも!」

「おっ、ダンジョンボスかな? 愛されてるね~つくしちゃん」

「なんか火炎放射みたいなの当たったんだけど?! 大丈夫?! わたし死んでない?!」

「うん。死んだのは服だけみたい」

「え゛」


 うわあああんと泣き声を上げ、近くの岩場に隠れるつくし。


「これお気に入りの服だったのにぃ……賠償請求してやるううう」

「ドラゴン相手に裁判持ちかけんな」

「ダンジョンから出たら破壊されたものは戻るから大丈夫だよ~」

「なにそれ便利」


 当のドラゴンはと言うと、奥から出てくるどころか動いている様子すらない。侵入者を拒むだけの機能かもしれないと思い、駆は角からチラリと覗き込む。


「うお! 友ちゃん見て! 全裸仁王立ちで腕組みしたマッチョの首からドラゴンが生えてる!」

「規模のでけぇろくろ首かよ。ってマジだキモっ!?」

「見て見て、イチモツも立派だよ。惜しいな~後一個何か生えてたらケルベロスだったのに」

「ケルベロスは三つ首じゃボケ」

「え、だから二本は生えてるじゃん」

「お前の脳内だと股間は頭なのか……?」


 二人のやり取りに気づいたようで、ドラゴンが口を大きく開ける。およそ全裸のマッチョから生えているとは思えないほどまともな造形のドラゴンの口に、熱気が煌々と溜まっていく。


「やべぇ火炎放射だ!」

「どうせ服だけ燃えるんじゃない?」

「バカ野郎! 相手は変態のマッチョだ、男は消し炭にしてくるに違いねぇ!」

「う~ん、炭だとタンパク質がないし、ウェルダンくらいに加減してくれるんじゃない?」

「どのみち焼き上げられてんじゃねぇか!」


 ドラゴンのチャージが終了し、火炎が口元から溢れ出す。


「助けて友ちゃ~ん」

「うおおおおこのクソ無能うううう!!」


 口調とは裏腹に俊敏な動作で、駆が友也をドラゴンに向かって投げつける。

 ドラゴンが火炎を放ち、南無三、と駆が十字を切ったその時。


「土!!!!!!!!!!!!!!」


 一般名詞が叫ばれ、ダンジョンの天井と地面が同時にせり出す。

 上下からせり出した土が友也と火炎の間でシェルターのように繋がり、彼は一命を取り留めた。

 とは言え、土壁に衝突した友也は全身打撲していた。


「え、何今の? 魔法? 嘘でしょ? ダサ」

「友ちゃんはツッコミしか能が無いんだよ」


 省略詠唱もビックリの一般名詞一語、それもたった二文字が叫ばれて現れた土壁を見て、つくしが全裸なのも忘れて呆れ顔をしている。


「て、てめぇら……人が死にかけたっつーのに……」

「ドラゴンブレスで死ぬのって熱いのか痛いのかどっちなんだろうね」

「ダサ魔法の罰として友也くんで試すと良いと思いまーす」

「つくしはダンジョン初回なのに適応が早くて偉いなァ!? あと駆お前は安易に宗教を混ぜんな戦争が起きる」


 ボケを放置しない友也に駆が感心していると、ドゴォッと音がして土壁が粉砕される。ドラゴンが自らの鼻っ柱をぶつけて破壊したようだ。ごごご、と唸り声が響く。


「ほら間取りを考えないからドラゴンの鼻が当たってる」

「土壁は盾であって部屋の壁じゃねーんだよ!」

「てかドラゴンくんちょっと本気来るんじゃない? 来るんじゃない?」

「テメー煽ることしかできねーのか!」

「屈伸しようか!?」

「膝ごとへし折るぞゴミ」

「それよりわたし服どうすればいいの?!」

「うっせーロリ! ダンジョン内は適当に念じたりすりゃ思い通りになんだよ!」

「え、ほんと? じゃあそうだな~~~えいっ」


 ぽひゅ、と間抜けな音がし、直後につくしが嬉しそうな声を出す。


「見て駆くん! メイド服! 可愛くない?! 一回着てみたかったんだ~~」

「どれどれ。お、ほんとだ。黒と白のクラシカルなメイド服だね。しかもミニスカノーパイと来たらこれはもうコスチュームプレイの領域。とうとう僕もロリコンの深淵へと足を踏み外したわけか」

「踏み外した一歩で闇に堕ちすぎだろ」

「まだ全身成長期だもん!!!」

「あ、友ちゃん、ドラゴンが次の一手をかましそうだよ」

「全部俺に押し付けんなああああッ!」


 ネクストドラゴンブレスの色は青。温度が地球基準であれば、先程よりも強力と言うことになる。


「こういうのは根本を殺せば死ぬんだよ!!!! 剣!!!!!!!!!!!!!」


 恐ろしく青いブレスをチャージするドラゴンの頭は無視し、仁王立ちの全裸に向かって突進しながら一般名詞を叫ぶ友也。


「ダッサ。厨二病の二年後って後遺症でおかしくなっちゃうのかな?」

「一周回ってシンプルな言葉にこそ魂が宿るって感じなんじゃない? 聞いたことないけど」


 緊張感なく会話する二人を尻目に、「うおりゃあああああああ」と西洋風の剣を振るう友也。その様は斬ると言うよりかは、素振りのモーションだった。


 ゴッ。


 と重い音がする。


「マジか」


 友也は目を丸くした。

 剣は腕組み仁王立ち全裸マッチョの左前腕に当たっただけで、全く斬れる様子がない。本当に当たっただけである。


『うん……?』


 居眠りから目覚めた時のように、マッチョがびくりとした。体勢は変わらず腕組み仁王立ちのまま、低く紳士的な声でマッチョが続ける。


『おっと……来客か。これは失礼した』

「お前はどこから喋ってんだよ」

『私の声は、ここから』

「腕組みしたまま指示詞を使うな。どこだよ」

『それは些末なことだ。それよりお客人、強いな』

「そりゃどうも。バカに毎日振り回されてるんでね」

『いや、君ではない』

「なんだとこのクソ変態野郎」


 腕組み仁王立ち全裸マッチョドラゴンに攻撃の意志がないと判断し、友也は剣を下ろす。

 するとドラゴンの首がにゅいーっと動き、駆の眼前に迫る。


「あ、こんちゃー。座右の銘すら他人任せこと、各務原駆だよ~」

「一生成長期こと、星崎つくしです!」

「貴様らは自己紹介攻略講座を三十時間ぐらい見てから出直せ」

『ふむ。カガミハラ・カケル殿。折り入って頼みがある』

「僕に? あ~残念だけどドラゴン用の服は持ってないんだー。あ、ドッグウェアを伸ばせばそれっぽくなるかな?」

「みみっちいネックウォーマーみたいになるだろが。そもそも服を着るべきは人間っぽいこっちの下側(?)だ」


 ドラゴンが首を振る。


『頼みと言うのは、そちらの世界にいるかもしれない姫様の捜索なのだが……』

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