第8話 目覚めると……



「タクト……タクト……」

(誰かが俺を呼んでいる……)


「タクト……目を覚ませ……」

(誰だ……)


 目を開くと、そこにタイガがいた。


「ようやく目を覚ましたか」

「俺……」

「ああ動くな! まだ体が痛むだろ」


 上半身を起こそうとすると、体に激痛がはしる。


「まあ、ゆっくり休みな」


 タイガの言葉に甘えて、目を閉じる。その俺にタイガは耳元で、「良く耐えたな。こんな細長いお前にしちゃ上出来だ」と言った。


「俺はただ殴られていただけだ。全然良くない」と返そうとしたが、痛みからか言葉にできなかった。

 タイガは俺に毛布をかけ、部屋から出ていった。そう暗闇の中で感じた。

 タイガが部屋から出ていった後、俺はうとうとと眠くなり、見知らぬ部屋の中で眠りに落ちた。



 ヒューッ!

(ん? これはやかんの音? なぜやかんの音が聞こえるんだ)

 目を開くと、ちょうどミユキがガス台のスイッチを切って、カップにお湯を注ぐところだった。

 カップにお湯を注いだミユキは、それを持って俺の元にやって来た。


「起きれる?」

「ああ」


 体に痛みがあるが、前よりは少しましになり、起きることができた。ミユキはカップを俺に渡す。


「コーヒーよ。飲んで」

「あ、ありがとう」


 まだ熱いコーヒーをすする。部屋には時計の秒針の音とコーヒーをすする音が不器用に響く。

 コーヒーを飲み終えた俺は、「ここはどこだ?」とミユキに訊いた。すると、「ここはあなたの部屋よ」と応えた。

(そう言えば、アパートに案内してもらっている途中だったな)


 俺は周りを見渡し、「冷蔵庫にテレビ、布団もある。1Kってところか、快適そうだ。本当にここに住んでいいのか?」と訊くとミユキは「それはオーナーに訊いて。もう少しで来ると思うし。それと仕事の時は敬語でお願いね」と返した。俺は黙って頷いた。


 ガチャ。


 噂をすれば何とやら。マオはエコバッグに食料品や湿布などを詰め込んでやって来た。


「ただいまー」

「おかえりなさい、オーナー」

(ここは俺の部屋だよな……?)

「おっ。タクト、起きたか」

「おかえり」

「ただいま。これ、ハンバーグ弁当。食べなさい」

「えっ。いいの? 悪いな」

 俺はその温かいハンバーグ弁当を頬張り、「タイガは?」と会話を続けた。

「タイガは自分の部屋にいると思うよ。そうですよね、オーナー」

「そうだな。今頃は寝てるんじゃない」

「そう言えば、もう十一時だな。俺、どれくらい眠ってたんだ?」

「ほとんど一日」

「一日か……。世話になったな」

「きちんと恩返ししてもらうからな、タクト」

「はいはい、わかりましたよ」


 そして、夜も遅くなってきたので、そろそろ解散することになった。

 帰り道を心配したが、マオもミユキもそれにタイガもこのアパートに住んでいるようで、帰り道に関しては安心した。しかし、この先どうなるのか、それが心配になってきた。

(なんか近すぎないか、俺達)

 心の中で、そう呟いた。



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