第10話 履歴書
「いらっしゃいませー。って、タクトか。オーナーは事務所にいるぞ。急げ」
タイガにそう言われて、俺は足早にコンビニ裏の事務所に向かう。コンビニ裏はダンボールが多く歩きにくいが、その合間を上手く進んでいった。
コンコン。
「はーい、どうぞ」
ガチャ。
「失礼します」
中は一昨日訪れた時とあまり変わりはない。強いて言えば、その時は気づかなかったのだろうか、インコが鳥籠の中におさまっていた。時々、バサバサとハネを動かすので、俺はそれに少し驚いてしまう。
「やっと来たわね。さ、座って」
促された俺はこれから何があるのか少し緊張しながら椅子に座った。マオは書類をガサガサと調べ、一枚の紙を持ってきた。
「これ、一応履歴書なんだけど、書けるとこだけ書いて」
パッと見、書けるのは名前と住所だけだった。学歴の欄には有名魔法学校を書きたいし、職歴もエキスパートレベルの冒険者と書きたい。特技などの欄には初級から上級レベルの幅広い魔法を使えると書きたい。しかし、こちらの世界ではそれらは無意味。だから俺は、名前と住所だけを書いて、「終わったぞ」とマオに言った。
「やっぱりこれぐらいよね……。向こうの世界での歳は?」
「二十歳だ」
「そう。じゃ、二十歳ということにしましょう。ちなみにタイガは二十一歳でミユキが二十二歳、そして私が二十三歳」
「えっ! タイガとミユキは向こうの世界では俺と同じ歳だったぞ」
「タクトの言うタイガとミユキは、向こうの世界での話で、こちらの世界では別よ」
「そ、そうか。しかし、どこからどう見ても俺の知っているタイガとミユキにしか見えない」
「まあその辺は後々慣れてくれればいいわ。さ、履歴書を書くのは終わったから、仕事の説明でもしましょうか」
「俺にこの仕事、できると思うか?」
「タクトの学習能力は高いはず。だから、できるわよ」
「そ、そうか。ありがとう」
「これ、コンビニの制服ね。その上から着ちゃって」
俺は渡されたコンビニの制服を着て、「いらっしゃいませー」と言ってみる。するとマオは、「似合ってるじゃない! その調子!」と返した。
もう一度「いらっしゃいませー」と言うと、インコが「いらっしゃいませー」と真似をした。それを見たマオは、噴き出して笑う。それにつられて俺も噴き出して笑う。インコのおかげで俺はリラックスでき、とりあえずはやってみようという気になってきた。
「それじゃ説明するからついてきて、タクト」
マオに促され、俺はマオの後ろについていく。
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